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第14話「国王からの新たな依頼と男爵位」
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ダリルが捕らえられてから数日後。
俺の元に再び王都からの使者が訪れた。
もちろんエリアナだ。もはや彼女は王都と俺の領域を繋ぐ、専属の連絡係のようになっている。
「カイ殿、急な話で申し訳ない。国王陛下が是非とも君に会って、直接話をしたいと仰っている」
開口一番、エリアナはそう言った。
またか、と俺は内心でため息をついた。王宮に行くのは気が進まない。
「断る、と言いたいところですが……。何か、ただ事ではないようですね」
エリアナの表情が、いつになく真剣だったからだ。
彼女はこくりとうなずいた。
「ああ。例の、君の兄……グレン・アシュフィールドが関わっている」
その名を聞いて、俺の表情も険しくなる。
やはりあの男が何かを企んでいるらしい。
「弟のダリルは反逆罪で地下牢に投獄され、近いうちに爵位剥奪の上、国外追放となるだろう。だがグレンは巧みに自分は無関係であると主張し、罪を逃れた。それどころか……」
エリアナは苦々しい表情で続けた。
「ヤツは今回の事件を逆手に取り、こう吹聴して回っている。『弟は、聖女を誑かした悪しき魔術師を討とうとしただけだ。その魔術師こそが、王家を脅かす元凶である』と」
「なんだと……?」
俺は思わず声を荒げた。
罪を俺になすりつけ、自分は正義の味方だと主張しているというのか。
どこまでも腐りきった男だ。
「もちろん国王陛下や我々は、君が悪しき魔術師などではないと分かっている。だがグレンは一部の貴族を扇動し、君を断罪せよ、と陛下に圧力をかけてきているのだ」
「……厄介なことになりましたね」
俺が他人事のようにつぶやくと、エリアナは真剣な目で俺を見つめてきた。
「そこで陛下は決断された。君を正式に王国の貴族として迎え入れ、その身分を保証する、と」
「はぁ!? 貴族!?」
俺は思わず素頓狂な声を上げた。
追放された俺が、再び貴族になる? 冗談じゃない。
「もちろん君がそれを望まないことは分かっている。だが聞いてほしい。これは君の身を守るためでもあるのだ。平民のままではグレンのような権力を持つ貴族に、何をされるか分からない。だが君が貴族となれば、ヤツも簡単には手出しできなくなる」
エリアナの言うことには一理ある。
グレンの妨害から身を守るには、こちらも相応の地位が必要になるかもしれない。
「……陛下は、俺に何をしろと?」
「カイ殿。君に男爵(バロン)の位を授けたい。そしてこの『嘆きの荒野』一帯を、君の正式な領地として与える、と」
エリアナは衝撃的な言葉を口にした。
この不毛の大地が、俺の領地になる。
そして俺は、カイ・アシュフィールドではなくカイ男爵になる。
あまりに現実味のない話だった。
だが国王の決意は固いようだった。
「領地経営など、やったこともありませんが……」
「心配はいらない。君は今まで通りこの地で農業を続けてくれればいい。君の作る作物はもはやこの国の食料事情を、ひいては国力そのものを左右する重要な戦略物資だ。それをグレンのような輩から守ること。それが国王陛下の本当の狙いだ」
なるほど。
俺個人を守るというより、俺の生み出す『奇跡の作物』を国家として保護下に置きたい、ということか。
それならば話は分かる。
俺が黙って考え込んでいると、隣で話を聞いていたセレスティアが口を開いた。
「カイ様。わたくしはカイ様がお決めになったことに従います。ですが、もしカイ様が貴族になることでご自身の身を守れるのであれば……わたくしはそれに賛成です」
彼女は俺のことを心から心配してくれているようだった。
その言葉が俺の背中を押した。
正直、貴族なんて面倒なだけだ。
でもセレスティアを不安にさせたくない。テル村の皆を危険な目に遭わせたくない。
そして何より、俺の愛するこの静かなスローライフを守りたい。
そのためなら男爵くらいの位、受けてやろうじゃないか。
「……分かりました。その話、お受けします」
俺がそう言うとエリアナは、ほっとしたように安堵の息を漏らした。
