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第12話「招かれざる客と兄の陰謀」
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聖女セレスティアとの、穏やかで甘い日々。
このまま平和な時間がずっと続くのだろうと、俺は漠然と思っていた。
だがそんな俺の甘い考えを打ち砕くように、招かれざる客はなんの前触れもなくやってきた。
その日、俺とセレスティアはテル村へ向かっていた。
村人たちに新しく収穫できるようになったトウモロコシを、お披露目するためだ。
甘くてプチプチとした食感のトウモロコシは、きっと子供たちに大人気だろう。俺たちはそんな話をしながら、和やかに道を歩いていた。
テル村の入り口が見えてきた、その時だった。
村の様子がいつもと違うことに気づいた。
村の入り口に数人の屈強な男たちが、見張りとして立っている。その出で立ちは村人ではなく、どこかの貴族に仕える私兵のようだった。
そして村の中からは怒声や、何かが壊れるような音が聞こえてくる。
村人たちの悲鳴のような声も混じっていた。
「……何か、あったのでしょうか」
セレスティアが不安そうな顔でつぶやく。
俺の胸にも黒い予感が広がった。
俺たちは顔を見合わせると、急いで村の中へと駆け込んだ。
そこに広がっていたのは、信じがたい光景だった。
村の中央広場に、見慣れない豪華な馬車が停まっている。
その周りでは鎧を着た兵士たちが村人たちを威圧し、家々を物色していた。
村長の家のドアは蹴破られ、中から物が投げ出されている。
「やめてくれ! 何も取るものなどない!」
村長の悲痛な叫びが聞こえる。
トムをはじめとした村の若者たちが抵抗しようとしているが、屈強な兵士たちにいとも簡単にねじ伏せられていた。
「一体、何事です!」
セレスティアが凛とした声で叫んだ。
その声に兵士たちが一斉にこちらを振り返る。
聖女である彼女の姿を認め、兵士たちは一瞬たじろいだ。
その時、豪華な馬車の中から一人の男が尊大な態度で降りてきた。
その顔を見て、俺は全身の血が凍りつくのを感じた。
艶やかな黒髪、冷酷な光を宿す瞳。
俺を出来損ないと蔑み家から追い出した、忌まわしき次兄、ダリル・アシュフィールドだった。
「これはこれは、セレスティア聖女様。このような辺境の村で、お目にかかれるとは光栄ですな」
ダリルは聖女であるセレスティアの前でも傲慢な態度を崩さず、嫌味ったらしい笑みを浮かべた。
「ダリル・アシュフィールド……! あなたこそ、ここで何をしているのです! この狼藉は、一体どういうことです!」
セレスティアは怒りを込めてダリルを睨みつけた。
するとダリルはわざとらしく肩をすくめてみせた。
「お言葉ですが、聖女様。我々は王家からの密命を受けて、あるものを捜索しているのです。この村の者たちがそれを隠しているという情報がありましてね。少しばかり、協力をお願いしているのですよ」
「密命ですって? わたくしは、そのような話一切聞いておりません!」
「それはそうでしょう。極秘の任務ですからな。聖女様とて、知る由もない」
ダリルは鼻で笑う。
その目が、セレスティアの隣に立つ俺の姿を捉えた。
ダリルの目が大きく見開かれる。
そして次の瞬間、その顔は憎悪と侮蔑の色で醜く歪んだ。
「……カイ……? なぜ、出来損ないのお前が、こんなところにいる……!」
「……兄さん」
俺は低い声でつぶやいた。
会いたくなかった。二度と顔も見たくなかった男。
どうして、こいつがここにいるんだ。
ダリルは俺とセレスティアが一緒にいるのを見て、何かを勘違いしたようだった。
彼は下卑た笑みを浮かべ、俺を指さした。
「なるほどな……! そういうことか! 聖女様に取り入って、まんまと匿ってもらっていたというわけか、このクズが!」
「違います! カイ様は、そのような方では……!」
セレスティアが俺をかばうように前に出る。
だがダリルは完全に自分の妄想に囚われていた。
彼は俺の足元で唸り声を上げているルプスに気づくと、さらに顔を歪ませた。
「ほう、小汚い犬まで飼っているのか。出来損ないにはお似合いのペットだな」
その言葉に俺の中で、何かがぷつりと切れた。
俺のことをどう罵ろうと構わない。
だが俺の大切な家族を侮辱することだけは、絶対に許さない。
「……謝れ」
俺は地を這うような低い声で言った。
「あ? なんだ、聞こえんな」
ダリルは俺を嘲笑う。
「ルプスに、謝れと言っているんだ」
俺の瞳には自分でも分かるほど、冷たい怒りの炎が燃え盛っていた。
その気迫にダリルは一瞬、怯んだように後ずさった。
