出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人

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第20話「アシュフィールド家の没落と兄の暴走」

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 俺たちが領地の防衛を固めている、まさにその頃。
 王都のアシュフィールド家では、グレンが苛立ちを募らせていた。

「バルカス子爵も冒険者ギルドも、使えん奴らばかりだ……!」

 彼は机に置かれた高価なグラスを壁に叩きつけて粉々に砕いた。
 何をしてもカイの妨害はうまくいかない。
 それどころかカイの評判は日に日に高まり、今や『辺境の聖人』として民衆から絶大な支持を集め始めている。
 国王からの信頼も厚い。

 それに引き換え自分はどうだ。
 弟のダリルが反逆罪で投獄されたことで、アシュフィールド家の評判は地に落ちた。
 グレン自身も国王から冷遇されるようになり、貴族社会での彼の立場は危うくなっている。
 全てはあの出来損ないのカイのせいだ。
 あの時、情けをかけず確実に息の根を止めておくべきだった。
 グレンは心の底から後悔と憎悪に身を焦がしていた。

「もはや小細工は通用せん……」

 グレンはつぶやいた。
 その瞳には正気とは思えない、狂的な光が宿っている。

「こうなれば力づくで全てを奪い取るまでだ。カイ、お前の持つその奇跡の力も、土地も、女も、名声も、全てこの俺が手に入れてやる……!」

 彼は私兵団の隊長を呼びつけた。
 そして冷酷に命令を下す。

「全軍に告げよ。明日、夜明けと共に西の『嘆きの荒野』へ進軍する。目標はカイ・アークライトの首だ」

 隊長は驚いて反論する。
「し、しかしグレン様! 国王陛下の許可なく軍を動かすのは、明らかな反逆罪に……!」

「黙れ!」

 グレンは一喝する。
「カイを王家を誑かす悪しき魔術師として討伐するのだ。これは国を思う我が家の正義の戦いよ。事が終われば陛下とて我らを称賛するはずだ」

 もはや彼の耳には誰の言葉も届かない。
 嫉妬と野心に完全に心を食い尽くされ、彼は破滅への道を突き進もうとしていた。

 そして、その計画にはもう一人、協力者がいた。

「くくく……。それでこそ我が主君にふさわしい」

 部屋の暗がりからフードを目深にかぶった、不気味な男が姿を現した。

「準備は整っているか」

 グレンの問いに、男は頷く。
「はい。我がゼニス帝国が誇る古代の魔導具……『狂戦士の仮面』。これを使えば兵士たちは痛みも恐怖も感じない、最強の戦士となりましょう」

 男は懐から禍々しいオーラを放つ仮面を、いくつか取り出した。
 彼は隣国ゼニス帝国のスパイだった。
 帝国はクロービス王国の国力を削ぐため、内乱を画策していたのだ。
 そしてその手駒として、野心家のグレンに接触してきたというわけだ。

 グレンは仮面を満足そうに眺める。
「これがあればカイの奇妙な術も破れるだろう。よし、全兵士にこれを装着させろ」

「御意に」

 男は不気味に笑い、闇の中へと消えていった。
 グレンは窓の外を見つめる。
 その先には忌まわしい弟がいる、西の空が広がっている。

「待っていろよ、カイ。お前の全てを、俺が喰らい尽くしてやる……!」

 グレンの狂気の決断は、すぐに王都のエリアナの耳にも届いた。
 彼女はすぐさま俺の元へと馬を飛ばした。

「カイ殿! グレンが動いた! 私兵団およそ五百を率いて、この領地へと向かっている!」

 エリアナの切羽詰まった報告に、俺たちはついにこの時が来たかと覚悟を決めた。

「五百か。思ったより多いな」

 ダグが口笛を吹く。

「だが、問題ない。準備はできている」

 俺は静かに頷いた。
 セレスティアが俺の隣で祈りを捧げている。
 彼女の祈りが、俺たち守る者たちに聖なる加護を与えてくれる。

 俺は小高い丘の上に立ち、地平線の彼方を見つめた。
 やがて黒い蟻の群れのようなアシュフィールド家の軍勢が、砂塵を巻き上げながら姿を現した。
 先頭で馬を駆るのは、黒い鎧に身を包んだグレン・アシュフィールド。
 その顔は狂戦士の仮面で覆われている。
 他の兵士たちも同様に、不気味な仮面を装着していた。
 彼らから発せられる気は、もはや人間のそれではなかった。

「全軍、突撃ぃぃぃっ!」

 グレンの狂気に満ちた号令が響き渡る。
 五百の兵士が雄叫びを上げ、俺たちの領地へと殺到してくる。
 決戦の火蓋が切って落とされた。

 俺は静かに右手を天に掲げた。

「迎え撃て。俺の愛すべき兵士たちよ」

 俺の号令に、大地が震えた。
 畑から土を突き破り、無数の野菜兵(ベジタブル・ソルジャー)たちが姿を現す。
 カボチャが、スイカが、トウモロコシが、まるで本物の軍隊のように隊列を組み、敵軍を待ち構える。

「な、なんだ、あれは……!?」

 アシュフィールド家の兵士たちが、目の前の異様な光景に動揺する。
 だが仮面の力か、彼らは恐怖を乗り越え突撃を続行する。

「行けぇっ!」

 俺が手を振り下ろすと同時に、野菜兵たちが一斉に突撃を開始した。
 ここに、世界で最も奇妙で、そして壮絶な戦いが始まったのだ。
 兄と弟。
 光と闇。
 二つの運命が今、激しくぶつかり合う。
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