異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第145話 洞窟

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「こんなものまで用意していたのか」

「食料は不足するだろうとは思っていたから、生産しておいたんだ。ただ、ポテチや爆裂コーンはしょせんはお菓子だから、あまり腹の足しにはならないとは思う。だが時間かせぎくらいにはなるだろう。子供が帰ってきて空腹を訴えたときに、晩飯ができるまでお菓子でも食べてなさいよ、って言うアレだ」

「ユウの言っていることがまったく分からんのだが。まあいいや、俺は運べばいいんだよな」

「ミヨシに渡せばうまく使ってくれるだろう。トウモロコシはすでに乾燥させたのがたくさんあったので、石臼で引いて粉にしてもらった。これは大量にあるのでまだ供給が可能だ。なくなったら言ってくれ。ただ、衣料までは想定外だったから慌てて集めたが、足りなかったらエルフの里から買い上げるから連絡してくれ」
「お前でも先の読めないことがあるんだな」

「俺は先のことなんか読んだことねぇよ。その場でやるべきことを考えてるだけだ。ミヨシがまさか近隣住人まで助けるとは思ってなかったからな」
「俺もちょっと驚いた。あれはユウの指示ではなかったのか」

「俺はそんなヒューマニズムは持ち合わせちゃいない。あれはミヨシの独断だ」
「ミヨシも大胆なことをするな。俺たちに指示するミヨシは、お前が乗り移っているみたいだったぞ」

 なにそれ、怖い。

「あれは素だと思うがな。ともかく、これらの食料と衣類は持って行ってくれ。それと、これも贈呈するから一緒に運んでくれ」
「これは、イテコマシの大盤じゃないか。一番高いやつなのに良いのか?」

「ミヨシからのリクエストだ。避難民も水が引いたらすぐに帰れる人は良いが、家が流された人などしばらく滞在する人もいるだろう。そうしたときに、一番問題になるのは『退屈』だ。それは意外と辛いんだよ」

「そんなものか。食べさせてもらって贅沢言える立場じゃないと思うのだが」
「最初のうちには感謝もしてくれるだろうさ。だけどいつまでもそういうわけにはいかないのが人間だ。退屈すると犯罪をやりかねん。だから退屈しのぎにこれをやらせようというわけだ」

「俺には経験がないから分からんが、そういうものなのだろうな。それで大人数でもやれるこの大盤なわけか」
「それを4台用意した。コマは50個だ。小さい子を優先で、交代でやってもらうことになるだろう」

「あれは大人でも面白いけどな」
「それには俺も同意する。しかし、ミヨシはその先を考えているようだ」
「その先?」

「そこで面白さが広まれば、彼らが家に戻ったときにこのゲームの宣伝をしてくれるだろう。すると新たなユーザーの獲得に繋がる」
「おえ? それが目的なのか!?」

「そうみたいだな。なんの目的もなくタダでくれてやるほどお人好しじゃないな、タケウチの家系は」
「さっきは犯罪抑止とか言っていたようだったが?」
「それは俺の建前論だ。そういう建前があると、本質を誤魔化しやすいだろ?」
「誤魔化す必要がどこにある?」

「これが宣伝のためだとバレてしまったら、宣伝効果がなくなるからだよ。他人の思惑に乗ることを好むやつなんていないからな」
「商売ってのはそういう世界なのか?」

「俺はカイゼン屋だから、そんなこと思いつきもしなかった。タケウチってけっこうしたたかな一族みたいだ」
「ふむ。難しいな。でも勉強になった」
「魔王とは関係ない勉強だけどな」

 ここにはテレビやラジオといったメディアがない。だから宣伝というものが難しいのだ。

 人が多く集まる場所。それだけが唯一の宣伝場所だが、そこにただ商品を並べても見た人が買うだけとなる。
 気に入った人は口コミをしてくれるかもしれないが、その宣伝効果などわずかでしかない。ブームにならなければ、ミカちゃんはパパに買ってちょうだい、とは言ってくれないのだ。

「誰?」
「あ、いや、こっちの話。それと、魔王は常に誰かひとりこちらにいるようにしてくれ。連絡が取れなくて苦労したんだ」
「分かった。交代でこちらに来よう。ただ、ミノウだけはあちらの復興に集中したいようだから、俺とオウミで交代する」

「それで頼む。それと手が空いてからでいいから、タケウチに魔回線のアクセスポイントを設置してくれないか」
「ああ、そのつもりだ。ケガ人の治療が済んだらやろう。年内には開設する」
「そんなにかかるものなのか」

「ああ、あの回線は俺の魔力を使うからな。タケウチに魔力を貯めないといけないのだ。それをエネルギー源にして回線をつなぐんだ」
「へぇ。けっこう大変なんだな」
「現在のアクセスポイントが、図書館ばかりになっているのはそういう理由だ。それも俺を受け入れてくれたところに限ってだ」

