偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人

文字の大きさ
11 / 15

第10話「聖女の祈りと王子の剣」

しおりを挟む
 黄金の光が収まった時、城の中庭の空気は一変していた。
 淀んでいた邪気は完全に払われ、澄み切った空気が満ちている。
 人々は、目の前で起きた奇跡の光景に、言葉を失っていた。

「……信じられん」

 国王が、呆然とつぶやく。

「ルナの力が、これほどまでに……」

 第一王子のアルフォンスも、驚きを隠せない様子でルナとリオネスを見つめている。
 民衆や貴族たちの間に、もはやルナを疑う者はいなかった。
 彼らは、目の前で本当の奇跡を見せられたのだ。

「真の聖女様は……ルナ様だったのだ!」

 誰かがそう叫んだのをきっかけに、人々は次々とルナの前にひざまずき始めた。

「お許しください、ルナ様!」

「我々は、間違っておりました!」

 謝罪と賞賛の声。
 それは、半年前、ルナが浴びた憎悪の声とは全く違うものだった。
 ルナは、戸惑いながらも、人々の前に毅然と立った。
 もう、うつむいてはいられない。
 彼女が視線を向けた先には、一人、顔面蒼白で立ち尽くすセレーネの姿があった。

「セレーネ」

 ルナが静かに呼びかけると、セレーネの肩がびくりと震えた。

「なぜ……なぜあんなことをしたの? 私たちは、姉妹だったはずでしょう?」

 その問いに、セレーネの表情が憎悪に歪んだ。

「姉妹ですって!? 笑わせないで! あんたがいたから、私はいつも二番手だった! 聖女の力も、人々の注目も、全部あんたが独り占めして! 私はずっと、あんたの影で生きてきたのよ!」

 嫉妬に狂った叫びが、中庭に響き渡る。

「だから、あんたから全てを奪ってやろうと思ったのよ! 聖女の座も、名声も、全部ね! それなのに……それなのに、どうして! こんな土壇場で、リオネス王子まで味方につけて……!」

 悔しそうに歯噛みするセレーネに、リオネスが冷たい声をかけた。

「それは、ルナが誰よりも清らかで、強い心を持っているからだ。お前のような、邪な心を持つ者には、到底理解できないだろうがな」

「黙れ、不運王子! あんたなんかに、何が分かる!」

 追い詰められたセレーネは、完全に理性を失っていた。
 彼女は懐から、禍々しい紫色の水晶を取り出した。

「こうなったら、もうどうなってもいいわ! この国も、あんたたちも、全部めちゃくちゃにしてあげる!」

 セレーネが水晶を高く掲げ、呪文を唱え始める。

「やめろ、セレーネ!」

 リオネスが止めようとするが、一足遅かった。
 水晶は黒い光を放ち、地面に巨大な魔法陣を描き出す。
 ゴゴゴゴ……!
 大地が揺れ、魔法陣の中心から、どす黒い霧が噴き出した。
 霧はみるみるうちに形をなし、巨大な異形の魔物の姿へと変わっていく。
 鋭い爪、燃えるような赤い瞳、体からは腐臭を放つ邪気が溢れ出していた。
 ギャアアアア!
 人々の悲鳴が上がる。

「くっ……! こんなものを召喚するとは!」

 リオネスは剣を抜き、ルナをかばうように前に立った。
 騎士たちも慌てて陣形を組むが、魔物の放つ凄まじい邪気の前に、足がすくんでいる。

「ははは! どう? この魔物は、この国に溜まった邪気の塊よ! 今のあんたたちに、止められるかしら!」

 高笑いするセレーネ。
 魔物は、その巨大な腕を振り上げ、人々に向かって振り下ろした。
 絶体絶命。
 誰もがそう思った、その時。

「させません!」

 ルナが、リオネスの前に進み出た。
 彼女は瞳を閉じ、両手を胸の前で組むと、静かに祈りを捧げ始めた。
 彼女の体から、再び黄金の光が溢れ出す。
 それは先ほどの光よりも、さらに強く、温かい光だった。
 光は、巨大な障壁となって魔物の腕を受け止めた。

「ぐ……おお……!」

 魔物は、聖なる光に焼かれ、苦しそうに唸り声を上げる。

「すごい……! ルナ様が、魔物を抑え込んでいる!」

 人々が希望の声を上げる。
 しかし、ルナの表情は苦痛に歪んでいた。
 魔物の邪気はあまりにも強大で、彼女一人の力で抑え込むには限界があった。

「ルナ!」

 リオネスが叫ぶ。

「僕に何かできることはないか!?」

「王子様……」

 汗を流しながら、ルナが答える。

「この魔物の核は、セレーネが持っている水晶……! あれを破壊すれば……!」

「分かった!」

 リオネスは、ルナの言葉を聞くと、迷わず剣を構え、魔物に向かって駆け出した。

「殿下、ご無謀です!」

 カイが叫ぶが、リオネスは止まらない。
 彼は、不運王子。
 だが、彼の不運は、邪気を引き寄せる力でもある。
 リオネスが魔物に近づくと、魔物の攻撃が面白いように彼に集中し始めた。
 しかし、リオネスはそれを驚異的な身体能力と、もはや神業としか思えない「不運を利用した幸運」でひらりとかわしていく。
 崩れた柱を足場にして跳躍し、飛んできた瓦礫を盾にする。
 その動きは、まるで計算され尽くした舞のようだった。

