追放された悪役令嬢、前世のスマホ知識で通信革命を起こしたら、王国に必須の存在になっていました

黒崎隼人

文字の大きさ
9 / 9

第8話「嘘つき王子の末路と新時代の女王」

しおりを挟む
 夜明けの光が、魔物の血と破壊の爪痕が生々しく残る王都を照らし出した。スタンピードは、完全に鎮圧された。黒幕であった隣国の魔術師団は捕らえられ、生き残った騎士たちや市民からは、疲労の中にも安堵の歓声が上がっていた。

 国家反逆罪で捕らえられたリリアンは、もはやかつての可憐な姿の面影もなかった。美しいドレスは破れ、髪は乱れ、ただ虚ろな目で「私は悪くない」「お姉様が私を陥れたんだ」と意味不明な言葉を繰り返すだけ。彼女の周りには、もはや誰一人として同情を寄せる者はいなかった。

 王宮前の広場には、王都を救った英雄たちの帰還を祝うため、多くの民衆が集まっていた。その中心にいたのは、カイに率いられた辺境伯の部隊と、そして、辺境から専用の魔導馬車で駆けつけたエリザだった。彼女が姿を現すと、地鳴りのような歓声と拍手が沸き起こった。「エリザ様!」「通信の魔女様!」「ありがとう!」。誰もが、彼女の名を称え、感謝を捧げた。

 その群衆をかき分けるようにして、一人の男がエリザの前に進み出た。アルフォンス王子だった。彼は甲冑もまとわず、その顔は憔悴しきっていた。彼は、エリザの目の前まで来ると、躊躇なくその場に膝をついた。泥のついた地面に、高貴な王子が額をこすりつける。

「エリザ…私が、私が全て間違っていた…」
 彼の声は、後悔と自己嫌悪に満ちていた。「君の聡明さも、優しさも、何もかもを私は理解しようとしなかった。嫉妬に目が眩み、リリアンの嘘を信じ、君を傷つけた。どうか、この愚かな私を許してほしい。そして…もう一度、やり直してはくれないだろうか。私の隣で、この国を支えてほしい」

 彼はそう言って、エリザに復縁を迫った。その姿は、あまりにも惨めで、哀れだった。広場は静まり返り、誰もがエリザの言葉を待っている。

 エリザは、ひざまずく彼を、ただ静かに見下ろしていた。その瞳は、かつて彼に向けられていた愛情の色ではなく、凍てつくような冬の湖のように、冷たく、そして凪いでいた。

「アルフォンス様。顔をお上げください。過ぎたことを、今更謝罪していただく必要はありません」

 その言葉に、アルフォンスはわずかに希望の光を目に宿した。しかし、エリザの次の言葉が、その希望を無慈悲に打ち砕く。

「ですが、やり直すなどと、そのようなことはあり得ません。貴方が私を捨て、リリアン様を選んだあの日、貴方と私の物語は終わったのです。私が辺境で過ごした時間、そこで出会った人々、築き上げてきたものは、もはや貴方の知らない私の人生そのもの。そこに、貴方の居場所はどこにもありません」

 そして、彼女は決定的な一言を、静かに、しかしはっきりと告げた。

「後悔しても、もう遅いのです」

 その言葉は、アルフォンスの心に、永遠に消えない烙印として刻まれた。彼は、返す言葉もなく、ただその場でうなだれることしかできなかった。嘘つきの王子の末路は、愛も、信頼も、権威も、全てを失い、見捨てた女性に尊厳までをも砕かれるという、あまりにもむなしいものだった。

 この一連の騒動で、王家の権威は地に堕ちた。危機管理能力の欠如、アルフォンス王子の愚かな判断、そしてリリアンという国家反逆者を見抜けなかったこと。国王は、国民からの信頼を完全に失い、退位を余儀なくされた。

 そして、国中から、一つの声が上がり始めた。
「我々が戴くべきは、エリザ様しかいない」
「国を救った英雄こそ、新しい統治者にふさわしい」

 貴族たちも、民衆も、誰もがエリザを新しい女王として推戴することを望んだ。最初は、その申し出にエリザは戸惑い、固辞した。私は一介の事業家であり、統治者の器ではない、と。

 しかし、カイが彼女の背中を押した。
「エリザ。君には、この国を立て直す力がある。君の『エル・ネット』が、復興の要になるんだ。それに、君はもう一人じゃない。俺も、フィンも、ギムリも、この国中の多くの人々が、君を支える」

 民衆の熱狂的な願いと、信頼する仲間たちの言葉に、エリザはついにその運命を受け入れることを決意した。荒廃したこの国を、自らの手で立て直すために。

 女王エリザの戴冠式は、質素ながらも、希望に満ちたものだった。彼女は、即位の演説で高らかに宣言した。
「これより、この国は、身分や家柄にとらわれることなく、ただ有能な人材を登用し、全ての民の声が届く、新しい国として生まれ変わります」

 女王となったエリザは、その言葉通り、大胆な改革を次々と断行した。カイを宰相とし、フィンを情報長官に任命。旧態依然とした貴族社会を解体し、実力主義の新しい政治体制を築き上げていく。

 彼女が築いた『エル・ネット』は、国の復興のまさに礎となった。その通信網によって、各都市の復興状況はリアルタイムで共有され、必要な物資や人材が迅速に届けられた。かつてない速さで、王国は活気を取り戻し、以前よりもさらに力強く発展していくのだった。

 嘘つきの王子と、嫉妬に狂った妹の物語は、人々の記憶からすぐに忘れ去られた。代わりに語り継がれるのは、追放された公爵令嬢が、自らの知恵と勇気で国を救い、女王となった、希望の物語。エリザの治世は、ここから、長く輝かしい歴史を刻み始める。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

【古代召喚魔法】を悪霊だとよばれ魔法学園を追放されました。でもエルフの王女に溺愛されて幸せです。だから邪魔する奴らは排除していいよね?

