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第25話「セレスティアの不調と世界樹の伝説」
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リリスと名乗る謎の女が去ってからしばらくの間、俺の領地には再び平穏が戻ってきた。
帝国からの新たな接触もなく、俺たちは少しずつあの日の不気味な出来事を忘れかけていた。
だが、新たな、そしてより深刻な問題が静かに進行していた。
それはセレスティアの身に起きていた。
最初は些細な変化だった。
「なんだか最近、疲れやすいのです……」
彼女はそう言って首を傾げることが多くなった。
あれほど元気に畑仕事を手伝ってくれていたのに、最近はすぐに息を切らしてしまう。
顔色もどこか優れないように見えた。
俺は心配になり、彼女に滋養強壮効果の高い特別な野菜を使った料理を毎日食べさせた。
だが症状は一向に改善しなかった。
それどころか彼女の体調は、日に日に悪化していくようだった。
そしてある朝。
事件は起こった。
「セレスティア様が倒れられました!」
シルフィの悲鳴のような声が響き渡った。
俺が慌てて彼女の家に駆けつけると、セレスティアはベッドの上でぐったりと意識を失っていた。
その体は氷のように冷たく、呼吸も浅い。
「どうしたんだ、これは!?」
「分かりませんわ……。今朝、様子を見に来たら既にこの状態で……」
シルフィは涙ながらに答える。
グラン爺がセレスティアの脈を取り、魔法で彼女の体を調べる。
だが彼は首を横に振るだけだった。
「ダメじゃ……。原因が分からん。病ではない…。何者かによる極めて高度で未知の呪術……あるいは彼女の生命力そのものを直接吸い取るような、神の領域の術かもしれん……」
「そんな……!」
俺は愕然とした。
聖女である彼女の生命力が失われている?
一体なぜそんなことが。
俺は必死に自分のスキルで作り出した最高級の回復効果を持つ薬草を、彼女の口に含ませた。
だが効果はなかった。
彼女の体は俺の奇跡の作物の力を、受け付けなくなっていたのだ。
「くそっ! なぜだ!」
俺は壁を殴りつけた。
自分の無力さが悔しかった。
この最強のスキルを持ってしても、俺は目の前で弱っていく大切な人を救うことができないのか。
その時、グラン爺が何かを思い出したように言った。
「……一つだけ、可能性があるやもしれん」
「本当か、グラン爺!?」
俺は藁にもすがる思いで彼に詰め寄った。
グラン爺は古い書物を紐解きながら語り始めた。
「古の伝説じゃ。この世界にはかつて、全ての生命の源となった『世界樹』と呼ばれる巨大な樹があったという」
「世界樹……?」
「うむ。その樹は枯れた大地を蘇らせ、病める者を癒し、死者さえも蘇らせる奇跡の力を持っていたと言われておる。そしてその樹が流す樹液は『世界樹の涙』と呼ばれ、あらゆる不治の病を癒す究極の霊薬じゃったと」
「その世界樹の涙があれば、セレスティアさんを助けられるかもしれない、と?」
「あくまで伝説じゃがな」
グラン爺は難しい顔で言った。
「問題はその世界樹がどこにあるかじゃ。神話の時代に枯れてしまったとも言われておるし、今も世界のどこかでひっそりと生きているとも言われておる。誰もその場所を知らんのじゃ」
絶望的な話だった。
どこにあるかも分からない伝説の樹を探せというのか。
セレスティアの命の灯火は今にも消えそうだ。
そんな時間は残されていない。
俺がうなだれていると、ダグが俺の肩を力強く叩いた。
「カイ、諦めるな。まだだ、まだ手はあるはずだ」
「でも、どうしろって言うんだ……」
「お前のそのスキルは何だ? あらゆる植物を生み出し、操る神の力じゃねえのか?」
ダグの言葉に、俺ははっとした。
そうだ。俺のスキルは『絶対農域』。
世界樹だって植物だ。
ならば……。
「……もしかしたら」
俺の脳裏に、一つのとんでもない可能性がひらめいた。
「グラン爺! その世界樹の種とか、苗とかは残ってないのか!?」
俺の突拍子もない質問に、グラン爺は目を丸くした。
「な、何を言うとるんじゃ。神話の時代の植物の種なぞ、残っておるはずが……。いや、待てよ……」
