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第1話:悪役令嬢になったけど、目標は穏便な婚約破棄です
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重厚な天蓋付きベッドの上で目覚めた瞬間、私は悟った。これは、マズイ、と。
視界に映るのは、趣味の悪いほど豪華な調度品。レースとフリルで飾られた部屋は、私の六畳一間のアパートとは天と地ほどの差がある。そして何より、手鏡を覗き込んで飛び込んできた、自分の顔ではない、見覚えのある美少女の姿。
燃えるような赤い髪に、吊り上がった気の強そうな金の瞳。非の打ちどころのない美貌だが、その顔は私のよく知るキャラクターのものだった。
乙女ゲーム『聖なる乙女と七つの光』。
前世で私が唯一ハマったそのゲームの、悪役令嬢イザベラ・フォン・ヴァレンシュタイン。それが、今の私だった。
「嘘でしょ……」
思わず漏れた声は、鈴を転がすような、しかしどこかトゲのある少女の声。
記憶が洪水のように流れ込んでくる。ここはヴァレンシュタイン公爵家。私はその一人娘で、この国の王太子アルフォンス様の婚約者。そして――ゲームのヒロインをいじめ抜いた罪で、卒業パーティーで断罪され、国外追放される運命。
「……絶対に嫌!」
ベッドから飛び起き、シルクのネグリジェがはだけるのも構わず部屋をうろつく。
冗談じゃない。前世では毎日満員電車に揺られ、上司に頭を下げ、深夜まで残業してクタクタになって帰るだけの社畜人生だったのだ。神様が哀れんでくれたのか、ようやく手に入れた第二の人生。今度こそ、今度こそ私は……!
「美味しいものを食べて、昼寝をして、とにかく平穏にダラダラと暮らしたい!」
そう、私の夢は「悠々自適なニート生活」。それ以上は望まない。
そのためには、まず破滅フラグの根源を絶たなければ。
全ての悲劇の始まりは、王太子アルフォンスとの婚約にある。プライドが高く傲慢なイザベラが、王太子の寵愛を独占しようとしてヒロインに嫉妬し、嫌がらせを始める。それがゲームのストーリーだ。
ならば答えは簡単。
王太子と関わらなければいい。彼に嫌われ、愛想をつかされ、穏便に婚約を破棄してもらえば、私はただの金持ち公爵令嬢として、領地の片隅でダラダラ生活を送れるはずだ。
「よし、決めたわ。目標は、穏便な婚約破棄!」
拳を握りしめ、決意を新たにしたその時、部屋の扉がノックされた。
「お嬢様、朝のご準備に伺いました。コンラートでございます」
「……入って」
入ってきたのは、銀髪を隙なく撫でつけ、黒い燕尾服を完璧に着こなした青年執事。ゲームでもイザベラに絶対の忠誠を誓っていた、筆頭執事のコンラートだ。彼の微笑みは完璧すぎて、逆に底が見えない不気味さがある。
「お目覚めはいかがですか、お嬢様」
「ええ、まあ……」
とりあえず令嬢らしく、ふんぞり返って椅子に座る。これから始まる着替えや食事の準備を思うと、すでに少し疲れてきた。ああ、ジャージで一日中過ごしたい。
「今日の午後は、王太子殿下とのお茶会が予定されております」
「……なんですって?」
早速来た、最初の関門。
ここで王太子に会ってしまえば、原作のイザベラならきっと高慢な態度で彼に絡み、最初の悪印象を与えるだろう。だが、今の私は穏便に事を進めたい。悪印象は与えたいが、ヴァレンシュタイン公爵家の名を汚すほどの騒ぎは起こしたくないのだ。面倒だから。
「……そう。王太子様とのお茶会ね……」
どうやって断ろうか。体調不良? いや、すぐに嘘だとバレそうだ。
私はため息をつきながら、本音を漏らした。
「正直、面倒だわ。今日のところは会いたくないのだけれど……」
ああ、何も考えたくない。誰かいい感じに断ってくれないかしら。
そう思いながらコンラートに視線を向けると、彼は恭しく一礼し、完璧な笑みを浮かべて言った。
「承知いたしました。お嬢様のお心を煩わせるものは、全て私が排除いたしましょう」
「え? あ、いや、そういう大げさな話じゃ……」
「お任せください。よしなに計らいますので、お嬢様はどうぞ、ごゆっくりお過ごしください」
そう言うと、コンラートは静かに部屋を出て行った。
……まあ、いいか。有能な執事が上手いこと理由をつけて、お茶会をキャンセルしてくれるのだろう。それならそれで、私は今日一日、部屋でゴロゴロできる。最高じゃないか。
私はすっかり安心しきって、メイドが運んできた紅茶をすすった。