 図書館で本を読んでいるうちに魔力が溜まったのね。カンキチにとっては一石二鳥だったわけだ。

「拒否されることもあったのか」
「なにしろ俺の風貌がやかましいわ!」
「今回に関しては俺のせいじゃないだろ!!」

「そうだった。じゃ、この荷物を持って俺はタケウチに戻る。病人やケガ人も増えているだろうし、しばらくは忙しいと思う。オウミと交代する」
「しばらく大変だとは思うが、よろしく頼む。本来ならお前らには関係ないことだったのに、すまんな」

「おいおい、そんな殊勝なユウはユウじゃない。キモチワルイから止めてくれ」
「俺はそういうイメージか!」

 ぴゅ~。

「逃げるように去って行きましたね、所長」
「てか、明らかに逃げたな」
「それでどうしましょう。爆裂コーンならまだまだ増産できますよ」

「そうだな。もっと作っておいてもらおう。ポテチはもう無理か?」
「ええ。ポテチ用のジャガイモは、クズイモをかき集めて作っていましたが、それももうなくなります。正規のジャガイモは大切な冬の食料なのでこれ以上は」

「ああ、無理はしちゃダメだ。冬はこれから本番だからな。食料は大切に保管しておいてくれ。こちらが支援を要請することになったら格好悪いぞ」
「くすっ。そうですね」
「なんだ、なんかおかしかったか?」

「ええ、所長がこちらが、って言ったのがちょっと」
「こちらが? あ、そうかあははは。ここは俺の国じゃなかったなあははは」
「もうすっかりホッカイ国の住人のようです」

「ホッカイ国をこちらと、つい言っちゃうぐらいにはな。もっとも俺はカミカクシだから、ミノ国にしたってほんの三ヶ月くらいいたに過ぎないが」
「そうでしたね。それにしては」
「あちらにもすっかり馴染んでるだろ?」
「いえ、態度が大きいなって」

 はい、すいませんっす。それは生まれつきなもので。

「でも、モナカだってエチ国生まれだろ」
「ええ、でもイシカリ大学で4年過ごしましたから準地元みたいなものです。エチ国も雪の多さなら負けていません。こちらのほうが水分が少ないだけ楽なぐらいです」

「水分?」
「ええ、エチ国の雪はドカ雪といって多量に水分を含んだ雪が降りやすいのです。その重さで潰れる家もあとを絶ちません。でもこちらの雪は、さらさらしていて建物の心配はほとんどありませんね」

「こちらのほうが気温が低いのが幸いか。じゃあ、むしろエチ国よりも住みやすいのかな?」
「ええ、食べ物さえあれば、ですけどね」

 そうだった。結局、そこに戻ってくるんだなぁ。

「あ、グースさんが帰ってきましたね」
「やぁやぁ。モナカさん、ユウさん。1週間のご無沙汰です」

 お前はどこかの司会者か。

「お帰り。倉庫はどうだ?」
「ジャガイモの保存に使えるところはひとつ見つけた。光を遮断できる場所ならいいよな」
「おおっ。見つかったか。この近くか?」
「イシカリ大学の正門前にあった」

 正門前って、ずいぶんと近いな、おい。

「え? そんなとこに倉庫なんてありましたっけ? あの辺って見渡す限り草原だったような」
「その草原に岩山がいくつかあるだろ?」
「ええ、ありますね」

「その下に洞窟がいくつもあるんだよ。そこは1年中気温がほぼ一定だそうだ。イシカリ大学では使ってないそうなので、自由にしていいよってお墨付きをもらってきた」

 洞窟という手があったか。それなら食料保存には最適だ。特にジャガイモは、天敵である光から守ることができる。

「スペースはたくさんあるのか?」
「ああ。昔は軍隊が食料庫として使っていたらしい。どこまで広がっているのか正確には分からんそうだが、入り口近辺だけで軍人1,000人分の食糧を常に確保していたそうだから、今の生産予定ぐらいは楽勝だろう」

「それはいいところに目を付けたな。棚とか照明とかの設置も必要か?」
「棚はあることはあったが、ちょっと強度が不安だった。照明は昔はあったらしいが、現在は使われていないそうだ。おそらく使えないだろうと言っていた」

「軍用の施設か。おそらく改装が必要だろうな。来年の費用に盛り込んでおこう」
「それを借りるのに、費用はどのくらいかかりますか。まさかタダじゃないですよね?」
「タダでいいよって言ってた」
「えぇぇ。すごぉぉい。コスト0で保存できる場所を確保するなんて、グースさん大活躍です」

 そうだろう、もっと褒めろと言わんばかりのグースと喜びはしゃぐモナカに、俺は水を差す。

「それはダメだ」

「「え?」」

 それはダメなんだよ続く。

「どうしてダメなノだ?」
「だから続くって言ってんだろ。ってオウミ帰ってきたのか」
「しばらくこちらにいるノだ。ツッコみ役が必要であろう?」
「助かるよ」
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