だが彼はすぐに虚勢を張るように、大声で笑い出した。
「はっ! 寝言は寝て言え、出来損ないが! 貴様ごときがこの俺に口答えするとは、身の程を知れ!」
ダリルは腰の剣に手をかけた。
「ちょうどいい。こんなところで会ったのも何かの縁だ。ここで、アシュフィールド家の恥を消し去ってやる!」
ダリルが剣を抜き放つ。
周りの兵士たちも一斉に武器を構えた。
村人たちが悲鳴を上げる。
「おやめなさい!」
セレスティアの制止の声も、もはやダリルの耳には届いていない。
俺は静かに、一歩前へ出た。
ルプスが俺の前に立ちふさがるように、牙を剥く。
「ルプス、下がっていろ。こいつらは、俺の獲物だ」
俺の言葉にルプスは不満そうにしながらも、素直に後ろへ下がった。
俺は何も持たない、丸腰のままダリルと対峙する。
「武器も持たずにどうするつもりだ? 恐怖で足がすくんだか?」
ダリルが勝ち誇ったように笑う。
俺は答えなかった。
ただ静かに、地面に手を触れる。
そしてスキルを発動させた。
『絶対農域』。
その力は俺の領域内でなくとも、俺が触れた大地にある程度の影響を及ぼすことができる。
俺はダリルたちの足元の地面に、意識を集中させた。
「なめるなよ、出来損ないがぁっ!」
ダリルが剣を振りかぶり、俺に斬りかかってくる。
その瞬間だった。
ドゴォォォン!!!
ダリルと、その周りにいた兵士たちの足元の地面が、突如として巨大な落とし穴のように崩落した。
「「「うわああああっ!!?」」」
兵士たちはなすすべもなく、深い穴の中へと落ちていく。
ダリルも咄嗟に地面を蹴って避けようとしたが、間に合わなかった。
「な、なんだとぉっ!?」
悲鳴を上げながらダリルもまた、穴の底へと姿を消した。
一瞬の静寂。
村人たちもセレスティアも、目の前で起こった出来事が信じられないという顔で、ぽっかりと空いた巨大な穴を見つめている。
俺は土煙が収まるのを待って、穴の縁から中を覗き込んだ。
深さは五メートルほどだろうか。
ダリルたちは穴の底で互いに折り重なるようにして、うめき声を上げていた。幸い死人は出ていないようだ。
「……何が、起こった……?」
ダリルが呆然とつぶやく。
俺はそんな彼を、冷たい目で見下ろした。
「言ったはずだ。謝れ、と」
俺の静かな声が広場に響き渡る。
俺を追放し、俺の大切な村を荒らし、俺の家族を侮辱した兄。
その愚かな男に俺は容赦するつもりは、毛頭なかった。
このまま平和な時間がずっと続くのだろうと、俺は漠然と思っていた。
だがそんな俺の甘い考えを打ち砕くように、招かれざる客はなんの前触れもなくやってきた。
その日、俺とセレスティアはテル村へ向かっていた。
村人たちに新しく収穫できるようになったトウモロコシを、お披露目するためだ。
甘くてプチプチとした食感のトウモロコシは、きっと子供たちに大人気だろう。俺たちはそんな話をしながら、和やかに道を歩いていた。
テル村の入り口が見えてきた、その時だった。
村の様子がいつもと違うことに気づいた。
村の入り口に数人の屈強な男たちが、見張りとして立っている。その出で立ちは村人ではなく、どこかの貴族に仕える私兵のようだった。
そして村の中からは怒声や、何かが壊れるような音が聞こえてくる。
村人たちの悲鳴のような声も混じっていた。
「……何か、あったのでしょうか」
セレスティアが不安そうな顔でつぶやく。
俺の胸にも黒い予感が広がった。
俺たちは顔を見合わせると、急いで村の中へと駆け込んだ。
そこに広がっていたのは、信じがたい光景だった。
村の中央広場に、見慣れない豪華な馬車が停まっている。
その周りでは鎧を着た兵士たちが村人たちを威圧し、家々を物色していた。
村長の家のドアは蹴破られ、中から物が投げ出されている。
「やめてくれ! 何も取るものなどない!」
村長の悲痛な叫びが聞こえる。
トムをはじめとした村の若者たちが抵抗しようとしているが、屈強な兵士たちにいとも簡単にねじ伏せられていた。
「一体、何事です!」
セレスティアが凛とした声で叫んだ。
その声に兵士たちが一斉にこちらを振り返る。
聖女である彼女の姿を認め、兵士たちは一瞬たじろいだ。
その時、豪華な馬車の中から一人の男が尊大な態度で降りてきた。
その顔を見て、俺は全身の血が凍りつくのを感じた。
艶やかな黒髪、冷酷な光を宿す瞳。
俺を出来損ないと蔑み家から追い出した、忌まわしき次兄、ダリル・アシュフィールドだった。
「これはこれは、セレスティア聖女様。このような辺境の村で、お目にかかれるとは光栄ですな」
ダリルは聖女であるセレスティアの前でも傲慢な態度を崩さず、嫌味ったらしい笑みを浮かべた。