まさかこの時、私の「面倒だわ」という一言が、王宮に最初の嵐を巻き起こす引き金になるとは、夢にも思わずに。
私の平穏なニート生活への道は、初日からあらぬ方向へと曲がり始めていた。
視界に映るのは、趣味の悪いほど豪華な調度品。レースとフリルで飾られた部屋は、私の六畳一間のアパートとは天と地ほどの差がある。そして何より、手鏡を覗き込んで飛び込んできた、自分の顔ではない、見覚えのある美少女の姿。
燃えるような赤い髪に、吊り上がった気の強そうな金の瞳。非の打ちどころのない美貌だが、その顔は私のよく知るキャラクターのものだった。
乙女ゲーム『聖なる乙女と七つの光』。
前世で私が唯一ハマったそのゲームの、悪役令嬢イザベラ・フォン・ヴァレンシュタイン。それが、今の私だった。
「嘘でしょ……」
思わず漏れた声は、鈴を転がすような、しかしどこかトゲのある少女の声。
記憶が洪水のように流れ込んでくる。ここはヴァレンシュタイン公爵家。私はその一人娘で、この国の王太子アルフォンス様の婚約者。そして――ゲームのヒロインをいじめ抜いた罪で、卒業パーティーで断罪され、国外追放される運命。
「……絶対に嫌!」
ベッドから飛び起き、シルクのネグリジェがはだけるのも構わず部屋をうろつく。
冗談じゃない。前世では毎日満員電車に揺られ、上司に頭を下げ、深夜まで残業してクタクタになって帰るだけの社畜人生だったのだ。神様が哀れんでくれたのか、ようやく手に入れた第二の人生。今度こそ、今度こそ私は……!
「美味しいものを食べて、昼寝をして、とにかく平穏にダラダラと暮らしたい!」
そう、私の夢は「悠々自適なニート生活」。それ以上は望まない。
そのためには、まず破滅フラグの根源を絶たなければ。
全ての悲劇の始まりは、王太子アルフォンスとの婚約にある。プライドが高く傲慢なイザベラが、王太子の寵愛を独占しようとしてヒロインに嫉妬し、嫌がらせを始める。それがゲームのストーリーだ。
ならば答えは簡単。
王太子と関わらなければいい。彼に嫌われ、愛想をつかされ、穏便に婚約を破棄してもらえば、私はただの金持ち公爵令嬢として、領地の片隅でダラダラ生活を送れるはずだ。
「よし、決めたわ。目標は、穏便な婚約破棄!」
拳を握りしめ、決意を新たにしたその時、部屋の扉がノックされた。
「お嬢様、朝のご準備に伺いました。コンラートでございます」
「……入って」
入ってきたのは、銀髪を隙なく撫でつけ、黒い燕尾服を完璧に着こなした青年執事。ゲームでもイザベラに絶対の忠誠を誓っていた、筆頭執事のコンラートだ。彼の微笑みは完璧すぎて、逆に底が見えない不気味さがある。
「お目覚めはいかがですか、お嬢様」
「ええ、まあ……」
とりあえず令嬢らしく、ふんぞり返って椅子に座る。これから始まる着替えや食事の準備を思うと、すでに少し疲れてきた。ああ、ジャージで一日中過ごしたい。
「今日の午後は、王太子殿下とのお茶会が予定されております」
「……なんですって?」
早速来た、最初の関門。
ここで王太子に会ってしまえば、原作のイザベラならきっと高慢な態度で彼に絡み、最初の悪印象を与えるだろう。だが、今の私は穏便に事を進めたい。悪印象は与えたいが、ヴァレンシュタイン公爵家の名を汚すほどの騒ぎは起こしたくないのだ。面倒だから。
「……そう。王太子様とのお茶会ね……」
どうやって断ろうか。体調不良? いや、すぐに嘘だとバレそうだ。
私はため息をつきながら、本音を漏らした。
「正直、面倒だわ。今日のところは会いたくないのだけれど……」
ああ、何も考えたくない。誰かいい感じに断ってくれないかしら。
そう思いながらコンラートに視線を向けると、彼は恭しく一礼し、完璧な笑みを浮かべて言った。
「承知いたしました。お嬢様のお心を煩わせるものは、全て私が排除いたしましょう」
「え? あ、いや、そういう大げさな話じゃ……」
「お任せください。よしなに計らいますので、お嬢様はどうぞ、ごゆっくりお過ごしください」
そう言うと、コンラートは静かに部屋を出て行った。
……まあ、いいか。有能な執事が上手いこと理由をつけて、お茶会をキャンセルしてくれるのだろう。それならそれで、私は今日一日、部屋でゴロゴロできる。最高じゃないか。
私はすっかり安心しきって、メイドが運んできた紅茶をすすった。
まさかこの時、私の「面倒だわ」という一言が、王宮に最初の嵐を巻き起こす引き金になるとは、夢にも思わずに。
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