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第147話 洞窟その2
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「あぁ、洞窟の中は暖かいな。俺は今日からここに住む」
外は快晴とはいえ気温は氷点下だった。凍えながらここまで歩いてきたのだ。この世界にダウンなどという軽快な防寒着はない。
「所長、一時の感情で強引な決断しないでください」
「だって、暖かいじゃないか、ここ。あの教室よりずっといいぞ」
「それは歩いてきて身体が温まっているからです。外より暖かいといってもここだって10゚Cくらいしかないのですから、動かずにいればすぐ寒くなりますよ。ここは暖房具はないのですから」
「うぐっ。そうだった。ここは倉庫にするんだ。暖房なんか入れちゃ台無しだったな」
「ユウさん、エルフ特製のアザラシの毛皮はどうですか?」
「うんユウコ。さすがはエルフだ。とても暖かい。ただ重くて死にそうだった。これをずっと着ていたら俺は京で着倒れになる」
「じゃあ我は大阪で食い倒れるノだ」
「わけの分からんこと言ってないで視察をするぞ。毛皮はここに脱いでおけ」
グースだけが仕事モードである。毛皮を脱いだらさっぱりした。自分で思っていた以上に汗をかいていた。暖かいを通り越して汗をかいちゃうのかこの毛皮。保温機能はすごいが、もうちょっと機能を落としていいから軽くすることはできないものか。
「冬といってもまだ暖かいですからね。これからもっともっと寒くなります。そのときはこのぐらいのが必要なのです」
ごもっともで。
入り口には簡単な木製の扉があった。シャインが鍵を開けると中は真っ暗だ。
「ちょっと待ってください。いま、灯をつけます」
「それは我にまかせるノだ。ほいっとな」
ここには電気がない。だからアルコールランプとおぼしきものがあちこちにつるしてあった。シャインはそれをつけようとしたのだが、その前にオウミが魔法を使った。
部屋全体がほんのりと明るくなった。まるで壁に蛍光塗料でも塗ったみたいに、手をどうかざしてみても影ができない。不思議世界に迷い込んだみたいだ。
「え? あ、ありがとうござい……ま? あ、あな、あなあなたのあな」
「山のあなたの空遠くかよ。これはオウミだ。ニオノウミの魔王で俺の眷属だ。ミノウと似たようなものだ。あまり気にするな」
「ミノウと同じとは失礼なのだ。我はオウミ……固まったノか?」
「気にするなってのに。いちいち面倒くさいやつだなぁ」
「ユユユユウユウユウさん。なんでなんで魔王様が、そんなホイホイと、でてくるんですか!?」
「いやスクナ。俺はそんな長い名前じゃない」
「ツッコむとこはそこじゃないと思うノだ」
「魔王がホイホイとは出てこないぞ。ゴキブリじゃあるまいし」
「ゴキブリ扱いとは失礼にも程があるノだ」
「余ってるなら私にもください!」
「余ってない、余ってない」
「なんでユウさんだけ、ふたりも魔王様が。ずるいです!」
「ずるいと言われてもな。まだもうひとりいるし」
「はぁぁぁぁっ!?」
なんか非難のニュアンスがある叫び声。
「さ、さん、さんにん。さんにんも眷属に。もうそれ大魔王ですよね?」
「俺は魔法使いじゃない。ちなみに、三人目はあのクラークだぞ」
「ひゃぁぁふょぉぉはゃぁぁぁぁ!?!?」
「混乱しているようなノだ」
「今はカンキチって名前に……聞こえてないよな」
「ユウさん! もういっそ、私も眷属にしてください!」
「できるか!」
「スクナ、それは良い提案だ。私からも頼もう」
「いや待て待て。父親は止める側だろうが。娘をそそのかしてどうすんだ」
「眷属はダメですか?」
「当たり前だっての」
「じゃ、嫁でいいです」
は? へ? ふ? ほ?
