異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第127話 このきなんの木

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「ということで、資金の算段はついたぞ」

「いまごろになって?!」
「あれだけ自信たっぷりに俺にまかせろと言っておいてヨ」
「トヨタ家がバックについているとはいったい?」
「エラそうに言ってたのに、許可をもらわないといけない立場だったノか?」

「ということで、資金の算段はついたぞ?」

 なんか俺の評価がだだ下がりなんだが、いったいどうしたことだろう。

「所長。トヨタ家だって打ち出の小槌はないのですから、いくらでもでてくるお金なんてありませんよ」

 秘書にまで意見された俺は、海より深く反省し(ふてくされ)て夢の中に逃避行するのであった、ぐぅー。


 そして雪に閉じ込められて何日目かの夜が明ける。

「ふぁぁあ。おあよ」
「…………」

 返事がない。おっぱい揉んだろか、むに。

「あぁん」
「所長!!」

 おおっと。ミミックの宝箱まで開けてしまったようだ。痛い痛い痛い。起き抜けに痛い。なんでモナカはそんな凶暴になったんだ!

「ミヨシさんに厳命されてるんです!」
「なにを?」
「所長のセクハラ行為を許すなと」

 うぅむ。この世界はもっと自由奔放なものだと思っていたのに。やっぱりこいつも帰すべきだったなぁ。

「そんなことより所長」
「お、おう」

「「することがありません!!」」

 そうなのだ。タケウチと連絡は取れるので、最初の数日は打ち合わせやら食糧確保の算段やらでそれなりにすることがあったのだが、それが終わると途端にすることがなくなったのだ。

「ゲーセンとかあればいいのになぁ」
「なんですか、それ?」
「卓球もなしか」
「あれはピンポン球が必要なのだヨ」

 この世界にプラスチックというものがない。灯油もない。ビニールもない。あるわけねぇ。おらが村(世界)には石油がねぇ。

「思えば俺のいた世界で遊ぶっていうと、必ずどこかにプラスチックがあったんだな」
「あれは便利なものなのだヨ」

 俺の世界を見たことのあるミノウが同意してくれた。

「でも、ここにだって子供はいるだろ? 冬の間、子供たちはなにをして過ごすんだ?」
「コマとか回して遊びますね」
「コマかぁ。モナカはやったことあるのか?」
「そりゃあ回したことぐらいはありますよ。しかし、それが長くやれるほど楽しいかって言われると……」

 ですよね。ましてや大人だからなぁ。12才だけど。

「あ、エルフにはこんなコマがありますよ」

 と言ってユウコが取り出したのは、1個のコマだった。

「ふむ、見たところ少し軸が長いだけで普通のコマのようだが」
「これはエルフの里だけに生える、このきなんの木、という魔木から作ったコマなのです。ちょっと回してみますね。くるりんぱっ」

 そのネーミングセンスだけは、なんとかならんものか。

「慣れるしかないのだヨ」

「あ、回ってる」
「うん、ちょっと傾きの振れが大きいけど回ってるな」

 ……

 で、それがどうしたと?

「分かりませんか?」
「分かるか!! 普通のコマじゃないか」
「あれ、所長。ちょっとおかしいですよ」
「おかしいか? 特別変わったところはないと思う……あれ?」

「おかしいでしょ?」
「そうか。いつまで回るんだ、このコマは?」

「永遠に、というわけにはいきませんが、上手に回せば30分以上回ってますよこれ」
「ほぉぉ。30分はすごいな。これがエルフの遊びなのか。どうしてこんなことが起こるんだ?」

「このきなんの木には、歳差機能とかなんとかがあって」
「なんだって?」
「つまり、コマの回転とは別に、コマの回転を助けるための回転を内部構造が行うとかなんとか」

 とかなんとかが多いな。ジャイロスコープの説明のようだが、俺もそこはよく分からん。ということは、これは中身の見えない地球ゴマのようなものか?

「昔、エルフの里で行き倒れになっていた人間を助けたら、そのようなことを教えてくれたらしいです。私が子供の頃の話ですが」

「そういえば、エルフって長命なんだよな。ユウコはいくつだ?」
「えっと、多分80才ぐらいです」

「多分?」
「ええ、もう何年も数えていませんからね。私たちにとって年齢なんてそんなに気にするものじゃありません。だいたい分かればいいのです」」
「それじゃ正確な自分の年は分からないのか」

