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第7話:ヒロインが懐いてきました
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ヴァレンシュタイン領が、画期的な農業用魔導具によって驚異的な収穫量を上げている。
そんな噂が王宮に届くのに、時間はかからなかった。
そして、その噂を聞きつけ、わざわざ王都から視察にやってきた人物がいた。ゲームヒロインのエマだ。
「よりにもよって、なんでヒロインが来るのよ……」
私は報告を聞き、頭を抱えた。
エマは聖なる力を持ち、人々の暮らしを良くしたいと願う、心優しい少女だ。農業の発展に興味を持つのは当然だろう。しかし、私としては、これ以上破滅フラグの登場人物と関わりたくない。
「コンラート、適当な理由をつけて追い返してちょうだい」
「お嬢様、それはなりません。聖なる乙女と謳われるエマ様を無下に追い返せば、ヴァレンシュタイン家の評判に傷がつきます」
「うっ……。じゃあ、あなたたちが適当にもてなしておいて。私は体調不良で寝込んでいることにするわ」
「承知いたしました」
こうして、私はエマとの接触を避けるため、自室に引きこもることに決めた。
しかし、運命とは意地悪なものだ。
部屋でゴロゴロするのも飽きて、少しだけ気分転換に庭を散歩していた時、私はばったりと彼女に出会ってしまったのだ。
コンラートに案内され、リリアが開発した最新の農業用魔導具(全自動種まき機や、天候予測機など)を見て回っていたエマ。彼女は、私の姿を見つけると、ぱあっと顔を輝かせた。
「イザベラ様! お加減はよろしいのですか?」
「え……ええ、まあ、少しだけ」
しまった、見つかった。気まずさに視線を逸らし、私はさっさとその場を立ち去ろうとした。
その時だった。
エマが私のそばに駆け寄ろうとして、庭の石畳の僅かな段差に気づかず、バランスを崩した。
「きゃっ!」
小さな悲鳴を上げ、彼女の体が傾く。
考えるより先に、私の体が動いていた。前世での社畜時代、混雑した駅のホームで何度も人混みに押された経験が、私のバランス感覚を鍛えていたのかもしれない。
すっと手を伸ばし、倒れそうになるエマの腕を、ぐいと掴んで支える。
「……大丈夫?」
「あ……はい。ありがとうございます、イザベラ様」
顔を赤らめ、エマは私を見上げる。その翠の瞳は、尊敬と憧れで潤んでいた。
違うの。これは不可抗力。というか、条件反射。
しかし、エマには私の行動が全く別のものに見えたらしい。
「イザベラ様……! あなたは、公爵令嬢というお立場でありながら、私のような平民にも、分け隔てなく手を差し伸べてくださるのですね……!」
「え?」
「身分を問わず、困っている者に救いの手を差し伸べる……。それこそ、真の聖女の姿ですわ! 私、感動いたしました!」
違う、違う、そうじゃない。
私はただ、目の前で人が転びそうだったから、助けただけだ。相手が誰かなんて関係ない。
だが、私のそんな本心は、感動で胸がいっぱいになっているヒロインには届かない。
エマは私の手を両手でぎゅっと握りしめ、熱っぽく語り始めた。
「私は、聖なる力を持つと言われていますが、まだまだ未熟者です。でも、イザベラ様のお姿を拝見して、目標ができました。私も、イザベラ様のような、慈愛に満ちた素晴らしい女性になりたいです!」
やめて。そんなキラキラした目で見ないで。
あなたの目標になるような人間じゃないの、私は。中身はただのぐうたらな元会社員なのよ。
この日を境に、エマは完全に私の信者と化した。
「イザベラ様から頂いたお言葉(ただの相槌)を胸に、私も頑張ります!」
「イザベラ様が愛用されているお茶(たまたま出されただけ)は、心が洗われるようです!」
そんな手紙を、頻繁に寄越すようになった。
ヒロインに懐かれる悪役令嬢なんて、聞いたことがない。
ゲームのシナリオは、もはや跡形もなく崩れ去っていた。