「お主がそうなったのは初めて見たノだ」
「そんぐらいびっくりしたんだよ! まだ出会ったばかりの6才児が嫁にしろとか、どこの異世界だよ」
「ここの異世界なノだ?」
「あ、そうか」
「我が子ながら、この子は気立ても良いし美人だし頭も良い。体力もあるしやる気も充分。なによりユウさんに懐いていますし年齢も近い。良い縁談ではないですか」
だからまだ6才の娘をそんな簡単に嫁に出そうとすんな! 溺愛していたと思っていたが、シャインの愛情の方向が分からねぇ。
「そんなこと、突然言われてもだな。俺にだって、都合が」
「どんな都合がありますか?」
「あるようなないような」
「どっちなノだ?」
「なんにしてもそんなの早すぎるだろ! 俺だってまだ12才だぞ。それが6才の嫁って、もう犯罪レベルの話だ」
「いえいえ、この国では珍しいことではありませんよ。結婚はあとでもいいので、とりあえずは婚約ということでも良いですよ」
気が早いにしたって早すぎるやろ。ろくに話もしたことないのに、結婚ってアホかいな。
(スクナは満更でもないようなノだが)
そのとき、唐突に俺の脳裏に浮かんだのが、ハルミが剣を振るう姿だった。
「なんでここでお前が出てくるんだよ!!」
「「「はい?」」」
「あ、いや、こっちの話で、あは、あはははは。気にしないで」
(ふむ、そうだったノか。これは面白いこ……困ったことになりそうなノだ)
「もう! パパはすぐそうやって先走る! 私は冗談で言ったのよ。ユウさんが困ってるじゃないの。そんなに私を放り出したいの!?」
「いや、そんな痛い、ことはない痛いのだが、せっかくの機会が痛いあったの痛いだから、逃す手は痛いから叩くのはやめて!」
「もうその話はなし! 分かった!?」
「はい、すみませんでした」
「し、しか、しかしだなオウミ。灯をつける魔法なんてのがあるんだな」
「じつはミノウに教わったのだ。へりーこぷたーとか言う魔法使いが使っていた魔法らしいノだ」
なにそのメガネの魔法使い。その辺でやめておこう。また、危険域に突入しそうだ。
「その誤魔化し方には無理があるノだ?」
「これは便利な魔法ですね。さすがはオウミ様です」
スクナが誤魔化しに乗ってくれた?!
「いや、これは初級レベルで獲得可能なノだ。スクナなら使えるようになるノだ」
「え? 私ですか?」
「あ、いや、それはちょっと」
「スクナ。お主は魔法が使えるであろう?」
「いえ、まったく。というか教わったことがありません」
「あの、オウミ様……」
「じゃあ、我の言った通りにしてみるが良い。隣の部屋の灯をお主がつけてみるノだ」
スクナは半信半疑でオウミの指示に従い隣の部屋のドアを開けた。そして教わった呪文を唱えた。
「ほいっとな」
あ、ついた?!
「すごいノだ。一発で取得するとは、お主は良い魔法使いになるノだ」
「あ、ありがとうございます。私に、こんな才能があったなんて……知らなかった」
あれ? シャインのやつ複雑そうな顔をしているぞ? こいつなら抱きしめて喜びそうなものなのに、なんか悲しそうに見える。
……まあ、俺の知ったことではないか。それより便利な嫁……違うっっ 部下ができたことを素直に喜ぼう。
「相変わらずなユウで安心したノだ」
「スクナ。お前はまだ魔法を使うことはあいならぬ」
シャインがあいならぬ、とか言いおった。なんだその時代錯誤劇。
「え? どうして? 私、魔法が使えるんだよ? すごいよね。すごく便利だよね?」
「いや。まだ覚えるのは早いと言っているんだ。言うことを聞きなさい。覚えてしまったものは仕方ないが、それを使うのは禁止だ」
「まだ早いって、スクナは6才だろ? うちにも魔法使いがいるが、もっと早くから練習していたようだったが」
「あ、いえ、ユウさん。こちらにも事情というものがあります。口を挟まないでください」
(早いうちに魔法を覚えると、なんか不都合があるのか?)
(我の知る限りないのだ。むしろ早いほうが良いのだ。人の寿命は短いノだ)
(そうだよな。ということは別の理由か)
(うむ。なにやら複雑な問題があるようなノだ。悪いことをしたノだ)
(お前のせいじゃないよ。ただ、これ以上関わらないようにしたほうが良さそうだ)
(なんかもったいないノだが。あの子は才能があるノだ)
「灯をつけてくれたおかげで話が早くなって助かった。この部屋はかつては受付や警備が常駐していた部屋だったようだ。俺たちが使うなら事務室ということで良いだろう。そしてここから先が倉庫となる。シャインさん、案内を頼む」
「はい。ではこちらにどうぞ」
最初の部屋だけは柱が立てられており、壁にも漆喰のようなものが塗ってあった。ミノ国でもよく見られる部屋だ。
だがそこから奥は、岩盤がそのまま露出した部屋であった。
「こちらが第1の部屋です。かつてはここは燃料となる薪を置く場所だったようです」
扉を開けて入ると、30畳ぐらいの広さの部屋であった。そこに木製の簡易棚が作られており、かなりのホコリが積もっている。壊れている棚もあちこちにあった。
かつては薪だったと思われる塊も残っているようだ。あまり関わりになりたくない部屋である。早めに掃除をしてもらおう。
(自分ではしないノか)
(するわけがないだろ)
(そんな断言までされてもノだ)
「えっと、質問なんだが。ここでは燃料といえば薪なのか?」
「はい? それはもちろん。薪の材料にはこと欠きませんので」
「えっと、薪から炭を作ったりとかは?」
「「ナニソレ?」」
ないんかーい! なんと効率の悪い……ってことは、俺が作ればいいのか。
確か炭って木を無酸素状態で加熱するだけだろ? 上質なものを作るのは難しいだろうが、ただの炭ぐらいそこいらで焼けるんじゃないか?