里海慧
ファンタジー
「レオ・グライス。君は呪いの悪霊を呼び寄せ、危険極まりない! よって本日をもって退学に処す!!」  最終学年に上がったところで、魔法学園を退学になったレオ。  この世界では魔物が跋扈しており、危険から身を守るために魔法が発達している。  だが魔法が全く使えない者は、呪われた存在として忌み嫌われていた。  魔法が使えないレオは貴族だけが通う魔法学園で、はるか昔に失われた【古代召喚魔法】を必死に習得した。  しかし召喚魔法を見せても呪いの悪霊だと誤解され、危険人物と認定されてしまう。  学園を退学になり、家族からも見捨てられ居場所がなくなったレオは、ひとりで生きていく事を決意。  森の奥深くでエルフの王女シェリルを助けるが、深い傷を負ってしまう。だがシェリルに介抱されるうちに心を救われ、王女の護衛として雇ってもらう。  そしてシェリルの次期女王になるための試練をクリアするべく、お互いに想いを寄せながら、二人は外の世界へと飛び出していくのだった。  一方レオを追い出した者たちは、次期女王の試練で人間界にやってきたシェリルに何とか取り入ろうとする。  そして邪魔なレオを排除しようと画策するが、悪事は暴かれて一気に転落していくのだった。 ※きゅんきゅんするハイファンタジー、きゅんファン目指してます。

「可愛げがない」と婚約破棄された公爵令嬢ですが、領地経営をしていたのは私です

希羽
恋愛
「お前のような可愛げのない女との婚約は破棄する!」 卒業パーティの会場で、婚約者である第二王子デリックはそう宣言し、私の義妹ミナを抱き寄せました。 誰もが私が泣き崩れると思いましたが――正直、せいせいしました。 だって、王子の領地経営、借金返済、結界維持、それら全ての激務を一人でこなしていたのは「可愛げのない」私だったのですから。 「承知しました。では、あとはミナと二人で頑張ってください」 私は手切れ金代わりに面倒な仕事を全て置いて国を出ました。 すると、国境で待っていたのは、隣国ガルガディア帝国の冷徹皇太子ことクライド様。なぜか彼は私を溺愛し、帝国で最高の地位と環境を与えてくれて……。

婚約破棄が成立しない悪役令嬢~ヒロインの勘違い~

鷲原ほの
ファンタジー
舞踏会に備える侯爵令嬢と男爵令嬢、三人の異世界転生者が関わった婚約破棄騒動。 《 完結 》

【完結】婚約破棄したら『悪役令嬢』から『事故物件令嬢』になりました

Mimi
ファンタジー
私エヴァンジェリンには、幼い頃に決められた婚約者がいる。 男女間の愛はなかったけれど、幼馴染みとしての情はあったのに。 卒業パーティーの2日前。 私を呼び出した婚約者の隣には 彼の『真実の愛のお相手』がいて、 私は彼からパートナーにはならない、と宣言された。 彼は私にサプライズをあげる、なんて言うけれど、それはきっと私を悪役令嬢にした婚約破棄ね。 わかりました! いつまでも夢を見たい貴方に、昨今流行りのざまぁを かまして見せましょう! そして……その結果。 何故、私が事故物件に認定されてしまうの! ※本人の恋愛的心情があまり無いので、恋愛ではなくファンタジーカテにしております。 チートな能力などは出現しません。 他サイトにて公開中 どうぞよろしくお願い致します!

悪役令嬢が出演しない婚約破棄~ヒロインの勘違い~

鷲原ほの
ファンタジー
式典会場が白けた空気に包まれて、異世界転生者の王子が語り出した婚約破棄騒動。 《 完結 》

追放された悪役令嬢が前世の記憶とカツ丼で辺境の救世主に!?~無骨な辺境伯様と胃袋掴んで幸せになります~

緋村ルナ
ファンタジー
公爵令嬢アリアンナは、婚約者の王太子から身に覚えのない罪で断罪され、辺境へ追放されてしまう。すべては可憐な聖女の策略だった。 絶望の淵で、アリアンナは思い出す。――仕事に疲れた心を癒してくれた、前世日本のソウルフード「カツ丼」の記憶を! 「もう誰も頼らない。私は、私の料理で生きていく!」 辺境の地で、彼女は唯一の武器である料理の知識を使い、異世界の食材でカツ丼の再現に挑む。試行錯誤の末に完成した「勝利の飯(ヴィクトリー・ボウル)」は、無骨な騎士や冒険者たちの心を鷲掴みにし、寂れた辺境の町に奇跡をもたらしていく。 やがて彼女の成功は、彼女を捨てた元婚約者たちの耳にも届くことに。 これは、全てを失った悪役令嬢が、一皿のカツ丼から始まる温かい奇跡で、本当の幸せと愛する人を見つける痛快逆転グルメ・ラブストーリー!

悪役令嬢扱いで国外追放?なら辺境で自由に生きます

タマ マコト
ファンタジー
王太子の婚約者として正しさを求め続けた侯爵令嬢セラフィナ・アルヴェインは、 妹と王太子の“真実の愛”を妨げた悪役令嬢として国外追放される。 家族にも見捨てられ、たった一人の侍女アイリスと共に辿り着いたのは、 何もなく、誰にも期待されない北方辺境。 そこで彼女は初めて、役割でも評価でもない「自分の人生」を生き直す決意をする。

処理中です...