異世界召喚 ~依頼されたのは魔王討伐ではなく……~

オフィス景

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9 韋駄天

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 シルヴィアが落ち着くまでに、予想外の時間がかかってしまった。涙は何とか止まったが、まだしゃくりあげている。

「ご、ごめんなさい……う、嬉しすぎて……」

 そんなこと言われたら、文句など言えるはずがない。

「泣きたいだけ泣けばいいさ。泣いて、モヤモヤしたもの全部流しちまえよ」

「そ、そんなこと言われたら……ふぇっ」

 一度止まった涙がまた盛大に流れ始めた。人間の身体の約六割は水分だって言うけど、涸れちゃわないかと心配になる。

 ま、しょうがないよな。かなり抑圧されてたんだろうしな。

 泣き止むまでつきあう覚悟を決めて、シルヴィアの肩を抱き寄せる。素直にもたれかかったシルヴィアは俺の肩に顔を埋めた。



 小一時間ほど泣き続けて、シルヴィアはようやく泣き止んだ。

「落ち着いた?」

「…はい……」

 頷きはしたものの、シルヴィアは顔を上げない。

「どうした?」

「…多分、今ホントにブサイクになってる……」

 あれだけ泣けば、瞼腫れ上がってても不思議じゃないよな。

「いやあ、シルヴィアならそんな顔でも可愛いと思うぞ」

「ダメです! 見ないでください」

「だいじょぶだいじょぶ」

「ダメです、絶対ダメです」

 バカップルな押し問答をしていると、遠くの方から「泥棒!」という叫びが聞こえてきた。

 振り返ると、通りの先を走っていく男の姿が見えた。

「ちょっと行ってくる」

 駆け出すと、いつになく身体が軽く感じられる。すぐにトップスピードに乗った。

 驚く街の人々の間をすり抜けるように走り、ぐんぐん距離を縮めていく。

 ほどなく追いつくと、男の手を掴み、軽くひねりあげた。横転した男の関節を極めて、身動きできないように地面に押さえつける。

 周りから拍手が起きた。

「すげえぞ、兄ちゃん」

「早かったなぁー」

 元々足には自信があったが、今のは自分でもビックリするほど身体が軽かった。計測してたら世界記録が出たのではなかろうか。

 すぐに警備兵がやって来たので、男を引き渡す。盗られた物も無事に被害者の手元に戻った。

 お礼を受けて、シルヴィアのところに戻る。

「置いてっちゃってごめん」

「いいえ、ありがとうございました」

 まだ少し目が腫れぼったいが、それでも十分美少女だ。笑顔で労われれば、メチャメチャ癒される。

「コータローは足が早いのね」

「まあね。元の世界では走る競技の選手だったんだ……とは言っても、スキルの恩恵があったんじゃないかな……」

 そうでもなきゃ説明がつかないほど早かったからな。

「あ、もしかしてーーちょっとステータス見せて」

 言われるがまま、ウィンドウを開く。

「あ、やっぱりーー称号がついてる」

 シルヴィアが嬉しそうに言った。

「称号?」

「何か活躍するとつくんですよーーえっと、イダテン?」

「おう」

 多分「韋駄天」のことだろう。

「俺たちの世界で足の早い人の代名詞みたいなものだな。確かそういう神様だったかな?」

 うろ覚えの知識を披露すると、シルヴィアは目を輝かせた。

「コータローにぴったりだね」

「サンキュ」

 韋駄天。

 俺も気に入った。
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