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第14話:三国会談の裏側で
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王国を干ばつから救った「聖女」として、私の評判はもはや手のつけられないレベルにまで達していた。
そんな中、近隣の二つの大国との関係改善を目的とした、三国会談が開かれることになった。
父であるヴァレンシュタイン公爵は、我が国の代表団の一人だ。しかし、会談の直前に運悪く持病の腰痛を悪化させてしまい、動けなくなってしまった。
「イザベラ、すまないが、私の代理として会談に出席してくれないか」
「絶対に嫌ですわ」
即答する私に、父は泣きついた。
「頼む! ただ座っているだけでいい! ヴァレンシュタイン家から誰も出席しないわけにはいかないのだ。それに、今の『聖女』であるお前が出席すれば、他国への牽制にもなる!」
結局、私は無理やり会談の席に着かされることになった。
場所は、三国の中間地点にある中立都市。厳粛な雰囲気の中、我が国の国王陛下、そして隣国と、そのまた隣の帝国の元首たちが、難しい顔でテーブルを囲んでいる。議題は、国境線の画定や関税問題など、私にはちんぷんかんぷんなことばかり。
(退屈だわ……。早く帰って昼寝がしたい……)
私は、あくびを噛み殺しながら、ただひたすら時が過ぎるのを待った。
しかし、会談は遅々として進まない。各国の主張がぶつかり合い、議論は平行線をたどるばかりだ。
手持ち無沙汰になった私は、テーブルの上に広げられた広大な三国の地図を、ぼうっと眺め始めた。
ふと、給仕が淹れてくれた紅茶のカップを倒してしまい、地図の上に茶色いシミができてしまった。
「あっ……」
慌ててハンカチで拭うが、シミは広がるばかり。まずい、と焦った私は、ごまかすように、指先でシミをにじませ、線を引いたり、丸を描いたりして、落書きを始めた。
川のシミを、山脈のシミに繋げてみたり。国のちょうど真ん中に、丸いシミを作ってみたり。
完全に、退屈しのぎの無意味な行為だった。
しかし、その私の行動を、各国の首脳たちは、全く違う意味で捉えていた。
最初に気づいたのは、我が国の国王陛下だった。
(む……! イザベラ嬢の指の動きは……! あの川と山脈を繋ぐ線は、新たな交易路の提案か! そして、三国の中央に描いた円は、非武装の中立緩衝地帯を意味していると……!?)
その意図(という名の勘違い)は、隣国の老獪な王にも伝わった。
(ほう……。ヴァレンシュタインの聖女、ただの飾りではなかったか。あの交易路は、確かに三国全てに利益をもたらす。緩衝地帯を設ければ、長年の軍事的緊張も緩和される。なんと的確な……!)
帝国の若い皇帝も、目を見開いた。
(これが、あの奇跡を起こした聖女の示す未来……! 争いではなく、共存共栄の道。なんと壮大で、慈悲深い提案だ!)
