出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人

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第1話「出来損ないの追放と、不毛の荒野」

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「カイ・アシュフィールド。本日をもって貴様を勘当し、アシュフィールド家より追放する」

 冷たく響き渡る声が、豪華絢爛な謁見の間にこだました。
 声の主は俺の父親であり、このアシュフィールド子爵家の当主であるロベルト。その氷のような視線は実の息子である俺にではなく、まるで道端の石ころにでも向けられているかのようだ。

 隣には勝ち誇った笑みを浮かべる長兄のグレンと、その腰巾着である次兄のダリルが控えている。母親や他の使用人たちは皆うつむき、我関せずといった態度だ。

『あーあ、ついにこの日が来てしまったか』

 俺は内心でため息をついた。
 俺の名前はカイ・アシュフィールド。この世界に生を受けて十五年。そして何を隠そう、俺は転生者だ。
 前世は日本のブラック企業に勤めるしがないサラリーマンで、連日の徹夜と栄養ドリンクの過剰摂取がたたり、三十路を前にあっけなく過労死した。

 次に目が覚めたら、この剣と魔法のファンタジー世界で貴族の三男坊になっていたというわけだ。
 貴族! なんて甘美な響きだろう。今度こそはのんびりスローライフを送れると期待したのも束の間、この世界は厳しい実力社会だった。
 全ては『魔力』の有無、その量で決まる。

 そして悲しいかな、俺にはその魔力が全くと言っていいほど無かった。
 魔力に優れた長兄グレン、そこそこの魔力を持つ次兄ダリルに比べ、三男の俺は『出来損ない』。それがこの家での俺の立ち位置だった。

「魔力も持たぬ貴様をこれ以上アシュフィールドの名で養っておくわけにはいかん。我が家の恥だ」

 父上の言葉は刃物のように心をえぐる。まあ、十五年も言われ続ければさすがに慣れるけど。

「追放先は決めてある。西の『嘆きの荒野』だ。あそこなら貴様の醜聞が王都に届くこともあるまい」

「嘆きの……荒野……」

 思わず声が漏れた。
 嘆きの荒野。それはあまりの土地の痩せように、草の一本すら生えず魔物さえ寄り付かないと言われる不毛の地だ。追放というより、これはもう遠回しな処刑宣告と変わらない。

「くくっ、出来損ないにはお似合いの土地じゃないか。せいぜい野垂れ死にするんだな、カイ」

 グレン兄上が心の底から楽しそうに笑う。
 本当に性格の悪い奴だ。いつか痛い目にあえばいいのに。

 俺は抵抗する気力も失せ、黙って父上の言葉を受け入れた。どうせ何を言っても無駄なのだ。

 こうして俺は着の身着のまま、最低限の食料と水を詰めた袋一つを持たされ屋敷から追い出された。誰一人、見送る者はいなかった。
 屋敷の門が背後で閉まる重い音を聞きながら、俺は自嘲気味に笑う。

「スローライフどころか、ハードモードからのスタートかよ……」

 屋敷から貸し与えられた痩せ馬に揺られること三日。
 目の前に広がる光景に俺は言葉を失った。

 赤茶けた大地が地平線の果てまで続き、乾いた風が砂塵を巻き上げる。生命の気配が一切感じられない、まさに死の大地。ここが『嘆きの荒野』か。

「酷い……噂以上だな、これは」

 馬は俺を降ろすと一目散に逃げるように来た道を引き返していった。動物の本能が、ここが危険な場所だと告げているのだろう。
 残されたのは俺一人。食料はあと一日分もない。

『これから、どうすればいいんだ……』

 途方に暮れてその場にへたり込む。
 前世は社畜として使い潰され、今世は出来損ないと蔑まれ追放。俺の人生、呪いでもかかっているのか?

「もう……疲れたな……」

 いっそこのまま全てを投げ出してしまおうか。
 そんな弱気な考えが頭をよぎった、その時だった。

 ――ピロン♪

 突如、脳内に軽やかな電子音が響いた。

『ん? なんだ?』

【チュートリアルを開始します。ユニークスキル『絶対農域(ゴッド・フィールド)』を解放しました】

 頭の中に直接システムメッセージのようなものが流れ込んでくる。

『絶対……農域? なんだそれ?』

 まるでゲームのようだと困惑していると、再びメッセージが続く。

【『絶対農域』は、あらゆる植物を育成し支配することができる神聖領域創造スキルです】
【スキルを使用しますか? YES / NO】

 なんだかよく分からないが、この状況で他に選択肢などない。
 俺は藁にもすがる思いで、心の中で『YES』と叫んだ。

 その瞬間、俺の足元から淡い緑色の光があふれ出した。
 光は波紋のように広がり、俺を中心とした半径百メートルほどの範囲を覆い尽くす。
 すると、信じられないことが起こった。

 ゴゴゴゴゴ……!

