元商社マンの俺、異世界と日本を行き来できるチートをゲットしたので、のんびり貿易商でも始めます~現代の便利グッズは異世界では最強でした~

黒崎隼人

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第11章:商人の交渉、王の取引

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 日本政府との間に、ひとまず「協力関係」という名の猶予期間を設けた俺は、重い心でフィルメアに戻った。現代への影響という新たな問題に加え、異世界でも最大の危機が迫っていた。
 俺の星詠商会の噂は、ついに大陸の覇権を狙う軍事大国「ガルニア帝国」の皇帝の耳にまで届いていた。
 帝国から派遣されてきたのは、冷徹なことで知られる宰相、ゲルハルト。彼は開口一番、こう言った。
「白石悠斗殿。貴殿の持つ『無限に物資を輸送する能力』、実に素晴らしい。我が帝国の軍事力と、貴殿のその能力を組み合わせれば、大陸の統一も夢ではあるまい。皇帝陛下は、貴殿を帝国軍の兵站総監として迎え入れたいとお考えだ」
 これは、王都商会連盟の圧力など比較にならない、国家レベルの脅迫だ。断れば、帝国は武力をもって俺の能力を奪いに来るだろう。フィルメアが、いや、この国が戦火に包まれることになる。
 絶体絶命の状況。事務所の空気は、今までになく張り詰めていた。
「どうする、ユウト……。帝国を敵に回せば……」
 エレナが心配そうに俺を見る。
 俺はしばらく目を閉じて、考えていた。商社マン時代に叩き込まれた、数々の交渉術。窮地に立たされた時こそ、相手の最も欲するものを見極め、こちらが主導権を握るカードを探すんだ。
 帝国の狙いは、俺の能力を独占し、軍事的に利用すること。つまり、彼らは「戦争」を望んでいる。
 だが、戦争は最大の不経済だ。多くの命と金が失われ、国土は荒廃する。俺は商人だ。戦争よりも、取引で世界を動かしたい。
「……ゲルハルト殿。一つ、提案があります」
 数日後、俺は帝国の使者団と、フィルメアを治める王国の代表者たちを集めた席を設けた。さらに【往還の門】を使い、隣国の代表者たちも秘密裏に招聘した。この場は、五つの国がテーブルを囲む、前代未聞の国際会議の場となっていた。
 ゲルハルトは、俺の勝手な行動に不快感を露わにしている。
「何の真似だ、白石殿。我々は、貴殿とだけ話をしに来たはずだが」
「まあ、そう焦らずに。皆さん、これからお見せするものがあります」
 俺は次元倉庫から、あるものを取り出した。それは、日本で撮影してきた映像を映し出すための、大型モニターとプロジェクターだ。
 俺が映し出したのは、現代日本の農業技術――広大な畑を効率的に耕すトラクター、ビニールハウスによる計画的な栽培、品種改良された高収量の作物――の映像だった。
「これは……!? 鉄の牛が、一日でこれほどの畑を……!?」
「なんと、冬でも瑞々しい野菜が……!」
 各国の代表者たちは、食い入るようにモニターを見つめている。
 次に俺が見せたのは、現代の医療技術。清潔な病院、精密な手術、そしてペニシリンなどの抗生物質の効果を示すデータだ。
「怪我や病が、こんなにも簡単に……」
 彼らの驚きが最高潮に達したところで、俺は映像を切り、静かに語り始めた。
「ゲルハルト殿。帝国が求めるのは、大陸の覇権でしょう。だが、それは武力でなければ手に入らないものでしょうか?」
 俺は、各国にこう提案した。
「俺の星詠商会を、どの国にも属さない『国際交易機関』として認めていただきたい。その見返りとして、俺は皆さん――この場にいる全ての国に、俺の故郷の『技術』を提供します。食糧増産のノウハウ、医療技術、そして、人々の生活を豊かにする様々な道具。戦争で土地を奪い合うより、手を取り合って、今ある土地を豊かにする方が、よほど賢明だとは思いませんか?」
 それは、彼らの価値観を根底から覆す提案だった。
「馬鹿なことを! 他国に塩を送るような真似ができるか!」と息巻く将軍もいた。
 だが、賢明な王や宰相たちは、俺の提案の真意を理解し始めていた。戦争という多大なリスクを冒さずとも、自国を豊かにできる道がある。国民が飢えなくなり、病から救われれば、王への支持は揺るぎないものになるだろう。
 最後に、俺はとどめの一手を打った。
「もちろん、この提案を蹴って、俺の力を武力で奪おうという国があれば――その国は、この素晴らしい技術革新の輪から、永久に外れることになります。他国が豊かになっていくのを、指をくわえて見ているだけでね」
 それは、協力しなければ、時代に取り残されるという、静かな脅迫だ。
 ゲルハルトは、しばらくの間、苦虫を噛み潰したような顔で俺を睨んでいたが、やがて深いため息をつくと、その口元にわずかな笑みを浮かべた。
「……面白い。貴様は、商人というより、稀代の詐欺師か、あるいは革命家だ。よかろう、皇帝陛下には、私から上手くお伝えしよう。戦争よりも、はるかに安上がりで実りの多い『取引』が成立した、と」
 俺は、最大の危機を、最大の商談に変えてみせたのだ。
「俺は商人だ。戦争より、取引で世界を動かしたい」
 その言葉は、もはやハッタリではなかった。俺は、二つの世界を股にかける、唯一無二の調停者として、新たな一歩を踏み出したのだった。
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