グラン爺は再び書物をめくり始めた。
そしてあるページを指さした。
「……あったぞ! 世界樹は枯れる間際にたった一つだけ、未来に希望を託す種を残したと書かれておる! その種は『始まりの種』と呼ばれ、世界のどこかで目覚めの時を待っていると……!」
始まりの種。
それさえ手に入れれば。
俺のこのスキルで、世界樹を蘇らせることができるかもしれない。
「その種はどこにあるんだ!?」
グラン爺は古文書の地図を指さした。
「この地図によると……。この国の北の果て、『忘却の遺跡』と呼ばれる古代遺跡の最深部に眠っているとされておる」
忘却の遺跡。
そこは凶悪な魔物と古代の罠が渦巻く、誰も生きては帰れないと言われる伝説のダンジョンだ。
Aランク冒険者の紅蓮のグリフォンでさえ、踏破したことはないという。
だが俺に迷いはなかった。
「……俺が行ってくる」
俺は力強く宣言した。
「カイ!?」
「無茶ですわ!」
仲間たちが俺を止めようとする。
だが俺の決意は固かった。
「セレスティアさんを助けられる可能性があるなら、俺はどこへだって行く。たとえそれが地獄の底でも」
俺の真剣な目に、仲間たちは何も言えなくなった。
ダグが覚悟を決めたように頷いた。
「……分かった。カイ、お前がそう言うなら俺たちも一緒に行くぜ。忘却の遺跡、上等じゃねえか。Aランクパーティーの実力、見せてやるよ」
「わたくしたちも、もちろんですわ」
「カイ兄が行くなら俺も行く!」
「ふぉっふぉっふぉ。たまには骨のある冒険も悪くないわい」
仲間たちが次々と同行を申し出てくれる。
俺は胸が熱くなるのを感じた。
「ありがとう、みんな。でもセレスティアさんの看病も必要だ。それにこの領地を空にはできない」
俺はダグに向かって言った。
「ダグさんたちにはセレスティアさんとこの領地を守っていてほしい。遺跡には俺とルプスだけで行く」
「なっ!? 正気か、カイ! お前一人で、あの魔境に乗り込むってのか!?」
「ああ」
俺は静かに頷いた。
「俺にはこいつがいる。それに俺の力は、ああいう場所でこそ真価を発揮するはずだ」
俺の決意は揺るがなかった。
仲間たちは俺の覚悟を感じ取り、最終的には俺の単独行を認めてくれた。
俺は眠り続けるセレスティアの手を握った。
その手はまだ冷たいままだった。
「待っててくれ、セレスティアさん。必ず帰ってくる。あんたを救う奇跡を、持って」
俺は彼女の額にそっと口づけをすると、部屋を後にした。
相棒のルプスを連れて。
目指すは北の秘境、忘却の遺跡。
これは俺の人生で最大で、最も危険な冒険の始まりだった。
全てはたった一人の、大切な女性を救うために。
帝国からの新たな接触もなく、俺たちは少しずつあの日の不気味な出来事を忘れかけていた。
だが、新たな、そしてより深刻な問題が静かに進行していた。
それはセレスティアの身に起きていた。
最初は些細な変化だった。
「なんだか最近、疲れやすいのです……」
彼女はそう言って首を傾げることが多くなった。
あれほど元気に畑仕事を手伝ってくれていたのに、最近はすぐに息を切らしてしまう。
顔色もどこか優れないように見えた。
俺は心配になり、彼女に滋養強壮効果の高い特別な野菜を使った料理を毎日食べさせた。
だが症状は一向に改善しなかった。
それどころか彼女の体調は、日に日に悪化していくようだった。
そしてある朝。
事件は起こった。
「セレスティア様が倒れられました!」
シルフィの悲鳴のような声が響き渡った。
俺が慌てて彼女の家に駆けつけると、セレスティアはベッドの上でぐったりと意識を失っていた。
その体は氷のように冷たく、呼吸も浅い。
「どうしたんだ、これは!?」
「分かりませんわ……。今朝、様子を見に来たら既にこの状態で……」
シルフィは涙ながらに答える。
グラン爺がセレスティアの脈を取り、魔法で彼女の体を調べる。
だが彼は首を横に振るだけだった。
「ダメじゃ……。原因が分からん。病ではない…。何者かによる極めて高度で未知の呪術……あるいは彼女の生命力そのものを直接吸い取るような、神の領域の術かもしれん……」
「そんな……!」
俺は愕然とした。
聖女である彼女の生命力が失われている?