 赤茶けてひび割れていた大地が、まるで生き物のように蠢き、みるみるうちに黒く栄養をたっぷり含んだであろう肥沃な土へと変わっていく。
 乾ききっていた空気は潤いを含み、心地よい風が吹き始めた。

「うそ……だろ……」

 目の前の光景が信じられず、俺は呆然と立ち尽くす。
 荒れ果てた不毛の大地が、ほんの数分で世界で一番豊かそうな農地に変わってしまったのだ。

【領域の創造が完了しました。次に、居住空間を確保しますか?】

『お、お願いします!』

 俺が念じると領域の隅の地面が盛り上がり、あっという間に小さなログハウスが形成された。井戸まで完備されている。

「マジか……本当に家ができた……」

 恐る恐るドアを開けて中に入る。木の香りが心地よい、簡素だが清潔な部屋だった。テーブルもベッドも、生活に必要な最低限の家具がそろっている。

【初期設定を完了しました。それでは、素晴らしい農業ライフをお楽しみください!】

 脳内の声はそれきり聞こえなくなった。
 俺はしばらく家の内外を歩き回り、夢ではないことを確かめる。頬をつねるとちゃんと痛かった。

「すげぇ……なんだこのスキル……」

 魔力はゼロなのに、こんな神様みたいな力が使えるなんて。
 もしかしてこれが転生特典というやつか? 前世で徳を積んだ覚えはないけど、過労死した俺への哀れみだろうか。

 理由はどうあれ、これで生きる希望が見えてきた。
 食料も、住む場所も手に入ったのだ。

「よし!」

 俺は気合を入れ直し、服のポケットを探った。追放される直前、唯一同情的だった老執事がこっそり握らせてくれた小さな袋。中にはいくつかの野菜の種が入っていた。

「まずは食料確保だ。早速、何か植えてみるか」

 俺は出来たばかりのフカフカの畑に立ち、トマトの種を一粒土に埋めた。
 スキルでできた畑だ。きっと、すごい作物が育つに違いない。

 そう期待した、次の瞬間だった。

 グンッ!

 種を植えた場所から緑色の芽が勢いよく飛び出した。
 それはまるで早送り映像のようにぐんぐん伸びて葉を広げ、あっという間に花を咲かせ、そして青い実をつけた。
 さらに実は見る見るうちに赤く色づき、数秒後には拳ほどもある真っ赤なトマトが鈴なりになっていた。

「…………は?」

 あまりの出来事に俺の思考は完全に停止した。
 種を植えてから収穫まで、わずか十秒。

『農業チートってレベルじゃないぞ、これ!』

 俺は恐る恐る、その真っ赤なトマトを一つもぎ取ってみる。ずっしりと重く、太陽の光を浴びて宝石のようにきらきらと輝いていた。

 ゴクリと喉を鳴らし、思い切ってかぶりつく。

 シャクッ!

 果汁が口の中であふれ出し、脳天を突き抜けるような衝撃が走った。
 信じられないほどの甘みと、それを引き立てる絶妙な酸味。濃厚な旨味が舌の上で踊り、今まで食べてきたどんなトマトとも比較にならない、まさに『完璧』な味がした。

「うっ……ま……!」

 あまりの美味さに涙がこぼれそうになる。
 追放されてからまともな食事もできず、心身ともに疲れ果てていた。この一個のトマトが、乾いた心と体に染み渡っていく。

 俺は夢中でトマトを食べ終えると、天を仰いでガッツポーズをした。

「最高だ……! これならここで生きていける!」

 出来損ないと蔑まれ、全てを奪われた。
 だが俺は最強の農業スキルを手に入れた。

 嘆きの荒野? 上等じゃないか。
 ここを世界一の楽園に変えてやる。

 こうして俺の辺境での気ままな(?)スローライフが、静かに幕を開けたのだった。
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