無能な悪役令嬢は静かに暮らしたいだけなのに、超有能な側近たちの勘違いで救国の聖女になってしまいました

黒崎隼人

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第9話:学園生活は目立ちたくない

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 領地での生活も束の間、私は貴族の子弟が通う王立学園に入学することになった。ゲームの主要な舞台であり、断罪イベントのクライマックスが待つ場所だ。

「お願いだから、これ以上目立ちたくない……」

 私の目標はただ一つ、「空気」になること。誰とも関わらず、存在感を消し、卒業までの二年間を息を潜めて過ごす。それができれば、断罪エンドも回避できるはずだ。
 しかし、入学初日からその計画は頓挫した。

 新入生代表の挨拶。本来なら成績首席の生徒が務めるのだが、なぜか私の「数々の功績」が考慮され、私が指名されてしまったのだ。
 もちろん、断固拒否した。
「私には、そのような大役は務まりませんわ」
 すると、学園長は感極まったように手を握ってきた。
「おお、なんと謙虚な……! これほどの功績を上げられながら、決して驕らない! イザベラ様、あなたこそ生徒の鑑です!」
 話が通じない。結局、挨拶は無理やり免除してもらったが、その代わりに「謙虚で奥ゆかしい令嬢」という新たな誤解が生まれてしまった。

 教室に入れば、全ての視線が私に突き刺さる。
「あの方が、イザベラ様……」
「噂通りの風格だわ……」
 私はただ、一番後ろの席に座って、窓の外を眺めていただけなのに。

 授業が始まっても、地獄は続く。
 歴史の授業で、教師が私を当てた。
「では、ヴァレンシュタイン嬢。三十年戦争の勝因について、君の見解を聞かせてもらおうか」
 そんな昔のこと、知るわけがない。前世の歴史ですら、年号を覚えるのがやっとだったのだ。
 面倒くさいので、正直に答えることにした。

「……分かりませんわ」

 しん、と教室が静まり返る。
 やがて、教師はゴクリと喉を鳴らし、震える声で言った。
「な、なるほど……! 『分かりません』、と……。つまり、歴史というものは一つの見方で語れるほど単純なものではなく、無数の要因が複雑に絡み合った結果であり、安易な勝因分析など無意味である、と……! 我々を試しておられるのですね! 深い……なんという深淵なご回答でしょう!」

 違う。本当に分からなかっただけだ。
 生徒たちも「さすがイザベラ様だ」「我々とは見ている次元が違う」と感心しきりだ。もう、どうにでもなれ。

 極めつけは、魔法の実技の授業だった。
 生徒が一人ずつ前に出て、的に向かって初級の攻撃魔法を放つ。私の番が来た。
 魔法なんて使ったこともない。呪文の詠唱も面倒くさい。
 ぼーっと突っ立って、杖を振るのも忘れていたら、教師がハッとした顔で叫んだ。

「ま、まさか、あれは……! 杖も使わず、詠唱もせずに魔法を発動させようというのか! 『詠唱破棄』による高等魔法の行使! なんと高レベルな試みを……!」

 違う。ただ、やるのを忘れていただけだ。
 ざわつく生徒たち。注目を浴びて、私はさらにやる気をなくす。もういいや、と思って、適当に「燃えろ」と心の中で念じてみた。
 すると、私の指先から、ぽん、と小さな火花が飛んで、五十メートル先の的をかすめた。
 ただの偶然だ。静電気か何かだろう。

 しかし、周囲の反応は違った。
「み、見たか! 本当に詠唱なしで火球を……!」
「なんて威力だ……的が焦げているぞ……!」
「あれが、ヴァレンシュタイン家の力……!」

 私は、学園でも「規格外の天才」として扱われるようになってしまった。
 無気力な行動のすべてが、裏目に出る。休みたいと保健室に行けば、「ご自身の魔力の高ぶりに、体が耐えきれないのだ」と心配され、食堂でぼーっとしていれば、「次の計略を練っておられる」と噂される。

 空気になりたい、という私のささやかな願いは、木っ端みじんに砕け散った。
 私の学園生活は、入学早々、前途多難すぎるスタートを切ったのだった。
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