「そうか! 感謝する、カイ殿!」
「ただし、条件があります。叙爵の儀式とやらで王都に行くのは一度きり。それ以外は、この領地から離れるつもりはありません。領地の運営も基本的には俺のやり方でやらせてもらいます」
「ああ、もちろんだ! 陛下もそれを望んでおられる」
話はまとまった。
数日後、俺はセレスティアとエリアナに連れられて、生まれて初めて王都の土を踏むことになった。
厳重に人払いがされた城の一室で、俺はクロービス国王と謁見した。
威厳のある、しかし温和な雰囲気の初老の男性だった。
国王は娘を救ってくれた俺に何度も感謝の言葉を述べ、そして正式に俺を『カイ・フォン・アークライト』男爵に叙することを宣言した。
アークライトは国王が俺のために考えてくれた、新しい家名だ。
叙爵の儀はごくごく内密に、しかし厳粛に行われた。
俺は慣れない貴族の服に身を包み、国王から男爵の位を示す印章を受け取った。
その日の夜。
俺の叙爵を祝うささやかな宴が、城の一室で開かれた。
参加者は国王と、回復したリリアーナ王女、そしてセレスティアとエリアナだけだ。
リリアーナ王女はセレスティアとはまた違うタイプの、天真爛漫な魅力のある美しい少女だった。
彼女は俺の手を取ると、満面の笑みで言った。
「カイ様! 本当に、ありがとうございました! あなたのお野菜がなければ、わたくしは今頃……。このご恩は、一生忘れませんわ!」
「お元気になられて何よりです、王女様」
宴は和やかな雰囲気で進んだ。
国王は俺の作る野菜の可能性について熱心に語り、今後の食糧問題の解決に大きな期待を寄せていた。
俺は場違いな感じに少し居心地の悪さを感じながらも、出された料理に舌鼓を打った。
宮廷料理人が俺の野菜を使って作った料理は、さすがに絶品だった。
だがこの和やかな宴の裏で、グレン・アシュフィールドがさらなる陰謀を企てていることを、俺たちはまだ知らなかった。
俺の叙爵は彼の嫉妬の炎に、さらに油を注ぐ結果となったのだ。
貴族になったことで俺の生活は、守られるのか。
それともさらに大きな面倒事に、巻き込まれていくのか。
答えはまだ誰にも分からなかった。
ただ俺は、新しい自分の領地で変わらずに土を耕し続けるだけだ。
それが俺の唯一の戦い方なのだから。
俺の元に再び王都からの使者が訪れた。
もちろんエリアナだ。もはや彼女は王都と俺の領域を繋ぐ、専属の連絡係のようになっている。
「カイ殿、急な話で申し訳ない。国王陛下が是非とも君に会って、直接話をしたいと仰っている」
開口一番、エリアナはそう言った。
またか、と俺は内心でため息をついた。王宮に行くのは気が進まない。
「断る、と言いたいところですが……。何か、ただ事ではないようですね」
エリアナの表情が、いつになく真剣だったからだ。
彼女はこくりとうなずいた。
「ああ。例の、君の兄……グレン・アシュフィールドが関わっている」
その名を聞いて、俺の表情も険しくなる。
やはりあの男が何かを企んでいるらしい。
「弟のダリルは反逆罪で地下牢に投獄され、近いうちに爵位剥奪の上、国外追放となるだろう。だがグレンは巧みに自分は無関係であると主張し、罪を逃れた。それどころか……」
エリアナは苦々しい表情で続けた。
「ヤツは今回の事件を逆手に取り、こう吹聴して回っている。『弟は、聖女を誑かした悪しき魔術師を討とうとしただけだ。その魔術師こそが、王家を脅かす元凶である』と」
「なんだと……?」
俺は思わず声を荒げた。
罪を俺になすりつけ、自分は正義の味方だと主張しているというのか。
どこまでも腐りきった男だ。
「もちろん国王陛下や我々は、君が悪しき魔術師などではないと分かっている。だがグレンは一部の貴族を扇動し、君を断罪せよ、と陛下に圧力をかけてきているのだ」
「……厄介なことになりましたね」
俺が他人事のようにつぶやくと、エリアナは真剣な目で俺を見つめてきた。
「そこで陛下は決断された。君を正式に王国の貴族として迎え入れ、その身分を保証する、と」
「はぁ!? 貴族!?」
俺は思わず素頓狂な声を上げた。
追放された俺が、再び貴族になる? 冗談じゃない。
