無能な悪役令嬢は静かに暮らしたいだけなのに、超有能な側近たちの勘違いで救国の聖女になってしまいました

黒崎隼人

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第12話:誤解が愛に変わる時

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 数々のイザベラの「功績」――その全てが勘違いの産物であるとは知らず、アルフォンス皇太子は、日に日に彼女への想いを募らせていた。

 最初は、ただの好奇心だった。
 自分が知る傲慢な令嬢が、なぜ急に聖女のような評判を得ているのか。その裏にある真実を暴いてやりたい。そんな気持ちで、彼はイザベラを観察し始めた。

 しかし、知れば知るほど、彼女の「深さ」に引き込まれていった。
 彼女の無気力な「分かりません」という一言は、物事の本質を突く哲学的な問いかけに聞こえた。
 ただ杖を振るのを忘れただけの姿は、常人には測り知れない高みを目指す求道者のように見えた。
 粘着質な視線への愚痴は、国家の危機を知らせる警告だった。
 そして、ただの思いつきで語った異国の菓子は、王都に新しい文化を生み出した。

 彼女の行動は、常にアルフォンスの想像を遥かに超えてくる。
 彼女の瞳の奥には、一体どんな世界が見えているのだろう。
 気づけば、アルフォンスはイザベラのことを四六時中考えるようになっていた。
 彼女の、時折見せる物憂げな表情(ただ眠いだけ)は、国の未来を憂いているように見え、庇護欲を掻き立てられた。
 彼女の、面倒くさそうなため息(本当に面倒なだけ)は、凡人には理解できない高尚な悩みを抱えているように思え、尊敬の念を抱いた。

 これは、もう、恋だ。
 アルフォンスは、ついにその想いを自覚した。
 今まで婚約者という立場を疎んじてきたが、今は違う。国を導く王として、隣に立つべきパートナーは、イザベラ・フォン・ヴァレンシュタイン、彼女しかいない。

 決意を固めたアルフォンスは、学園の中庭で一人、日向ぼっこをしていた(という名の昼寝スポットを探していた)イザベラに声をかけた。

「イザベラ」
「……殿下。ごきげんよう」
 眠そうな目をこすりながら、イザベラは気のない返事をする。その無防備な姿すら、アルフォンスの目には魅力的に映った。

「君に、話がある」
 アルフォンスは真摯な瞳で、イザベラをまっすぐに見つめた。
「今までの非礼を詫びたい。私は、君という人間のことを、何も理解していなかった。いや、今もまだ、君の深淵のほんの一端に触れたに過ぎないのかもしれない」
「はあ……」

(何の話かしら、この人……。早く昼寝したいんだけど……)
 イザベラの心の声など知らず、アルフォンスは続ける。

「だが、それでも私は、君という人間をもっと知りたい。君の考えていること、君の見ている世界、その全てを。だから、どうか私に、君の隣にいることを許してはくれないだろうか」

 真剣な告白。それは、事実上のプロポーズにも等しい言葉だった。

 しかし、イザベラには、その言葉が全く違う意味で聞こえていた。
(もっと知りたい? 隣にいろ? これって……!)

 ゲームのシナリオが、彼女の脳裏にフラッシュバックする。
 断罪イベントの直前、攻略対象がヒロインに言うセリフだ。
「君のことをもっと知りたい。僕の隣にいてくれないか」
 それは、悪役令嬢との婚約を破棄し、ヒロインを新たなパートナーとして選ぶ、決別の宣言。

(つ、ついに来た! 断罪イベントの序章よ!)

 イザベラの顔が、さっと青ざめる。
 穏便な婚約破棄を望んでいたはずなのに、いざその瞬間が迫ると、恐怖で足がすくむ。断罪、国外追放……そんな未来は絶対に嫌だ!

「い、嫌ですわ! お断りします!」
「なっ……!?」
 予想外の即答に、アルフォンスが目を見開く。

「わ、私は、これ以上あなたに関わるつもりはありません! 失礼しますわ!」
 イザベラは、生まれて初めてと言っていいほどの全力疾走で、その場から逃げ出した。
 残されたアルフォンスは、呆然と立ち尽くす。

「断られた……だと……?」
 彼の求愛は、彼女の強すぎる拒絶によって、木っ端微塵に砕かれた。
 しかし、アルフォンスはそこで諦めるような男ではなかった。

「……そうか。まだ、私は君の隣に立つに値しない、ということか。ならば、証明してみせる。私が、君のパートナーに相応しい男であることを。必ずだ、イザベラ」

 燃え上がる、王太子の征服欲と恋心。
 一方、全力で逃げ出したイザベラは、自室のベッドに飛び込み、震えていた。
「ど、どうしよう……! もうすぐ断罪されちゃう! 何か手を打たないと……!」

 二人の壮大なすれ違いは、もはやラブコメの領域に突入していた。
 一方は愛の告白だと思い、もう一方は破滅の宣告だと思っている。
 この誤解が解ける日は、果たして来るのだろうか。
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