追放聖女の薬草店~光らない無能と言われた私の治癒力は、最強騎士団長の呪いにだけ効くようです。辺境で始める溺愛スローライフ~

黒崎隼人

文字の大きさ
8 / 14

第7話「森の薬草店、はじめました」

しおりを挟む
 その日、ついに『フォレスト薬草店』の看板が掲げられた。

 開店初日。

 客が来るかどうか不安だったが、村の噂ネットワークは侮れない。「森の廃屋に、凄腕の薬師と、とんでもないイケメンが住み着いたらしい」という話は、瞬く間に広まっていたようだ。

「ごめんください。腰の痛みに効く湿布があると聞いたんじゃが……」

 最初にやってきたのは、近所の農家のお婆さんだった。

 続いて、風邪気味の子供を連れた母親、畑仕事で指を切った青年と、客足は途絶えない。

 エリナは一人一人の話に丁寧に耳を傾け、症状に合わせた薬草を調合し、時にはその場で手当てをしていく。

 その診断の的確さと、手当ての優しさに、村人たちはすぐに魅了された。

 一方、ゼフィルはというと。

「……荷物か。そこへ置け」

「ひっ! は、はいぃ!」

 彼は店の奥で、力仕事や品出しを手伝っていたのだが、その鋭い眼光と低い声のせいで、配達に来た若者を怯えさせてしまっていた。

 本人は真面目にやっているつもりなのだが、どうにも「強面の用心棒」にしか見えない。

「ゼフィルさん、もう少し笑ってください。子供が泣いちゃいます」

「……これが普通の顔だ」

 エリナに注意されて、ゼフィルは不機嫌そうに眉間のシワを深くする。

 だが、ポポが彼の肩に乗って「キュ!」と愛想を振りまくと、不思議と彼の威圧感も中和されるようだった。

 強面の大男と、可愛い小動物の組み合わせ。このギャップが意外にも村の女性たちの心を掴んだらしい。

「あの人、怖そうだけどリスさんには優しいのね」

「案外、いい人なのかも」

 そんなひそひそ話が聞こえてくる。

 忙しい一日が終わり、店を閉めた頃には、空には満天の星が広がっていた。

 村は明かりが少ない分、星が降るように近くに見える。

 エリナとゼフィルは、店の前のベンチに並んで座り、夜風に当たっていた。

 二人ともクタクタだが、心地よい充実感があった。

「大繁盛でしたね。ゼフィルさんが手伝ってくれなかったら、回らなかったと思います」

「俺は、立っていただけだ。……だが、悪くはない気分だ」

 ゼフィルは空を見上げながら、ポツリと言った。

 剣を振るい、敵を斬るだけの日々。

 誰かに感謝されることなど稀で、恐れられることが常だった。

 だが今日、老婆に「ありがとう、楽になったよ」と言われた時、胸の奥にあった冷たい塊が少し溶けたような気がしたのだ。

「ゼフィルさん」

 静寂の中、エリナの声が響く。

 彼女は真剣な表情で、彼の方を向いていた。

「お話があります。……あなたの、その呪いのこと」

 ゼフィルの体が強張る。

 ついに、この時が来たか。

「昨日の夜、調べてみたんです。その症状、たぶん『竜血の呪い』ですよね? 古い文献に記述がありました」

「……ああ。そうだ」

 隠す意味はない。ゼフィルは観念して頷いた。

 黒竜討伐の際、最期に浴びた返り血。それが彼の体を蝕み続けている。

「これまでは抑制するだけで精一杯だったはずです。でも、私なら完全に消せるかもしれません」

「なに?」

 ゼフィルは目を見開いた。

 完全に消す? そんなことができるはずがない。

「私の力は、細胞の記憶を呼び覚ますものです。時間をかければ、竜の血に侵食される前の、真っ白な状態まで戻せるはず。ただ、それには時間がかかります。一ヶ月か、二ヶ月か……もっとかもしれません」

 エリナは、祈るように両手を組んだ。

「だから、ゼフィルさん。治るまで、ここにいてくれませんか? 私の店を手伝ってくれるお礼に、私があなたの主治医になります」

 それは、提案というよりは、告白にも似た響きを持っていた。

 ここにいてほしい。

 その言葉が、ゼフィルの心の防壁を易々と越えてくる。

「……俺は、厄介者だぞ。追手がかかるかもしれない。呪いが暴走して、お前を傷つけるかもしれない」

「その時は、私が全力で治します。それに、ポポもゼフィルさんがいないと寂しがりますし」

 エリナの肩の上で、ポポが同意するように尻尾を振った。

 彼女の瞳には、一点の曇りもない信頼の色が宿っている。

 ゼフィルは長く息を吐き出し、頭をガシガシとかいた。

 完敗だ。

 この小さな聖女には、剣も威圧も通用しない。

「……分かった。契約成立だ」

「本当ですか!?」

「ああ。だが、タダで治してもらうつもりはない。俺の剣はこの店と、お前のために振るう。用心棒代わりくらいにはなるだろう」

「ふふ、心強いです! 最強の用心棒ですね」

 エリナが嬉しそうに笑う。

 その笑顔を、ずっと守りたいと思った。

 夜空に流れる星に、ゼフィルは密かに誓った。

 この場所と、この女性を守り抜くと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!

六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。 家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能! 「ここなら、自由に生きられるかもしれない」 活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。 「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」

罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~

上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」  触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。  しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。 「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。  だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。  一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。  伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった  本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である ※※小説家になろうでも連載中※※

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。

木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。 それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。 誰にも信じてもらえず、罵倒される。 そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。 実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。 彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。 故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。 彼はミレイナを快く受け入れてくれた。 こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。 そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。 しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。 むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。

侯爵様に婚約破棄されたのですが、どうやら私と王太子が幼馴染だったことは知らなかったようですね?

ルイス
恋愛
オルカスト王国の伯爵令嬢であるレオーネは、侯爵閣下であるビクティムに婚約破棄を言い渡された。 信頼していたビクティムに裏切られたレオーネは悲しみに暮れる……。 しかも、破棄理由が他国の王女との婚約だから猶更だ。 だが、ビクティムは知らなかった……レオーネは自国の第一王子殿下と幼馴染の関係にあることを。 レオーネの幼馴染であるフューリ王太子殿下は、彼女の婚約破棄を知り怒りに打ち震えた。 「さて……レオーネを悲しませた罪、どのように償ってもらおうか」 ビクティム侯爵閣下はとてつもない虎の尾を踏んでしまっていたのだった……。

婚約破棄されたので、元婚約者の兄(無愛想な公爵様)と結婚します

ニャーゴ
恋愛
伯爵令嬢のエレナは、社交界で完璧な令嬢と評されるも、婚約者である王太子が突然**「君とは結婚できない。真実の愛を見つけた」**と婚約破棄を告げる。 王太子の隣には、彼の新しい恋人として庶民出身の美少女が。 「うわ、テンプレ展開すぎない?」とエレナは内心で呆れるが、王家の意向には逆らえず破談を受け入れるしかない。 しかしその直後、王太子の兄である公爵アルベルトが「俺と結婚しろ」と突如求婚。 無愛想で冷徹と噂されるアルベルトだったが、実はエレナにずっと想いを寄せていた。 婚約破棄されたことで彼女を手に入れるチャンスが巡ってきたとばかりに、強引に結婚へ持ち込もうとする。 「なんでこんな展開になるの!?』と戸惑うエレナだが、意外にもアルベルトは不器用ながらも優しく、次第に惹かれていく—— だが、その矢先、王太子が突然「やっぱり君が良かった」と復縁を申し出てきて……!?

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

処理中です...