(あれ? タケウチの工房では炭を使っていたよな?)
(使っていたノだ。こちらは遅れているのであろうな)
(誰か人を派遣して、作り方を学んでもらおう)
(ノだ)
「あ、いや。なんでもない。次の部屋に行こうか。そこが本命だよな」
「はいそうです。次の第2が最大の部屋です。そして食料庫でした」
第1の部屋から再び木製の扉を開けて石段を20段ほど降りる。そこには広大な空間が広がっていた。
ここに野球場を作れるのじゃないかと思えるほどだ。オウミが灯をつけたが、奥のほうまでは光が届かなかった。天井も高い。
「これはすごい。なんてでかい部屋だ。どこに食料を置いていたんだ?」
「その辺に適当に置いていたようです」
「そ、そうか。適当で良かったんだな。これだけスペースがあればそうなるか。ここは湿度は低いのか?」
「はい、ここは温度は12゚C、湿度は20~30%と安定しております。倉庫として使うなら申し分ないかと思います」
「湿度はカビや腐敗のもとだから、乾燥しているのはありがたいな。これだけの洞窟なのに、水が流れてないとは驚きだ」
「水ならこの更に奥には沢がいくつかありますが、その辺りは詳しく調査されたことがありません」
「入る必要はないだろう。これだけのスペースがあれば充分だ」
ん? どうしたユウコ? これまでなぜかずっと黙っていたユウコが、奥の1点をずっと睨んでいる。
(奥に親の敵でもいるノかな)
(んなアホなことあるかい)
オウミも冗談で言ったのだが、しかしそれほど間違っていなかったのである。
外は快晴とはいえ気温は氷点下だった。凍えながらここまで歩いてきたのだ。この世界にダウンなどという軽快な防寒着はない。
「所長、一時の感情で強引な決断しないでください」
「だって、暖かいじゃないか、ここ。あの教室よりずっといいぞ」
「それは歩いてきて身体が温まっているからです。外より暖かいといってもここだって10゚Cくらいしかないのですから、動かずにいればすぐ寒くなりますよ。ここは暖房具はないのですから」
「うぐっ。そうだった。ここは倉庫にするんだ。暖房なんか入れちゃ台無しだったな」
「ユウさん、エルフ特製のアザラシの毛皮はどうですか?」
「うんユウコ。さすがはエルフだ。とても暖かい。ただ重くて死にそうだった。これをずっと着ていたら俺は京で着倒れになる」
「じゃあ我は大阪で食い倒れるノだ」
「わけの分からんこと言ってないで視察をするぞ。毛皮はここに脱いでおけ」
グースだけが仕事モードである。毛皮を脱いだらさっぱりした。自分で思っていた以上に汗をかいていた。暖かいを通り越して汗をかいちゃうのかこの毛皮。保温機能はすごいが、もうちょっと機能を落としていいから軽くすることはできないものか。
「冬といってもまだ暖かいですからね。これからもっともっと寒くなります。そのときはこのぐらいのが必要なのです」
ごもっともで。
入り口には簡単な木製の扉があった。シャインが鍵を開けると中は真っ暗だ。
「ちょっと待ってください。いま、灯をつけます」
「それは我にまかせるノだ。ほいっとな」
ここには電気がない。だからアルコールランプとおぼしきものがあちこちにつるしてあった。シャインはそれをつけようとしたのだが、その前にオウミが魔法を使った。
部屋全体がほんのりと明るくなった。まるで壁に蛍光塗料でも塗ったみたいに、手をどうかざしてみても影ができない。不思議世界に迷い込んだみたいだ。
「え? あ、ありがとうござい……ま? あ、あな、あなあなたのあな」
「山のあなたの空遠くかよ。これはオウミだ。ニオノウミの魔王で俺の眷属だ。ミノウと似たようなものだ。あまり気にするな」
「ミノウと同じとは失礼なのだ。我はオウミ……固まったノか?」
「気にするなってのに。いちいち面倒くさいやつだなぁ」
「ユユユユウユウユウさん。なんでなんで魔王様が、そんなホイホイと、でてくるんですか!?」
