無能な悪役令嬢は静かに暮らしたいだけなのに、超有能な側近たちの勘違いで救国の聖女になってしまいました

黒崎隼人

文字の大きさ
24 / 24

エピローグ:勘違い王妃の、ちっとも穏やかじゃない毎日

しおりを挟む
 数年後。
 私は、アルフォンス国王の妃となり、イザベラ王妃として、まあ、それなりに暮らしていた。
 約束通り、私の生活は手厚く保障されている。一日三度の昼寝は、何よりも優先されるべき国家行事として扱われ、私がまどろんでいる間は、王城全体が静寂に包まれるほどだ。

 今日も今日とて、私は王宮の庭園にある木陰のハンモックで、うとうとしていた。
(ああ、平和だわ……。これぞ、私が求めていた生活……)

 しかし、その平穏は、すぐに破られる。
 遠くから、視察に来た農林大臣が、私の姿を見て、そばにいた役人に感動した声で話しているのが聞こえてきた。
「見ろ! 王妃様は、自ら木陰でまどろむことで、国土の緑化政策の重要性を我々に示しておられるのだ! 木々がもたらす安らぎと涼……これこそ、我が国の目指すべき姿! すぐに新たな植林計画を立てるのだ!」
 ……違う。ただ、日差しがまぶしかっただけだ。

 昼寝から覚めて、ラウンジでお茶を飲んでいれば、隣国の大使が、私の手元を凝視している。
「ほう……王妃様が今日お選びになった茶葉は、東方の乾燥地帯でしか取れない希少なもの……。これは、我が国との貿易において、砂漠の向こうにある新興国との関係を重視せよ、という無言のメッセージか……! 恐るべき外交手腕だ……!」
 ……違う。コンラートが「新作です」って出してきたから、何も考えずに飲んでるだけだ。

 結局、王妃になっても、私の周りの勘違いは少しも収まらなかった。
 むしろ、立場が上がったことで、勘違いのスケールが国家レベル、国際レベルにまで拡大してしまっている。

「イザベラ、また何か面白いことを考えているのか?」
 夫となったアルフォンスが、愛おしそうに私を見つめてくる。彼の目には、私が今もなお、深遠なる知恵を秘めた、世界一ミステリアスで魅力的な女性に映っているらしい。

「別に、何も考えていませんわ。今夜のデザートのことくらいです」
「ははは、そう言って、君はいつも私を驚かせる。君のその謙虚さが、私は好きなんだ」
 もう、何を言っても無駄だ。

 背後には、相変わらず、コンラート、リリア、ダリウスが控えている。
 彼らは、私のどんな些細な言動も見逃すまいと、その瞳をキラキラさせている。
 そして、すっかり私の親友になったエマは、今日も「王妃様に捧げる祈りの会」という、ちょっとどうかと思う活動に勤しんでいるらしい。

 私の望んだ「静かで平穏なニート生活」とは、少し、いや、だいぶ違う。
 毎日が、勘違いと深読みと、それに伴う騒動の連続だ。

 でも、
 美味しいお菓子があって、ふかふかのベッドがあって、私を絶対的に肯定してくれる人たちが、すぐそばにいる。

「……まあ、悪くはない、か」

 ぽつりと呟いたその言葉を、また周りが深読みして、新たな騒動が起きるのかもしれない。
 それでも、このちっとも穏やかじゃないけれど、まんざらでもない幸せな毎日を、私はこれからも生きていくのだろう。

 勘違い王妃の、波乱万丈な日々は、まだまだ始まったばかりだ。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

悪役令嬢に転生したけど、破滅エンドは王子たちに押し付けました

タマ マコト
ファンタジー
27歳の社畜OL・藤咲真帆は、仕事でも恋でも“都合のいい人”として生きてきた。 ある夜、交通事故に遭った瞬間、心の底から叫んだーー「もう我慢なんてしたくない!」 目を覚ますと、乙女ゲームの“悪役令嬢レティシア”に転生していた。 破滅が約束された物語の中で、彼女は決意する。 今度こそ、泣くのは私じゃない。 破滅は“彼ら”に押し付けて、私の人生を取り戻してみせる。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

絞首刑まっしぐらの『醜い悪役令嬢』が『美しい聖女』と呼ばれるようになるまでの24時間

夕景あき
ファンタジー
ガリガリに痩せて肌も髪もボロボロの『醜い悪役令嬢』と呼ばれたオリビアは、ある日婚約者であるトムス王子と義妹のアイラの会話を聞いてしまう。義妹はオリビアが放火犯だとトムス王子に訴え、トムス王子はそれを信じオリビアを明日の卒業パーティーで断罪して婚約破棄するという。 卒業パーティーまで、残り時間は24時間!! 果たしてオリビアは放火犯の冤罪で断罪され絞首刑となる運命から、逃れることが出来るのか!?

【完結】モブの王太子殿下に愛されてる転生悪役令嬢は、国外追放される運命のはずでした

Rohdea
恋愛
公爵令嬢であるスフィアは、8歳の時に王子兄弟と会った事で前世を思い出した。 同時に、今、生きているこの世界は前世で読んだ小説の世界なのだと気付く。 さらに自分はヒーロー(第二王子)とヒロインが結ばれる為に、 婚約破棄されて国外追放となる運命の悪役令嬢だった…… とりあえず、王家と距離を置きヒーロー(第二王子)との婚約から逃げる事にしたスフィア。 それから数年後、そろそろ逃げるのに限界を迎えつつあったスフィアの前に現れたのは、 婚約者となるはずのヒーロー(第二王子)ではなく…… ※ 『記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました』 に出てくる主人公の友人の話です。 そちらを読んでいなくても問題ありません。

処理中です...