「もちろん君がそれを望まないことは分かっている。だが聞いてほしい。これは君の身を守るためでもあるのだ。平民のままではグレンのような権力を持つ貴族に、何をされるか分からない。だが君が貴族となれば、ヤツも簡単には手出しできなくなる」
エリアナの言うことには一理ある。
グレンの妨害から身を守るには、こちらも相応の地位が必要になるかもしれない。
「……陛下は、俺に何をしろと?」
「カイ殿。君に男爵(バロン)の位を授けたい。そしてこの『嘆きの荒野』一帯を、君の正式な領地として与える、と」
エリアナは衝撃的な言葉を口にした。
この不毛の大地が、俺の領地になる。
そして俺は、カイ・アシュフィールドではなくカイ男爵になる。
あまりに現実味のない話だった。
だが国王の決意は固いようだった。
「領地経営など、やったこともありませんが……」
「心配はいらない。君は今まで通りこの地で農業を続けてくれればいい。君の作る作物はもはやこの国の食料事情を、ひいては国力そのものを左右する重要な戦略物資だ。それをグレンのような輩から守ること。それが国王陛下の本当の狙いだ」
なるほど。
俺個人を守るというより、俺の生み出す『奇跡の作物』を国家として保護下に置きたい、ということか。
それならば話は分かる。
俺が黙って考え込んでいると、隣で話を聞いていたセレスティアが口を開いた。
「カイ様。わたくしはカイ様がお決めになったことに従います。ですが、もしカイ様が貴族になることでご自身の身を守れるのであれば……わたくしはそれに賛成です」
彼女は俺のことを心から心配してくれているようだった。
その言葉が俺の背中を押した。
正直、貴族なんて面倒なだけだ。
でもセレスティアを不安にさせたくない。テル村の皆を危険な目に遭わせたくない。
そして何より、俺の愛するこの静かなスローライフを守りたい。
そのためなら男爵くらいの位、受けてやろうじゃないか。
「……分かりました。その話、お受けします」
俺がそう言うとエリアナは、ほっとしたように安堵の息を漏らした。
「そうか! 感謝する、カイ殿!」
「ただし、条件があります。叙爵の儀式とやらで王都に行くのは一度きり。それ以外は、この領地から離れるつもりはありません。領地の運営も基本的には俺のやり方でやらせてもらいます」
「ああ、もちろんだ! 陛下もそれを望んでおられる」
話はまとまった。
数日後、俺はセレスティアとエリアナに連れられて、生まれて初めて王都の土を踏むことになった。
厳重に人払いがされた城の一室で、俺はクロービス国王と謁見した。
威厳のある、しかし温和な雰囲気の初老の男性だった。
国王は娘を救ってくれた俺に何度も感謝の言葉を述べ、そして正式に俺を『カイ・フォン・アークライト』男爵に叙することを宣言した。
アークライトは国王が俺のために考えてくれた、新しい家名だ。
叙爵の儀はごくごく内密に、しかし厳粛に行われた。
俺は慣れない貴族の服に身を包み、国王から男爵の位を示す印章を受け取った。
その日の夜。
俺の叙爵を祝うささやかな宴が、城の一室で開かれた。
参加者は国王と、回復したリリアーナ王女、そしてセレスティアとエリアナだけだ。
リリアーナ王女はセレスティアとはまた違うタイプの、天真爛漫な魅力のある美しい少女だった。
彼女は俺の手を取ると、満面の笑みで言った。
「カイ様! 本当に、ありがとうございました! あなたのお野菜がなければ、わたくしは今頃……。このご恩は、一生忘れませんわ!」
「お元気になられて何よりです、王女様」
宴は和やかな雰囲気で進んだ。
国王は俺の作る野菜の可能性について熱心に語り、今後の食糧問題の解決に大きな期待を寄せていた。
俺は場違いな感じに少し居心地の悪さを感じながらも、出された料理に舌鼓を打った。
宮廷料理人が俺の野菜を使って作った料理は、さすがに絶品だった。
だがこの和やかな宴の裏で、グレン・アシュフィールドがさらなる陰謀を企てていることを、俺たちはまだ知らなかった。
俺の叙爵は彼の嫉妬の炎に、さらに油を注ぐ結果となったのだ。
貴族になったことで俺の生活は、守られるのか。
それともさらに大きな面倒事に、巻き込まれていくのか。
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