「いやスクナ。俺はそんな長い名前じゃない」
「ツッコむとこはそこじゃないと思うノだ」
「魔王がホイホイとは出てこないぞ。ゴキブリじゃあるまいし」
「ゴキブリ扱いとは失礼にも程があるノだ」
「余ってるなら私にもください!」
「余ってない、余ってない」
「なんでユウさんだけ、ふたりも魔王様が。ずるいです!」
「ずるいと言われてもな。まだもうひとりいるし」
「はぁぁぁぁっ!?」
なんか非難のニュアンスがある叫び声。
「さ、さん、さんにん。さんにんも眷属に。もうそれ大魔王ですよね?」
「俺は魔法使いじゃない。ちなみに、三人目はあのクラークだぞ」
「ひゃぁぁふょぉぉはゃぁぁぁぁ!?!?」
「混乱しているようなノだ」
「今はカンキチって名前に……聞こえてないよな」
「ユウさん! もういっそ、私も眷属にしてください!」
「できるか!」
「スクナ、それは良い提案だ。私からも頼もう」
「いや待て待て。父親は止める側だろうが。娘をそそのかしてどうすんだ」
「眷属はダメですか?」
「当たり前だっての」
「じゃ、嫁でいいです」
は? へ? ふ? ほ?
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「そんぐらいびっくりしたんだよ! まだ出会ったばかりの6才児が嫁にしろとか、どこの異世界だよ」
「ここの異世界なノだ?」
「あ、そうか」
「我が子ながら、この子は気立ても良いし美人だし頭も良い。体力もあるしやる気も充分。なによりユウさんに懐いていますし年齢も近い。良い縁談ではないですか」
だからまだ6才の娘をそんな簡単に嫁に出そうとすんな! 溺愛していたと思っていたが、シャインの愛情の方向が分からねぇ。
「そんなこと、突然言われてもだな。俺にだって、都合が」
「どんな都合がありますか?」
「あるようなないような」
「どっちなノだ?」
「なんにしてもそんなの早すぎるだろ! 俺だってまだ12才だぞ。それが6才の嫁って、もう犯罪レベルの話だ」
「いえいえ、この国では珍しいことではありませんよ。結婚はあとでもいいので、とりあえずは婚約ということでも良いですよ」
気が早いにしたって早すぎるやろ。ろくに話もしたことないのに、結婚ってアホかいな。
(スクナは満更でもないようなノだが)
そのとき、唐突に俺の脳裏に浮かんだのが、ハルミが剣を振るう姿だった。
「なんでここでお前が出てくるんだよ!!」
「「「はい?」」」
「あ、いや、こっちの話で、あは、あはははは。気にしないで」
(ふむ、そうだったノか。これは面白いこ……困ったことになりそうなノだ)
「もう! パパはすぐそうやって先走る! 私は冗談で言ったのよ。ユウさんが困ってるじゃないの。そんなに私を放り出したいの!?」
「いや、そんな痛い、ことはない痛いのだが、せっかくの機会が痛いあったの痛いだから、逃す手は痛いから叩くのはやめて!」
「もうその話はなし! 分かった!?」
「はい、すみませんでした」
「し、しか、しかしだなオウミ。灯をつける魔法なんてのがあるんだな」
「じつはミノウに教わったのだ。へりーこぷたーとか言う魔法使いが使っていた魔法らしいノだ」
なにそのメガネの魔法使い。その辺でやめておこう。また、危険域に突入しそうだ。
「その誤魔化し方には無理があるノだ?」
「これは便利な魔法ですね。さすがはオウミ様です」
スクナが誤魔化しに乗ってくれた?!
「いや、これは初級レベルで獲得可能なノだ。スクナなら使えるようになるノだ」
「え? 私ですか?」
「あ、いや、それはちょっと」
「スクナ。お主は魔法が使えるであろう?」
「いえ、まったく。というか教わったことがありません」
「あの、オウミ様……」
「じゃあ、我の言った通りにしてみるが良い。隣の部屋の灯をお主がつけてみるノだ」
スクナは半信半疑でオウミの指示に従い隣の部屋のドアを開けた。そして教わった呪文を唱えた。
「ほいっとな」
あ、ついた?!