そして、このヒロインの心酔っぷりが、さらに面倒な男を呼び寄せることになるのを、私はまだ知らなかった。
そんな噂が王宮に届くのに、時間はかからなかった。
そして、その噂を聞きつけ、わざわざ王都から視察にやってきた人物がいた。ゲームヒロインのエマだ。
「よりにもよって、なんでヒロインが来るのよ……」
私は報告を聞き、頭を抱えた。
エマは聖なる力を持ち、人々の暮らしを良くしたいと願う、心優しい少女だ。農業の発展に興味を持つのは当然だろう。しかし、私としては、これ以上破滅フラグの登場人物と関わりたくない。
「コンラート、適当な理由をつけて追い返してちょうだい」
「お嬢様、それはなりません。聖なる乙女と謳われるエマ様を無下に追い返せば、ヴァレンシュタイン家の評判に傷がつきます」
「うっ……。じゃあ、あなたたちが適当にもてなしておいて。私は体調不良で寝込んでいることにするわ」
「承知いたしました」
こうして、私はエマとの接触を避けるため、自室に引きこもることに決めた。
しかし、運命とは意地悪なものだ。
部屋でゴロゴロするのも飽きて、少しだけ気分転換に庭を散歩していた時、私はばったりと彼女に出会ってしまったのだ。
コンラートに案内され、リリアが開発した最新の農業用魔導具(全自動種まき機や、天候予測機など)を見て回っていたエマ。彼女は、私の姿を見つけると、ぱあっと顔を輝かせた。
「イザベラ様! お加減はよろしいのですか?」
「え……ええ、まあ、少しだけ」
しまった、見つかった。気まずさに視線を逸らし、私はさっさとその場を立ち去ろうとした。
その時だった。
エマが私のそばに駆け寄ろうとして、庭の石畳の僅かな段差に気づかず、バランスを崩した。
「きゃっ!」
小さな悲鳴を上げ、彼女の体が傾く。
考えるより先に、私の体が動いていた。前世での社畜時代、混雑した駅のホームで何度も人混みに押された経験が、私のバランス感覚を鍛えていたのかもしれない。
すっと手を伸ばし、倒れそうになるエマの腕を、ぐいと掴んで支える。
「……大丈夫?」
「あ……はい。ありがとうございます、イザベラ様」
顔を赤らめ、エマは私を見上げる。その翠の瞳は、尊敬と憧れで潤んでいた。
違うの。これは不可抗力。というか、条件反射。
しかし、エマには私の行動が全く別のものに見えたらしい。
「イザベラ様……! あなたは、公爵令嬢というお立場でありながら、私のような平民にも、分け隔てなく手を差し伸べてくださるのですね……!」
「え?」
「身分を問わず、困っている者に救いの手を差し伸べる……。それこそ、真の聖女の姿ですわ! 私、感動いたしました!」
違う、違う、そうじゃない。
私はただ、目の前で人が転びそうだったから、助けただけだ。相手が誰かなんて関係ない。
だが、私のそんな本心は、感動で胸がいっぱいになっているヒロインには届かない。
エマは私の手を両手でぎゅっと握りしめ、熱っぽく語り始めた。
「私は、聖なる力を持つと言われていますが、まだまだ未熟者です。でも、イザベラ様のお姿を拝見して、目標ができました。私も、イザベラ様のような、慈愛に満ちた素晴らしい女性になりたいです!」
やめて。そんなキラキラした目で見ないで。
あなたの目標になるような人間じゃないの、私は。中身はただのぐうたらな元会社員なのよ。
この日を境に、エマは完全に私の信者と化した。
「イザベラ様から頂いたお言葉(ただの相槌)を胸に、私も頑張ります!」
「イザベラ様が愛用されているお茶(たまたま出されただけ)は、心が洗われるようです!」
そんな手紙を、頻繁に寄越すようになった。
ヒロインに懐かれる悪役令嬢なんて、聞いたことがない。
ゲームのシナリオは、もはや跡形もなく崩れ去っていた。
そして、このヒロインの心酔っぷりが、さらに面倒な男を呼び寄せることになるのを、私はまだ知らなかった。
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