三人の首脳は、顔を見合わせた。そして、深くうなずき合う。
今まで何日もかけて議論しても解決しなかった問題が、イザベラの紅茶のシミ一つで、解決の糸口を見出したのだ。
「……ヴァレンシュタイン嬢のご提案、我が国は全面的に受け入れたいと思う」
国王陛下が口火を切ると、
「うむ、我が国も異存ない」
「帝国も、その和平案に賛同しよう」
と、隣国、帝国の首脳も同意した。
「え?」
落書きをしていた私は、きょとんとして顔を上げた。
何の話をしているのだろう。
こうして、私の紅茶のシミが元になり、歴史的な和平協定が結ばれることになった。
新たな交易路は「聖女の道(セント=イザベラ・ロード)」と名付けられ、三国の経済は飛躍的に発展。軍事緩衝地帯の設置により、長年の緊張関係は雪解けを迎えた。
世界史の教科書に載るレベルの偉業だ。
もちろん、その最大の功労者は、私ということになった。
「聖女イザベラ、地図に神の一筆を描き、三国に百年続く平和をもたらす」
吟遊詩人たちは、そんな歌を作って私の偉業を称えた。
もう、何も言うまい。
私はただ、紅茶をこぼしただけなのだ。本当に。
そんな中、近隣の二つの大国との関係改善を目的とした、三国会談が開かれることになった。
父であるヴァレンシュタイン公爵は、我が国の代表団の一人だ。しかし、会談の直前に運悪く持病の腰痛を悪化させてしまい、動けなくなってしまった。
「イザベラ、すまないが、私の代理として会談に出席してくれないか」
「絶対に嫌ですわ」
即答する私に、父は泣きついた。
「頼む! ただ座っているだけでいい! ヴァレンシュタイン家から誰も出席しないわけにはいかないのだ。それに、今の『聖女』であるお前が出席すれば、他国への牽制にもなる!」
結局、私は無理やり会談の席に着かされることになった。
場所は、三国の中間地点にある中立都市。厳粛な雰囲気の中、我が国の国王陛下、そして隣国と、そのまた隣の帝国の元首たちが、難しい顔でテーブルを囲んでいる。議題は、国境線の画定や関税問題など、私にはちんぷんかんぷんなことばかり。
(退屈だわ……。早く帰って昼寝がしたい……)
私は、あくびを噛み殺しながら、ただひたすら時が過ぎるのを待った。
しかし、会談は遅々として進まない。各国の主張がぶつかり合い、議論は平行線をたどるばかりだ。
手持ち無沙汰になった私は、テーブルの上に広げられた広大な三国の地図を、ぼうっと眺め始めた。
ふと、給仕が淹れてくれた紅茶のカップを倒してしまい、地図の上に茶色いシミができてしまった。
「あっ……」
慌ててハンカチで拭うが、シミは広がるばかり。まずい、と焦った私は、ごまかすように、指先でシミをにじませ、線を引いたり、丸を描いたりして、落書きを始めた。
川のシミを、山脈のシミに繋げてみたり。国のちょうど真ん中に、丸いシミを作ってみたり。
完全に、退屈しのぎの無意味な行為だった。
しかし、その私の行動を、各国の首脳たちは、全く違う意味で捉えていた。
最初に気づいたのは、我が国の国王陛下だった。
(む……! イザベラ嬢の指の動きは……! あの川と山脈を繋ぐ線は、新たな交易路の提案か! そして、三国の中央に描いた円は、非武装の中立緩衝地帯を意味していると……!?)
その意図(という名の勘違い)は、隣国の老獪な王にも伝わった。
(ほう……。ヴァレンシュタインの聖女、ただの飾りではなかったか。あの交易路は、確かに三国全てに利益をもたらす。緩衝地帯を設ければ、長年の軍事的緊張も緩和される。なんと的確な……!)
帝国の若い皇帝も、目を見開いた。
(これが、あの奇跡を起こした聖女の示す未来……! 争いではなく、共存共栄の道。なんと壮大で、慈悲深い提案だ!)
三人の首脳は、顔を見合わせた。そして、深くうなずき合う。
今まで何日もかけて議論しても解決しなかった問題が、イザベラの紅茶のシミ一つで、解決の糸口を見出したのだ。
「……ヴァレンシュタイン嬢のご提案、我が国は全面的に受け入れたいと思う」
国王陛下が口火を切ると、
「うむ、我が国も異存ない」
「帝国も、その和平案に賛同しよう」
と、隣国、帝国の首脳も同意した。
「え?」
落書きをしていた私は、きょとんとして顔を上げた。
何の話をしているのだろう。
こうして、私の紅茶のシミが元になり、歴史的な和平協定が結ばれることになった。
新たな交易路は「聖女の道(セント=イザベラ・ロード)」と名付けられ、三国の経済は飛躍的に発展。軍事緩衝地帯の設置により、長年の緊張関係は雪解けを迎えた。
世界史の教科書に載るレベルの偉業だ。
もちろん、その最大の功労者は、私ということになった。
「聖女イザベラ、地図に神の一筆を描き、三国に百年続く平和をもたらす」
吟遊詩人たちは、そんな歌を作って私の偉業を称えた。
もう、何も言うまい。
私はただ、紅茶をこぼしただけなのだ。本当に。
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