「ダリル・アシュフィールド……! あなたこそ、ここで何をしているのです! この狼藉は、一体どういうことです!」
セレスティアは怒りを込めてダリルを睨みつけた。
するとダリルはわざとらしく肩をすくめてみせた。
「お言葉ですが、聖女様。我々は王家からの密命を受けて、あるものを捜索しているのです。この村の者たちがそれを隠しているという情報がありましてね。少しばかり、協力をお願いしているのですよ」
「密命ですって? わたくしは、そのような話一切聞いておりません!」
「それはそうでしょう。極秘の任務ですからな。聖女様とて、知る由もない」
ダリルは鼻で笑う。
その目が、セレスティアの隣に立つ俺の姿を捉えた。
ダリルの目が大きく見開かれる。
そして次の瞬間、その顔は憎悪と侮蔑の色で醜く歪んだ。
「……カイ……? なぜ、出来損ないのお前が、こんなところにいる……!」
「……兄さん」
俺は低い声でつぶやいた。
会いたくなかった。二度と顔も見たくなかった男。
どうして、こいつがここにいるんだ。
ダリルは俺とセレスティアが一緒にいるのを見て、何かを勘違いしたようだった。
彼は下卑た笑みを浮かべ、俺を指さした。
「なるほどな……! そういうことか! 聖女様に取り入って、まんまと匿ってもらっていたというわけか、このクズが!」
「違います! カイ様は、そのような方では……!」
セレスティアが俺をかばうように前に出る。
だがダリルは完全に自分の妄想に囚われていた。
彼は俺の足元で唸り声を上げているルプスに気づくと、さらに顔を歪ませた。
「ほう、小汚い犬まで飼っているのか。出来損ないにはお似合いのペットだな」
その言葉に俺の中で、何かがぷつりと切れた。
俺のことをどう罵ろうと構わない。
だが俺の大切な家族を侮辱することだけは、絶対に許さない。
「……謝れ」
俺は地を這うような低い声で言った。
「あ? なんだ、聞こえんな」
ダリルは俺を嘲笑う。
「ルプスに、謝れと言っているんだ」
俺の瞳には自分でも分かるほど、冷たい怒りの炎が燃え盛っていた。
その気迫にダリルは一瞬、怯んだように後ずさった。
だが彼はすぐに虚勢を張るように、大声で笑い出した。
「はっ! 寝言は寝て言え、出来損ないが! 貴様ごときがこの俺に口答えするとは、身の程を知れ!」
ダリルは腰の剣に手をかけた。
「ちょうどいい。こんなところで会ったのも何かの縁だ。ここで、アシュフィールド家の恥を消し去ってやる!」
ダリルが剣を抜き放つ。
周りの兵士たちも一斉に武器を構えた。
村人たちが悲鳴を上げる。
「おやめなさい!」
セレスティアの制止の声も、もはやダリルの耳には届いていない。
俺は静かに、一歩前へ出た。
ルプスが俺の前に立ちふさがるように、牙を剥く。
「ルプス、下がっていろ。こいつらは、俺の獲物だ」
俺の言葉にルプスは不満そうにしながらも、素直に後ろへ下がった。
俺は何も持たない、丸腰のままダリルと対峙する。
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俺は答えなかった。
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そしてスキルを発動させた。
『絶対農域』。
その力は俺の領域内でなくとも、俺が触れた大地にある程度の影響を及ぼすことができる。
俺はダリルたちの足元の地面に、意識を集中させた。
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ダリルが剣を振りかぶり、俺に斬りかかってくる。
その瞬間だった。
ドゴォォォン!!!
ダリルと、その周りにいた兵士たちの足元の地面が、突如として巨大な落とし穴のように崩落した。
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兵士たちはなすすべもなく、深い穴の中へと落ちていく。
ダリルも咄嗟に地面を蹴って避けようとしたが、間に合わなかった。
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悲鳴を上げながらダリルもまた、穴の底へと姿を消した。
一瞬の静寂。
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俺は土煙が収まるのを待って、穴の縁から中を覗き込んだ。
深さは五メートルほどだろうか。
ダリルたちは穴の底で互いに折り重なるようにして、うめき声を上げていた。幸い死人は出ていないようだ。
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