「な、なんなのよ、あいつ……! 私の魔物の攻撃が、全然当たらないじゃない!」

 セレーネが焦りの声を上げる。
 その隙を、リオネスは見逃さなかった。
 彼は、魔物の腕を駆け上がると、セレーネに向かって一直線に跳躍した。

「しまっ……!」

 セレーネが反応するより早く、リオネスの剣が閃く。
 キィン! という甲高い音と共に、セレーネの手の中にあった紫色の水晶が、粉々に砕け散った。
 ギ……ギャアアアアアアア!!
 核を失った魔物は、断末魔の叫びを上げながら、光の粒子となって消滅していく。
 魔物が完全に消え去った後、中庭には静寂が戻った。
 呆然と立ち尽くすセレーネの前に、リオネスが剣を突きつける。

「……お前の負けだ、セレーネ」

 セレーネは、その場にへたり込んだ。
 彼女の瞳からは、もう憎しみの光は消え、虚無だけが残っていた。
 聖女の祈りと、王子の剣。
 二つの力が合わさった時、国を覆っていた闇は、完全に払われたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。  リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……  王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。

お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます

咲月ねむと
恋愛
王宮で侍女として働く私、アリシアは、前世の記憶を持つ転生者。清掃員だった前世の知識を活かし、お掃除に情熱を燃やす日々を送っていた。その情熱はいつしか「浄化」というユニークスキルにまで開花!…したことに本人は全く気づいていない。 ​そんなある日、婚約者である第二王子から「お前の周りだけ綺麗すぎて不気味だ!俺の完璧な美貌が霞む!」という理不尽な理由で婚約破棄され、瘴気が漂うという辺境の地へ追放されてしまう。 ​しかし、アリシアはへこたれない。「これで思う存分お掃除ができる!」と目を輝かせ、意気揚々と辺境へ。そこで出会ったのは、「氷の騎士」と恐れられるほど冷徹で、実は極度の綺麗好きである辺境伯カイだった。 ​アリシアがただただ夢中で掃除をすると、瘴気に汚染された土地は浄化され、作物も豊かに実り始める。呪われた森は聖域に変わり、魔物さえも彼女に懐いてしまう。本人はただ掃除をしているだけなのに、周囲からは「伝説の浄化の聖女様」と崇められていく。 ​一方、カイはアリシアの完璧な仕事ぶり(浄化スキル)に心酔。「君の磨き上げた床は宝石よりも美しい。君こそ私の女神だ」と、猛烈なアタックを開始。アリシアは「お掃除道具をたくさんくれるなんて、なんて良いご主人様!」と、これまた盛大に勘違い。 ​これは、お掃除大好き侍女が、無自覚な浄化スキルで辺境をピカピカに改革し、綺麗好きなハイスペックヒーローに溺愛される、勘違いから始まる心温まる異世界ラブコメディ。

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

醜貌の聖女と呼ばれ、婚約破棄されましたが、実は本物の聖女でした

きまま
恋愛
王国の夜会で、第一王子のレオンハルトから婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リリエル・アルヴァリア。 顔を銀の仮面で隠していることから『醜貌の聖女』と嘲られ、不要と切り捨てられた彼女は、そのまま王城を追われることになる。 しかし、その後に待ち受ける国の運命は滅亡へと向かっていた——

「異常」と言われて追放された最強聖女、隣国で超チートな癒しの力で溺愛される〜前世は過労死した介護士、今度は幸せになります〜

赤紫
恋愛
 私、リリアナは前世で介護士として過労死した後、異世界で最強の癒しの力を持つ聖女に転生しました。でも完璧すぎる治療魔法を「異常」と恐れられ、婚約者の王太子から「君の力は危険だ」と婚約破棄されて魔獣の森に追放されてしまいます。  絶望の中で瀕死の隣国王子を救ったところ、「君は最高だ!」と初めて私の力を称賛してくれました。新天地では「真の聖女」と呼ばれ、前世の介護経験も活かして疫病を根絶!魔獣との共存も実現して、国民の皆さんから「ありがとう!」の声をたくさんいただきました。  そんな時、私を捨てた元の国で災いが起こり、「戻ってきて」と懇願されたけれど——「私を捨てた国には用はありません」。  今度こそ私は、私を理解してくれる人たちと本当の幸せを掴みます!

追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!

六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。 家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能! 「ここなら、自由に生きられるかもしれない」 活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。 「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」

「魔法を使わない魔術師を切り捨てた国は、取り返しのつかない後悔をする

藤原遊
ファンタジー
魔法を使わない魔術師は、役に立たない。 そう判断した王国は、彼女を「不要」と切り捨てた。 派手な魔法も、奇跡も起こさない。 彼女がしていたのは、魔力の流れを整え、結界を維持し、 魔法事故が起きないよう“何も起こらない状態”を保つことだけだった。 代わりはいくらでもいる。 そう思われていた仕事は、彼女がいなくなった途端に破綻する。 魔法は暴走し、結界は歪み、 国は自分たちが何に守られていたのかを知る。 これは、 魔法を使わなかった魔術師が、 最後まで何もせずに証明した話。 ※主人公は一切振り返りません。

処理中です...