異世界召喚 ~依頼されたのは魔王討伐ではなく……~

オフィス景

文字の大きさ
117 / 179

117 逃げるべきだが……

しおりを挟む
 久々に韋駄天を使ってみて実感したことがある。

 基礎体力がバカみたいなことになってた。どれだけ走っても疲れを感じない。

 ブートキャンプの成果なんだろうが、この体力は自分でもちょっとどうかと思うレベルの人間離れっぷりだ。

 時折すれ違う人や追い越した人に驚かれたが、急いでいたってことで勘弁してもらおう。

 そんなわけで道程は順調に進み、王都を出て三日後には被害報告があった村に到着した。

 そこで目にしたものはーー

「…ひでえな……」

 破壊し尽された跡がそこにあった。

 建物はすべて壊され、そこここに死体が転がっている。一般の村人だけでなく、武装した兵士も倒れている。

「相当な数の魔物が出たのか…にしても、ここまでやるか……」

 魔物に人間の常識が通じないのはわかっていたつもりだったが、改めて思い知らされた。

「さて、これだけで帰るわけにはいかないよな。魔物どもはまだ近くにいるんかな?」

 とりあえず一番近い村を目指すことにする。

 できれば魔物の動向みたいなものをつきとめたい。単なる大量発生なのか、それともキング級の個体が生まれたのか。それによって対応がまったく変わってくる。

 そして、軍の部隊を全滅させるような群れが今どこにいるのか。これ以上の被害を防ぐためには一刻も早く状況を把握し、適切な処置を取らなければならない。

 急いた気が自然と足を早めさせる。

 どれだけ走った後だったか、進行方向に土煙が上がっているのが見えた。

 自分の中でギアを入れ替え、トップスピードで走る。俺の後ろにも漫画のような土煙がたった。

 すぐに現場が見えてきた。

 予想していた通り、魔物が村を襲っていた。

 村人たちも抵抗はしているようだが、所詮は素人だ。ほぼ一方的な虐殺になってしまっている。

「くっ……」

 正直に言おう。俺はこの時躊躇した。

 彼我の戦力差は論ずるにも値しない。俺一人が参戦したところで、焼け石にかける水にもならない。死体がひとつ増えるだけの話でしかない。

 そして、俺がここで斃れれば、中央に情報が伝わらなくなり、ますます被害が拡大することになる。

 それを理由に俺は目の前の現実から目を背けようとした。

 後一秒早く踵を返していたら、多分そのまま逃げていたはずだ。

 だが、逃げかけたその時、こちらへ向かって逃げてくる人影が目に入った。

 姉弟なのか、俺と同じくらいの女の子ともう少し小さい男の子が必死に走っている。

 その後ろからはゴブリンとオークが合わせて十匹ほど追いかけて来ている。

 多分十匹くらいならなんとかなる。だが、十匹倒す間に他のが追いついてくるだろう。そうなれば、後は泥沼だ。下手すりゃ死ぬ。

 シルヴィアやミネルヴァのことを思えば、ここは逃げの一手だ。

 だがーー

「見ちまって知らんぷりなんてできるわけねえだろうが!」

 すまん、シルヴィア。すまん、ミネルヴァ。もしかしたら戻れないかもしれん。

「うおおおおーー」

 雄叫びをあげて、俺は走り出した。

しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜

月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。 ※この作品は、カクヨムでも掲載しています。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

1000年生きてる気功の達人異世界に行って神になる

まったりー
ファンタジー
主人公は気功を極め人間の限界を超えた強さを持っていた、更に大気中の気を集め若返ることも出来た、それによって1000年以上の月日を過ごし普通にひっそりと暮らしていた。 そんなある時、教師として新任で向かった学校のクラスが異世界召喚され、別の世界に行ってしまった、そこで主人公が色々します。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

処理中です...