一体なぜそんなことが。
俺は必死に自分のスキルで作り出した最高級の回復効果を持つ薬草を、彼女の口に含ませた。
だが効果はなかった。
彼女の体は俺の奇跡の作物の力を、受け付けなくなっていたのだ。
「くそっ! なぜだ!」
俺は壁を殴りつけた。
自分の無力さが悔しかった。
この最強のスキルを持ってしても、俺は目の前で弱っていく大切な人を救うことができないのか。
その時、グラン爺が何かを思い出したように言った。
「……一つだけ、可能性があるやもしれん」
「本当か、グラン爺!?」
俺は藁にもすがる思いで彼に詰め寄った。
グラン爺は古い書物を紐解きながら語り始めた。
「古の伝説じゃ。この世界にはかつて、全ての生命の源となった『世界樹』と呼ばれる巨大な樹があったという」
「世界樹……?」
「うむ。その樹は枯れた大地を蘇らせ、病める者を癒し、死者さえも蘇らせる奇跡の力を持っていたと言われておる。そしてその樹が流す樹液は『世界樹の涙』と呼ばれ、あらゆる不治の病を癒す究極の霊薬じゃったと」
「その世界樹の涙があれば、セレスティアさんを助けられるかもしれない、と?」
「あくまで伝説じゃがな」
グラン爺は難しい顔で言った。
「問題はその世界樹がどこにあるかじゃ。神話の時代に枯れてしまったとも言われておるし、今も世界のどこかでひっそりと生きているとも言われておる。誰もその場所を知らんのじゃ」
絶望的な話だった。
どこにあるかも分からない伝説の樹を探せというのか。
セレスティアの命の灯火は今にも消えそうだ。
そんな時間は残されていない。
俺がうなだれていると、ダグが俺の肩を力強く叩いた。
「カイ、諦めるな。まだだ、まだ手はあるはずだ」
「でも、どうしろって言うんだ……」
「お前のそのスキルは何だ? あらゆる植物を生み出し、操る神の力じゃねえのか?」
ダグの言葉に、俺ははっとした。
そうだ。俺のスキルは『絶対農域』。
世界樹だって植物だ。
ならば……。
「……もしかしたら」
俺の脳裏に、一つのとんでもない可能性がひらめいた。
「グラン爺! その世界樹の種とか、苗とかは残ってないのか!?」
俺の突拍子もない質問に、グラン爺は目を丸くした。
「な、何を言うとるんじゃ。神話の時代の植物の種なぞ、残っておるはずが……。いや、待てよ……」
グラン爺は再び書物をめくり始めた。
そしてあるページを指さした。
「……あったぞ! 世界樹は枯れる間際にたった一つだけ、未来に希望を託す種を残したと書かれておる! その種は『始まりの種』と呼ばれ、世界のどこかで目覚めの時を待っていると……!」
始まりの種。
それさえ手に入れれば。
俺のこのスキルで、世界樹を蘇らせることができるかもしれない。
「その種はどこにあるんだ!?」
グラン爺は古文書の地図を指さした。
「この地図によると……。この国の北の果て、『忘却の遺跡』と呼ばれる古代遺跡の最深部に眠っているとされておる」
忘却の遺跡。
そこは凶悪な魔物と古代の罠が渦巻く、誰も生きては帰れないと言われる伝説のダンジョンだ。
Aランク冒険者の紅蓮のグリフォンでさえ、踏破したことはないという。
だが俺に迷いはなかった。
「……俺が行ってくる」
俺は力強く宣言した。
「カイ!?」
「無茶ですわ!」
仲間たちが俺を止めようとする。
だが俺の決意は固かった。
「セレスティアさんを助けられる可能性があるなら、俺はどこへだって行く。たとえそれが地獄の底でも」
俺の真剣な目に、仲間たちは何も言えなくなった。
ダグが覚悟を決めたように頷いた。
「……分かった。カイ、お前がそう言うなら俺たちも一緒に行くぜ。忘却の遺跡、上等じゃねえか。Aランクパーティーの実力、見せてやるよ」
「わたくしたちも、もちろんですわ」
「カイ兄が行くなら俺も行く!」
「ふぉっふぉっふぉ。たまには骨のある冒険も悪くないわい」
仲間たちが次々と同行を申し出てくれる。
俺は胸が熱くなるのを感じた。
「ありがとう、みんな。でもセレスティアさんの看病も必要だ。それにこの領地を空にはできない」
俺はダグに向かって言った。
「ダグさんたちにはセレスティアさんとこの領地を守っていてほしい。遺跡には俺とルプスだけで行く」
「なっ!? 正気か、カイ! お前一人で、あの魔境に乗り込むってのか!?」
「ああ」
俺は静かに頷いた。
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俺の決意は揺るがなかった。
仲間たちは俺の覚悟を感じ取り、最終的には俺の単独行を認めてくれた。
俺は眠り続けるセレスティアの手を握った。
その手はまだ冷たいままだった。
「待っててくれ、セレスティアさん。必ず帰ってくる。あんたを救う奇跡を、持って」
俺は彼女の額にそっと口づけをすると、部屋を後にした。
相棒のルプスを連れて。
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