無能な悪役令嬢は静かに暮らしたいだけなのに、超有能な側近たちの勘違いで救国の聖女になってしまいました

黒崎隼人

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第21話:私の平穏な未来のために

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 アルフォンス皇太子からの、熱烈なプロポーズ。
 私は、深呼吸を一つして、決意を込めて口を開いた。

「殿下。そのお申し出ですが――」
「お待ちください、お嬢様!」

 私の言葉を遮って、どこからともなく三人の忠臣が現れた。いつの間に現れたのか、コンラート、リリア、ダリウスが、私の背後にずらりと並び、アルフォンス皇太子を睨みつけている。

「誠に恐縮ながら、お嬢様を煩わせる前に、我々から一つ、よろしいでしょうか」
 コンラートが、代表して口を開く。

 プロポーズを邪魔されて、さすがのアルフォンスも眉を顰めた。
「何だ、お前たち」
「殿下。お嬢様は、これまでご自身の御身を顧みず、この国のために尽くしてこられました。そのご心労は、我々凡人の測り知るところではございません」

 コンラートの言葉に、私は(え? 私、寝てただけだけど……)と心の中でツッコむ。

 リリアが続く。
「お嬢様の唯一の願いは、安らかなること。誰にも邪魔されず、静かに思索に耽る時間を確保することです」
(思索じゃなくて、昼寝なんだけどな……)

 ダリウスが締める。
「お嬢様の安寧を脅かす者は、たとえ王族であろうと、我らが許しません!」
(いや、別に脅かされてはいないから!)

 三人の過保護すぎる発言に、私は頭が痛くなってきた。
 しかし、この忠臣たちの乱入が、思わぬ方向に事態を転がすことになる。

 私は、彼らの言葉に乗っかることにした。そうだ、これを理由に断ればいいんだわ!
「その通りですわ、殿下! 私は、もう疲れました! これ以上、国の問題などに関わるのはごめんです! ですから、王妃になるなど、とんでもない!」
 私は、全力で面倒くさがりな自分をアピールした。これだけやる気のない人間を、さすがに王妃にはしないだろう。

 しかし、アルフォンスは、私の拒絶を聞いても、少しも怯まなかった。それどころか、彼は深くうなずき、うっとりとした表情で言った。
「そうか……。君は、全てを成し遂げた今、権力や名声には興味がなく、ただ静かな生活を望んでいるのだな。なんと欲がなく、高潔な精神だ……。ますます君に惚れ込んでしまった」

 話が通じない!
 この人も、相当な勘違い体質だった!

 すると、ここで私の忠臣たちが、とんでもない悪魔の囁きを始めた。

 コンラートが私に耳打ちする。
「お嬢様、お考え直しください。妃殿下になれば、この国で最高の権力を手に入れることができます。そうなれば、誰もお嬢様のなさることに口出しはできません。つまり、誰にも邪魔されず、一日中ダラダラとお過ごしになることが可能になりますぞ」

 リリアが、目を輝かせて言う。
「そうですわ、お嬢様! 妃殿下の研究予算は、実質、無限です! 『あったらいいな』と思われたものを、私が全て、いくらでも開発してご覧に入れます! 全自動着替えマシーンも、全自動食事補助アームも、思いのままです!」

 ダリウスが、力強く断言する。
「妃殿下の護衛は、王国騎士団の総力を挙げて行います! お昼寝を邪魔するハエ一匹たりとも、近づけはしません!」

 ……ん?
 なんだか、彼らの言っていることが、とても魅力的に聞こえてきた。
 国一番の権力で、誰にも文句を言われずダラダラできる?
 最新技術で、何もしなくても生活できる?
 最強の騎士団が、私の昼寝を守ってくれる?

「……それって、最高なのでは?」
 私の口から、本音が漏れた。

 その言葉を聞いたアルフォンスは、顔を輝かせた。
「イザベラ! では、受け入れてくれるのか!」
 私は、コホンと一つ咳払いをして、令嬢らしく微笑んだ。

「……ええ、まあ、殿下がそこまでおっしゃるなら、考えて差し上げてもよろしくてよ?」

 そして、私は一つだけ、条件を出した。
「ただし! 一日三度の昼寝と、食後のおやつの時間は、何があっても保証していただきますわ!」

 私のその言葉を、アルフォンスは、またしても深読みした。
(一日三度、政務から離れ、国全体の状況を俯瞰し、冷静に思考する時間を確保する、ということか……! なんと素晴らしい。彼女らしい、深謀遠慮だ!)

「ああ、もちろん約束しよう! 君の望みは、全て叶える!」
 アルフォンスは、満面の笑みで私の手を取り、その甲に口づけをした。

 こうして、私は将来のニート生活を確約させるため、アルフォンス皇太子のプロポーズを受け入れた。
 私がただダラダラしたいだけの無能な悪役令嬢であることに、結局、最後まで誰も気づくことはなかった。
 まあ、結果的に理想の生活が手に入るなら、それでいいか。
 私の平穏な(?)未来は、こうして守られたのだった。
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