「すごいノだ。一発で取得するとは、お主は良い魔法使いになるノだ」
「あ、ありがとうございます。私に、こんな才能があったなんて……知らなかった」
あれ? シャインのやつ複雑そうな顔をしているぞ? こいつなら抱きしめて喜びそうなものなのに、なんか悲しそうに見える。
……まあ、俺の知ったことではないか。それより便利な嫁……違うっっ 部下ができたことを素直に喜ぼう。
「相変わらずなユウで安心したノだ」
「スクナ。お前はまだ魔法を使うことはあいならぬ」
シャインがあいならぬ、とか言いおった。なんだその時代錯誤劇。
「え? どうして? 私、魔法が使えるんだよ? すごいよね。すごく便利だよね?」
「いや。まだ覚えるのは早いと言っているんだ。言うことを聞きなさい。覚えてしまったものは仕方ないが、それを使うのは禁止だ」
「まだ早いって、スクナは6才だろ? うちにも魔法使いがいるが、もっと早くから練習していたようだったが」
「あ、いえ、ユウさん。こちらにも事情というものがあります。口を挟まないでください」
(早いうちに魔法を覚えると、なんか不都合があるのか?)
(我の知る限りないのだ。むしろ早いほうが良いのだ。人の寿命は短いノだ)
(そうだよな。ということは別の理由か)
(うむ。なにやら複雑な問題があるようなノだ。悪いことをしたノだ)
(お前のせいじゃないよ。ただ、これ以上関わらないようにしたほうが良さそうだ)
(なんかもったいないノだが。あの子は才能があるノだ)
「灯をつけてくれたおかげで話が早くなって助かった。この部屋はかつては受付や警備が常駐していた部屋だったようだ。俺たちが使うなら事務室ということで良いだろう。そしてここから先が倉庫となる。シャインさん、案内を頼む」
「はい。ではこちらにどうぞ」
最初の部屋だけは柱が立てられており、壁にも漆喰のようなものが塗ってあった。ミノ国でもよく見られる部屋だ。
だがそこから奥は、岩盤がそのまま露出した部屋であった。
「こちらが第1の部屋です。かつてはここは燃料となる薪を置く場所だったようです」
扉を開けて入ると、30畳ぐらいの広さの部屋であった。そこに木製の簡易棚が作られており、かなりのホコリが積もっている。壊れている棚もあちこちにあった。
かつては薪だったと思われる塊も残っているようだ。あまり関わりになりたくない部屋である。早めに掃除をしてもらおう。
(自分ではしないノか)
(するわけがないだろ)
(そんな断言までされてもノだ)
「えっと、質問なんだが。ここでは燃料といえば薪なのか?」
「はい? それはもちろん。薪の材料にはこと欠きませんので」
「えっと、薪から炭を作ったりとかは?」
「「ナニソレ?」」
ないんかーい! なんと効率の悪い……ってことは、俺が作ればいいのか。
確か炭って木を無酸素状態で加熱するだけだろ? 上質なものを作るのは難しいだろうが、ただの炭ぐらいそこいらで焼けるんじゃないか?
(あれ? タケウチの工房では炭を使っていたよな?)
(使っていたノだ。こちらは遅れているのであろうな)
(誰か人を派遣して、作り方を学んでもらおう)
(ノだ)
「あ、いや。なんでもない。次の部屋に行こうか。そこが本命だよな」
「はいそうです。次の第2が最大の部屋です。そして食料庫でした」
第1の部屋から再び木製の扉を開けて石段を20段ほど降りる。そこには広大な空間が広がっていた。
ここに野球場を作れるのじゃないかと思えるほどだ。オウミが灯をつけたが、奥のほうまでは光が届かなかった。天井も高い。
「これはすごい。なんてでかい部屋だ。どこに食料を置いていたんだ?」
「その辺に適当に置いていたようです」
「そ、そうか。適当で良かったんだな。これだけスペースがあればそうなるか。ここは湿度は低いのか?」
「はい、ここは温度は12゚C、湿度は20~30%と安定しております。倉庫として使うなら申し分ないかと思います」
「湿度はカビや腐敗のもとだから、乾燥しているのはありがたいな。これだけの洞窟なのに、水が流れてないとは驚きだ」
「水ならこの更に奥には沢がいくつかありますが、その辺りは詳しく調査されたことがありません」
「入る必要はないだろう。これだけのスペースがあれば充分だ」
ん? どうしたユウコ? これまでなぜかずっと黙っていたユウコが、奥の1点をずっと睨んでいる。
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