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第8話「嘘つき王子の末路と新時代の女王」
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夜明けの光が、魔物の血と破壊の爪痕が生々しく残る王都を照らし出した。スタンピードは、完全に鎮圧された。黒幕であった隣国の魔術師団は捕らえられ、生き残った騎士たちや市民からは、疲労の中にも安堵の歓声が上がっていた。
国家反逆罪で捕らえられたリリアンは、もはやかつての可憐な姿の面影もなかった。美しいドレスは破れ、髪は乱れ、ただ虚ろな目で「私は悪くない」「お姉様が私を陥れたんだ」と意味不明な言葉を繰り返すだけ。彼女の周りには、もはや誰一人として同情を寄せる者はいなかった。
王宮前の広場には、王都を救った英雄たちの帰還を祝うため、多くの民衆が集まっていた。その中心にいたのは、カイに率いられた辺境伯の部隊と、そして、辺境から専用の魔導馬車で駆けつけたエリザだった。彼女が姿を現すと、地鳴りのような歓声と拍手が沸き起こった。「エリザ様!」「通信の魔女様!」「ありがとう!」。誰もが、彼女の名を称え、感謝を捧げた。
その群衆をかき分けるようにして、一人の男がエリザの前に進み出た。アルフォンス王子だった。彼は甲冑もまとわず、その顔は憔悴しきっていた。彼は、エリザの目の前まで来ると、躊躇なくその場に膝をついた。泥のついた地面に、高貴な王子が額をこすりつける。
「エリザ…私が、私が全て間違っていた…」
彼の声は、後悔と自己嫌悪に満ちていた。「君の聡明さも、優しさも、何もかもを私は理解しようとしなかった。嫉妬に目が眩み、リリアンの嘘を信じ、君を傷つけた。どうか、この愚かな私を許してほしい。そして…もう一度、やり直してはくれないだろうか。私の隣で、この国を支えてほしい」
彼はそう言って、エリザに復縁を迫った。その姿は、あまりにも惨めで、哀れだった。広場は静まり返り、誰もがエリザの言葉を待っている。
エリザは、ひざまずく彼を、ただ静かに見下ろしていた。その瞳は、かつて彼に向けられていた愛情の色ではなく、凍てつくような冬の湖のように、冷たく、そして凪いでいた。
「アルフォンス様。顔をお上げください。過ぎたことを、今更謝罪していただく必要はありません」
その言葉に、アルフォンスはわずかに希望の光を目に宿した。しかし、エリザの次の言葉が、その希望を無慈悲に打ち砕く。
「ですが、やり直すなどと、そのようなことはあり得ません。貴方が私を捨て、リリアン様を選んだあの日、貴方と私の物語は終わったのです。私が辺境で過ごした時間、そこで出会った人々、築き上げてきたものは、もはや貴方の知らない私の人生そのもの。そこに、貴方の居場所はどこにもありません」
そして、彼女は決定的な一言を、静かに、しかしはっきりと告げた。
「後悔しても、もう遅いのです」
その言葉は、アルフォンスの心に、永遠に消えない烙印として刻まれた。彼は、返す言葉もなく、ただその場でうなだれることしかできなかった。嘘つきの王子の末路は、愛も、信頼も、権威も、全てを失い、見捨てた女性に尊厳までをも砕かれるという、あまりにもむなしいものだった。
この一連の騒動で、王家の権威は地に堕ちた。危機管理能力の欠如、アルフォンス王子の愚かな判断、そしてリリアンという国家反逆者を見抜けなかったこと。国王は、国民からの信頼を完全に失い、退位を余儀なくされた。
そして、国中から、一つの声が上がり始めた。
「我々が戴くべきは、エリザ様しかいない」
「国を救った英雄こそ、新しい統治者にふさわしい」
貴族たちも、民衆も、誰もがエリザを新しい女王として推戴することを望んだ。最初は、その申し出にエリザは戸惑い、固辞した。私は一介の事業家であり、統治者の器ではない、と。
しかし、カイが彼女の背中を押した。
「エリザ。君には、この国を立て直す力がある。君の『エル・ネット』が、復興の要になるんだ。それに、君はもう一人じゃない。俺も、フィンも、ギムリも、この国中の多くの人々が、君を支える」
民衆の熱狂的な願いと、信頼する仲間たちの言葉に、エリザはついにその運命を受け入れることを決意した。荒廃したこの国を、自らの手で立て直すために。
女王エリザの戴冠式は、質素ながらも、希望に満ちたものだった。彼女は、即位の演説で高らかに宣言した。
「これより、この国は、身分や家柄にとらわれることなく、ただ有能な人材を登用し、全ての民の声が届く、新しい国として生まれ変わります」
女王となったエリザは、その言葉通り、大胆な改革を次々と断行した。カイを宰相とし、フィンを情報長官に任命。旧態依然とした貴族社会を解体し、実力主義の新しい政治体制を築き上げていく。
彼女が築いた『エル・ネット』は、国の復興のまさに礎となった。その通信網によって、各都市の復興状況はリアルタイムで共有され、必要な物資や人材が迅速に届けられた。かつてない速さで、王国は活気を取り戻し、以前よりもさらに力強く発展していくのだった。
