異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第126話 ぺけべるが鳴らなくて

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「だから、売れるからいいじゃないか」

 ノだ。

「だからって、どうして勝手にそんな高額な商談をまとめて来るのですか!」

 ノだ。

「儲かるからええやろって思ってだな」

 ノだ。

「お金を出すのはこちらなんですよ!」

 ノだ。

「儲かればいいやないかい」

 ノだ。

「言い方を変えただけで言ってることが寸分変わってませんよ。それはダメです!」

 ノだ。ちょっと、ちょっと待つのだ、ユウ。

「だけどそ……どうしたオウミ?」
「はぁはぁ。お主はもうちょっと魔王の正しい使い方を学ぶべきだと思うノだ」
「なんかその言い方だと、俺が間違っているみたいじゃないか」

「ひと言ずつ伝言をするのに、毎回我を使うのは間違っているノではないか?」
「じゃあ、ふた言ずつできるようにしてくれよ」
「そういう問題ではないノだ。毎回文言を転送する我の身にもなるノだぷんぷん」

 雪で身動きがとれなくなった俺は、ミノ国にいる侯爵たち(ってかレクサス)と、オウミの特殊スキル「ぺけべる」で連絡を取り合っている。
 これは3秒程度の短い文言を、遠くにいる人に瞬時に伝えるという便利なスキルである。ただ、魔力消費は半端ないらしい。

 ぺけべる。……その名の由来は不明である。ポケベルと打とうとして、その単語に慣れていない作者がキータッチミスをしたのではないかと、まとこしやかに噂されているが、そんな事実は確認できていない。ようなそうでもないような。

「誰になんの言い訳をしているノだ?」
「説明って言えよ」

「それはともかく、お前も冬になったら短気になったな。カルシウムが足りてないのではないか。ここんとこ怒ってばっかりじゃないか」
「ともかくで誤魔化したノだ。冬とか関係ないノだ。カルシウムなんかも知らないノだ。ともかく我のぺけべるスキルを使ったひと言伝言ゲームはもう止めるノだ!」

「うぅむ。魔王のくせに人間様に逆らうとは、不遜なやつめ」
「いや、それはお主の考え方が間違っているのだヨ」

「あ、じゃあ、ミノウ。お前が代わり……」
「あ、イエローコーンの在庫が見つかったらしいのだ。さっそく爆裂コーンを作ってくるのだヨ、それっ」

 逃げたな
 逃げたノだ

「じゃあ、オウミ。伝言の続きだ」
「もういい加減にするノだ! 我は爆裂コーンを食べてくるノきゅぅぅぅ」
「行かせるものか」
「ク、クラーク、笑って見てないで我を助けるノだ!」

「お師匠様がどうしてそんなに楽しそうなのか、俺はやっと分かりましたよ」
「た、たの、楽しくなんかしてないノだ。いいから助けるノだ。そうだ、クラークがミノ国に行ってくれば良いノだ」

「クラークはミノ国には行ったことがないから、それは無理だろ」
「そうです。ミノには国立図書館がありませんからね」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬノだ」

「しかし、ユウ? 手紙を書けば良いのでは?」
「書くのが面倒くさかったんだよ。仕方ない、そうしようか」
「自分が面倒くさいからって、我を面倒くさがらせてどうするノだ。こやつめ、がぶっ」

「あ、痛っ。このやろう。また噛みつきやがったな! あぁぁぁかゆいかゆい。今度はめっさかゆい。人さし指がかゆい」
「今度は大量にアレルギーの元を送り込んでやったのだ。3日は苦しむが良いわははははきゅぅぅぅぅ」

「このやろう。回復魔法をかけろ!」
「イヤ、なノだ。誰がお前なんかにきゅぅ」
「あぁかゆい。こんにゃろめ。羽根をちぎって合い挽きの肉にしてやろか」

「そんなことをしてみろ。ミヨシが悲しむノだ」
「なんでいちいちミヨシの名前がでるんだよ。もう怒った。こうしてくれるわこにょこにょにょにょ」

「きゃぁははははははっはっは、ほほほひょほほほほ。やめろあははは、やめてわははは、くすぐるでないのだぁわははは」
「むにょほよこしょこしょひょろひょ」
「やめわはははは、くすぐったきゃはははは、わははははきゃぁはははは」

「なるほど、そうやって好素を振りまくわけですね?」
「「違うわ!!!」」


 一方。ミノ国側では。

「まぁまぁ。イクシブ。そんなカッカするな」
「レクサスです! 侯爵までそんなネタを使わないでください」
「とりあえず、ユウがやる気になってくれてよかったじゃないか。もうすっかり回復したようだ。ホッカイ国さまさまじゃないか」
「それはまあ、そうですが。それにしても、いきなり費用を使いすぎです」

「レクサスは使いすぎを怒っているのではないだろ?」
「え? いえ、そんなことは」
「相談もなしに、勝手に進めたことを怒っているのだろう。それは俺も同じだ。だが今回の場合、その場での即決が必要だったことは認めてあげよう」

