元商社マンの俺、異世界と日本を行き来できるチートをゲットしたので、のんびり貿易商でも始めます～現代の便利グッズは異世界では最強でした～

番外編②：ドラゴンの卵と日本製冷蔵庫

「会頭、大変です！ ドラゴンの卵が……！」
　ある日、冒険者ギルドから、血相を変えた職員が駆け込んできた。聞けば、希少な『アイスドラゴン』の卵が持ち込まれたが、孵化の時期が近付いており、適切な温度管理ができないという。このままでは、貴重な卵がダメになってしまうらしい。
「適切な温度……何度だ？」
「摂氏五度前後を維持しないと……この時期に、そんな場所は万年雪山くらいしか……」
　摂氏五度。その数字を聞いて、俺はピンと来た。
「……あるぞ。その場所」
　俺は急いで日本に戻ると、近所の家電量販店で一番大きいサイズの最新型冷蔵庫を購入した。そして、それを次元倉庫に入れてフィルメアへと持ち帰る。発電機に繋いで電源を入れると、ブーンという静かな音を立てて、庫内が冷えていく。
「これだ。この箱の中に卵を入れればいい」
　星詠商会の職員も、冒険者たちも、スイッチひとつで内部が氷のように冷たくなる魔法の箱に度肝を抜かれていた。
　ドラゴンの卵は、冷蔵庫の野菜室にぴったりと収まった。温度設定も完璧だ。これで、専門家が到着するまで、安全に卵を保管できる。
「すごい……まさに神の道具だ……」
「日本製家電、最強か？」
　俺がボソッと呟いた一言がどこからか広まり、この一件以降、異世界の富裕層や研究者の間で「日本製家電」が一大トレンドとなった。
　王侯貴族は、ワインセラーとして冷蔵庫を求め、真夏でも涼しい部屋で過ごすためにエアコンの設置を依頼してくる。魔術師たちは、精密な実験のためにクリーンベンチや電子顕微鏡を欲しがった。
　星詠商会は、新たに「家電輸入事業部」を設立。日本の大手家電メーカーと提携し、異世界への家電製品の輸出を開始した。
　もちろん、電力は発電機や、エレナが開発した「魔力電力変換装置」で供給する。
「いやぁ、まさか異世界で家電を売ることになるとはな……」
　ドラゴンの卵がきっかけで始まった家電ブーム。二つの世界の生活レベルは、思いもよらない形で、また一つ近づいていくのだった。