「生まれた年のことは記録にありますから、そこから調べることは可能です。それでも何百年も経つと記録も当てにならなくて。長命種の心意気です」

「それ、心意気っていう言葉の意味が違がくね?」
「むしろ宿命といったほうが近いような、それで、エルフの子はいつもこのコマで遊ぶの?」

「そうよ。これをたくさん回して、ただぼーっと見ているのが、冬のエルフっ子の心意気よ」
「いや、それも心意気とはちょっと違う」
「私はエルフっ子って言葉にツッコみたいですが。でも、ただぼーっと見ているのはつまらないですよねぇ。倒れてくれればまた回せるのに」

 高機能が仇となったわけである。

「しくしくしく」
「そんなことぐらいで泣くなよ! そうだ、これを使った遊びをしてみよう」
「え? どんな遊びですか?」
「このコマ、もっとないか?」

「えっと、手持ちは4つだけです。このきなんの木があればいくらでも作れますが」
「その木じゃないとダメなのか?」
「ええ、エルフがこのきなんの木をコマの形に加工することで、コマに精霊を宿らせるのです。それがエルフの」
「心意気はもういいから」
「固有スキルです」

 フェイントかけやがった!?

 しかし、精霊が宿ってジャイロスコープをするのか? また分からん世界観がでてきたな。

「考えたら負けなのだヨ」
「俺は考えるのが仕事なのだがな」

「じゃあ、そのコマを俺にもひとつ貸してくれ。モナカは底の浅いお皿を探してきてくれ。サイズは両手のひらぐらいあればいい」

 モナカが食堂から小皿を持ってきて、ゲームの開始である。

「これをいったいどうするの?」
「とりあえず、競技者は俺とユウコでやろう。ユウコのコマは白で、俺のコマは少し茶色がかかっているから区別はつくな。コマを持ったまま皿に中に置いて、せーので回す。いくぞ、せーのくるりんぱっ」

 すると皿の上で2個のコマが回る。

 回りながら重力によって中央部に寄って行く。当然そこで衝突する。そしたらはじきあって相手を皿の外に……。

「はじきませんね?」 
「くっついて回ってんじゃねぇよ!!」

 最初だけは少しだけはじきあったが、すぐにくっついて回るだけになってしまった。これでは勝負にならない。

「なんでケンカしないんだよ!!」
「エルフは暴力は嫌いです!」

 いや、そういうことではないのだが。

「コマがつるつるだからだな。これ、縁にギザギザをつけて……ダメですよね」
「そんなことしたら絶交ですからね」
「それほどのこと!?」

 涙ぐんで言いやがった。

 俺はベーゴマもどきをやりたかったのだ。盤の上でベーゴマをケンカさせて、はじき出したほうが勝ちというやつだ。

 あれは糸で巻いてかなり速い速度で回転させるのだが、これだけよく回るコマなら手でも充分ケンカになると思ったのだ。しかしふたつのコマはぶつかっても軽くはじくだけで、皿の外に押し出すようなケンカにはならなかった。

 だから縁にギザギザをつけてよくケンカさせようと思ったのだが。

「ほんとに絶交しますからね」

 分かったから。涙混じりで言うな!

 しかしこれではゲームにはならない。勝ち負けが決まらないゲームほど面白くないものはない。将棋や囲碁だって勝ち負けがあるからこそ面白いのだ。

「将棋や囲碁を作れば良いのではないかヨ?」
「俺、あれ嫌い」
「嫌いなのかヨ?!」

「うん、だってあれ頭を使うじゃん?」
「お主の頭のできがよく分からんヨ」

 同じ理由でオセロも倉庫番も嫌いだ。脳トレ? ふざけんじゃねぇよ。

「なにを勝手に怒っているのだ。じゃあ、どうするのだヨ?」

 うぅむ。問題はそれだ。皿をもっと小さくするか。それじゃ手が邪魔になって回しにくいだけか。もっとたくさんのコマを入れたらどうだ? 真ん中で仲良く回っている姿しか浮かばんな。いっそ平らな板にしちゃうか。それじゃ、それぞれが勝手に回っているだけになりそうだ。

「ユウさん、どうしたんですか?」
「ユウコは初めて見るのね。所長はああなるとなにを言っても聞こえないのよ。しばらく放っておきましょう。あ、そのコマ、私にも回させて」

「うん、一緒にエルフの醍醐味を味わいましょう」
「さっきは心意気とか言ってなかった?」
「どっちでもいいのよ、せぇのくるりんぱっ」

 適当を絵に描いたようなエルフだ。

「モナカ、もっと平らな皿はないか?
「大皿ならありますが、それでも角度はそんなに変わりないですね」

「うぅむ。どうしたものか。回しながら考えよう。くるりんぱ」

 あれ? 回らずにすぐコケたぞ?

「ユウさん、呪文の最後の『っ』が抜けてます。それじゃ魔法が発動しません」

 呪文だったのか、これ!?
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