嘘つきの王子と、嫉妬に狂った妹の物語は、人々の記憶からすぐに忘れ去られた。代わりに語り継がれるのは、追放された公爵令嬢が、自らの知恵と勇気で国を救い、女王となった、希望の物語。エリザの治世は、ここから、長く輝かしい歴史を刻み始める。
国家反逆罪で捕らえられたリリアンは、もはやかつての可憐な姿の面影もなかった。美しいドレスは破れ、髪は乱れ、ただ虚ろな目で「私は悪くない」「お姉様が私を陥れたんだ」と意味不明な言葉を繰り返すだけ。彼女の周りには、もはや誰一人として同情を寄せる者はいなかった。
王宮前の広場には、王都を救った英雄たちの帰還を祝うため、多くの民衆が集まっていた。その中心にいたのは、カイに率いられた辺境伯の部隊と、そして、辺境から専用の魔導馬車で駆けつけたエリザだった。彼女が姿を現すと、地鳴りのような歓声と拍手が沸き起こった。「エリザ様!」「通信の魔女様!」「ありがとう!」。誰もが、彼女の名を称え、感謝を捧げた。
その群衆をかき分けるようにして、一人の男がエリザの前に進み出た。アルフォンス王子だった。彼は甲冑もまとわず、その顔は憔悴しきっていた。彼は、エリザの目の前まで来ると、躊躇なくその場に膝をついた。泥のついた地面に、高貴な王子が額をこすりつける。
「エリザ…私が、私が全て間違っていた…」
彼の声は、後悔と自己嫌悪に満ちていた。「君の聡明さも、優しさも、何もかもを私は理解しようとしなかった。嫉妬に目が眩み、リリアンの嘘を信じ、君を傷つけた。どうか、この愚かな私を許してほしい。そして…もう一度、やり直してはくれないだろうか。私の隣で、この国を支えてほしい」
彼はそう言って、エリザに復縁を迫った。その姿は、あまりにも惨めで、哀れだった。広場は静まり返り、誰もがエリザの言葉を待っている。
エリザは、ひざまずく彼を、ただ静かに見下ろしていた。その瞳は、かつて彼に向けられていた愛情の色ではなく、凍てつくような冬の湖のように、冷たく、そして凪いでいた。
「アルフォンス様。顔をお上げください。過ぎたことを、今更謝罪していただく必要はありません」
その言葉に、アルフォンスはわずかに希望の光を目に宿した。しかし、エリザの次の言葉が、その希望を無慈悲に打ち砕く。
「ですが、やり直すなどと、そのようなことはあり得ません。貴方が私を捨て、リリアン様を選んだあの日、貴方と私の物語は終わったのです。私が辺境で過ごした時間、そこで出会った人々、築き上げてきたものは、もはや貴方の知らない私の人生そのもの。そこに、貴方の居場所はどこにもありません」
そして、彼女は決定的な一言を、静かに、しかしはっきりと告げた。
「後悔しても、もう遅いのです」
その言葉は、アルフォンスの心に、永遠に消えない烙印として刻まれた。彼は、返す言葉もなく、ただその場でうなだれることしかできなかった。嘘つきの王子の末路は、愛も、信頼も、権威も、全てを失い、見捨てた女性に尊厳までをも砕かれるという、あまりにもむなしいものだった。
この一連の騒動で、王家の権威は地に堕ちた。危機管理能力の欠如、アルフォンス王子の愚かな判断、そしてリリアンという国家反逆者を見抜けなかったこと。国王は、国民からの信頼を完全に失い、退位を余儀なくされた。
そして、国中から、一つの声が上がり始めた。
「我々が戴くべきは、エリザ様しかいない」
「国を救った英雄こそ、新しい統治者にふさわしい」
貴族たちも、民衆も、誰もがエリザを新しい女王として推戴することを望んだ。最初は、その申し出にエリザは戸惑い、固辞した。私は一介の事業家であり、統治者の器ではない、と。
しかし、カイが彼女の背中を押した。
「エリザ。君には、この国を立て直す力がある。君の『エル・ネット』が、復興の要になるんだ。それに、君はもう一人じゃない。俺も、フィンも、ギムリも、この国中の多くの人々が、君を支える」
民衆の熱狂的な願いと、信頼する仲間たちの言葉に、エリザはついにその運命を受け入れることを決意した。荒廃したこの国を、自らの手で立て直すために。
女王エリザの戴冠式は、質素ながらも、希望に満ちたものだった。彼女は、即位の演説で高らかに宣言した。
「これより、この国は、身分や家柄にとらわれることなく、ただ有能な人材を登用し、全ての民の声が届く、新しい国として生まれ変わります」
女王となったエリザは、その言葉通り、大胆な改革を次々と断行した。カイを宰相とし、フィンを情報長官に任命。旧態依然とした貴族社会を解体し、実力主義の新しい政治体制を築き上げていく。
彼女が築いた『エル・ネット』は、国の復興のまさに礎となった。その通信網によって、各都市の復興状況はリアルタイムで共有され、必要な物資や人材が迅速に届けられた。かつてない速さで、王国は活気を取り戻し、以前よりもさらに力強く発展していくのだった。
嘘つきの王子と、嫉妬に狂った妹の物語は、人々の記憶からすぐに忘れ去られた。代わりに語り継がれるのは、追放された公爵令嬢が、自らの知恵と勇気で国を救い、女王となった、希望の物語。エリザの治世は、ここから、長く輝かしい歴史を刻み始める。
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