「それはそうですが、その場合だって事後報告ぐらいはいただかないと困ります」
「あの性格からして、それは無理っぽいな」
「そんなことを言っていたら組織としての運用が」

「だから、あの性格は組織には向かないと言っているんだよ」
「それで一番困るのは侯爵様ですよ?」
「ああ、だから私から提案だ」
「といいますと?」

「ユウに予算を付けよう。その中でなら好きに使っていいということにしておくのだ」
「ふむ。しかしあの方はそれに従ってくれますかね?」
「大丈夫だと思うよ。ニホン刀の即売会のときを覚えているか」

「それはもちろん、覚えていますとも」
「あれ、影で仕切っていたのは全部ユウだ」
「は、はあ。そうじゃないかなとは思っていましたが」

「それに、ダマク・ラカス包丁も金めっきも、値段や販売、生産予定量まで決めたのもユウだ」
「え? 値段までですか?」

「それにこんな面白い話をタケウチの人に聞いた。ステンレス包丁という商品がある。これを売るためにユウは、ダマク・ラカス包丁を魚裁き職人に無料で3本配布した」

「ええと、それはステンレス包丁とは無関係ですよね? 無償提供はダマク・ラカスの宣伝のためだと思うのですが」

「普通はそう思うだろ? ところが、ユウはダマク・ラカス包丁を有名にすることで客の関心を引き、それを見物にやってくる客に、もっと安いが錆びないという特徴を持つステンレス包丁を売ろうとしたんだよ。それでも1本5,000もするのだが、客はダマク・ラカスの値段を知っているだけに安いと感じてしまうんだと」

「それはただの偶然ということでは?」
「いや、ユウは最初からそう言っていたそうだ。タケウチの主力商品はあくまでステンレス包丁で、そのためにダマク・ラカス包丁を使うのだと。実際に1本5万のダマク・ラカスは、先月は4本売れただけだ」
「それでも20万の売り上げですね」

「うむ。利益率が高いから儲けにはなるが、それを必要とする市場がそんなにはない。商売としてはうまみが少ないんだ」
「普通の主婦に買える値段じゃありませんからね」
「そうだ。いいなりになるパパがたくさんいるミカちゃんぐらいじゃないと買えないな」

「誰ですかミカちゃんって。それでステンレス包丁というのは売れているのですか?」
「今のタケウチの中では最大の稼ぎ頭となっているよ。利益の半分以上がステンレス包丁だ」
「え? そこまでですか! ちなみに本数はどのくらい出てますか?」

「先月、ステンレス包丁は780本売れた」
「ええと。780本×5,000だから、390万ですか! ひと月で!?」
「計算が速いな。それでも注文残がまだ500本以上あるらしい。今月は増産して1,000本/月体勢とするそうだが、それでも足りそうにないと」
「たった1つの商品でそれだけの売り上げを……。それもその宣伝のたまものですか」

「思えばニホン刀もそうだっただろ? あの剣技大会をユウは利用したんだよ」
「はい。え? あれも宣伝だったのですか?」
「ハルミさんの話によれば、剣技をした直後にニホン刀の直売を行ったのも、観客を引き連れてオークションという方式で売ることを発案したものユウだそうだ」

「あれは計算ずくのショーだったのですね」
「それも、ニホン刀があそこまでに切れ味を見せなければ意味がなかっただろうが、ユウは自信があったようだ」

「まだ12才で、恐ろしいほどの才覚ですね」
「12才とは思わないほうがいい。ユウはカミカクシだからな」
「ああ、そうでした。ついあの外見に騙されてしまいます」

「だから、ユウに経済観念がないわけじゃないんだ。今は決めごとがないから好き勝手にやっているように見えるが、それでもジャガイモの生産として使うのは3ヘクタールと言っていた」
「そうでしたね。ジャガイモにしては少ないなとは思いました」

「それだけ慎重なんだよ。おそらくはだんだん増やしてゆくつもりなのだろう。手始めとして3ヘクタールから始めるということだ」
「なるほど。その程度には信用してもいいよ、というお話ですね」
「ああそうだ。所長なんだし、自分の裁量で使える予算があっても不思議ではないだろ」

「分かりました。それではいくらぐらいにしましょうか」
「そうだな。こちらもお試しだ。来年の春までは500万ぐらいにしようか」
「あと半年弱ですね。ということは年間1千万ということですか」

「そのぐらいなら問題なかろう?」
「そうですね。なんとかします」
「レクサスも慎重だな。ただし、月に1回は書類で報告を入れさせよう。ぺけべるではオウミ様の負担が半端ないし、記録が残らんからな」

「それとまだ問題があります。予算案です。次のトヨタ家の予算会議で報告することになっていますが、これだけの予算案を通すには、しっかりした計画書の作成と綿密なプレゼンが必要となります」

「そこはうまくやるさ」
「自信がおありのようですが」
「レクサスが」
「丸投げ!!?」
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