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第31話「決戦前夜、それぞれの想い」
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決戦を明日に控えた夜。
俺の領地は不思議なほどの静けさに包まれていた。
空には満月が煌々と輝き、世界樹の葉を銀色に照らし出している。
まるで嵐の前の静けさというやつだ。
明日、俺たちは王都の地下深くへと突入する。
生きて帰ってこられる保証はどこにもない。
誰もがその覚悟を胸に秘め、それぞれの時間を過ごしていた。
ダグたちは焚き火を囲んで静かに酒を酌み交わしていた。
いつものようなバカ騒ぎはない。
ただ互いの無事を祈るように、仲間たちの顔を見つめ合っている。
ダグは愛用の大剣を黙々と磨き、シルフィは弓の弦を張り替え、レオは投げナイフの手入れをし、グラン爺は目を閉じて瞑想にふけっていた。言葉はなくとも、彼らの間の固い絆が伝わってくる。
エリアナは一人、月光の下で愛剣の手入れをしていた。
その横顔は緊張と決意に満ちている。
彼女はこの国の未来を、そして亡き主君たちの想いをその一身に背負っているのだ。揺れる炎が彼女の白銀の鎧を赤く染めていた。
テル村の村人たちは村の教会に集まり、俺たちのために夜通し祈りを捧げてくれていた。
トムや村長をはじめ、子供から老人まで全員が。
その温かい祈りが聖なる光となって、遠くこの地まで届いているような気がした。俺たちが守るべきものは、ここにもある。
俺は一人、自分のログハウスのポーチに座り夜空を見上げていた。
色々なことがあった。
追放されてこの地にやってきてからまだ一年も経っていない。
だがその短い間に、俺の人生はまるで奔流のように激しく変わった。
一人ぼっちだった俺にたくさんの大切な仲間ができた。
愛する人ができた。
守りたいものができた。
そのために戦う覚悟もできた。
柄にもなく世界の命運なんてものを背負ってしまったが、後悔はなかった。
「……カイ様」
不意に後ろから優しい声がかかった。
振り返るとセレスティアがマグカップを二つ持って、静かに立っていた。夜風に彼女のプラチナブロンドの髪がさらりと揺れる。
「眠れないのですか?」
彼女は俺の隣にそっと腰を下ろし、マグカップの一つを手渡してくれた。
中身は温かいカモミールティーだった。
その優しい香りが、俺の張り詰めた心を少しだけ和らげてくれる。
「……ええ、まあ」
俺は正直に答えた。
「少し怖くなったんです。明日、俺はみんなを無事に連れて帰ってこれるだろうかって」
弱音だった。
仲間たちの前では決して見せられない、リーダーとしてのプレッシャー。
でも彼女の前では、素直になれた。
ふと、彼女は懐から小さな布袋を取り出し、俺の手にそっと握らせた。
「これは…世界樹様が、カイ様に託してほしいと。わたくしの祈りを通して、授けてくださったのです。きっと、あなたの力になってくれます」
布袋の中には、仄かな光を放つ一粒の種が入っていた。
最後の希望を託されたような、温かい重みを感じた。
セレスティアは静かに俺の言葉を聞いていた。
そしてゆっくりと口を開いた。
「大丈夫ですよ、カイ様」
彼女は俺の目をまっすぐに見つめて言った。
その翠色の瞳には夜空の星々が映り込み、キラキラと輝いている。
「カイ様は一人ではありません。わたくしたちみんながついています。それにカイ様は、わたくしが知る誰よりも強くて優しいお方です。わたくし、信じています」
その絶対的な信頼を込めた瞳に、俺は救われる思いだった。
そうだ。俺は一人じゃない。
「わたくし、怖くはありません」
彼女は続けた。
「カイ様と一緒なら。たとえどんな運命が待ち受けていようと、わたくしはあなたのそばにいます」
そう言って、彼女はそっと俺の肩に頭をもたせかけてきた。
その温もりとシャンプーの甘い香りが、俺に勇気を与えてくれる。
「……ありがとう、セレスティアさん」
俺は彼女の柔らかな髪を優しく撫でた。
俺たちはしばらく黙って夜空を眺めていた。
言葉はなくとも、心は通じ合っている。
俺たちが戦う理由はただ一つ。
この穏やかで愛おしい夜を、明日も明後日も迎えるためだ。
やがてセレスティアが顔を上げた。
その頬はほんのりと赤く染まっている。決意の色だった。
「カイ様……。あの、もしこの戦いが終わって無事に帰ってくることができたら……」
彼女は少しのためらいを振り払うように言った。
「わたくしのお願いを、一つだけ聞いていただけますか?」
「お願い? なんですか? 俺にできることなら、何でも」
俺が聞き返すと、セレスティアは深呼吸を一つした。
そして意を決したように言った。
その声は少し震えていた。
「わたくしを……。カイ様の、お嫁さんにしてください」
「…………え」
俺の思考が完全にフリーズした。
今、この聖女様はとんでもないことを言わなかったか?
プロポーズ? 俺に?
あまりの不意打ちに、脳が情報を処理しきれない。
俺はただ目をぱちくりさせることしかできなかった。
セレスティアは俺の反応を見て、みるみる顔を真っ赤にしていく。
「あ、あの! 忘れてください! 今のはその、勢いで口が滑ったというか……! わたくしったら、なんてはしたないことを……!」
彼女は慌てて立ち上がり、この場から逃げ出そうとする。
俺は咄嗟にその手を掴んだ。
華奢で、少しだけ冷たいその手を。
そして彼女を強く引き寄せる。
「……忘れるわけ、ないでしょう」
俺は彼女の潤んだ瞳を見つめて言った。
心臓が今にも張り裂けそうなくらい、激しく高鳴っている。
「俺でいいんですか? こんな追放された、ただの農民で」
「カイ様がいいんです」
彼女ははっきりと、涙ながらに頷いた。
「わたくしは初めてお会いした時から……ううん、あなたの作るお料理をいただいた時から、ずっとカイ様をお慕いしておりました。あなたの優しさを、あなたの強さを、誰よりも知っています。だからカイ様がいいのです」
そのストレートな告白に、俺の理性のタガが音を立てて外れた。
もう何も考えられない。
ただ目の前の愛しい人を、この腕に抱きしめたい。
その一心だけで。
俺はセレスティアの華奢な体をそっと抱き寄せた。
そして彼女の涙に濡れた唇に、自分の唇を重ねた。
それはカモミールティーの味がする、甘くて少しだけしょっぱい、初めてのキスだった。
俺たちは世界樹が見守る中、静かに愛を確かめ合った。
もう迷いも恐怖もない。
俺には守るべき未来ができた。
愛する人と共に生きる未来が。
必ず生きて帰る。
そして最高の言葉で彼女に応えよう。
俺は夜空に輝く月に、そう固く誓った。
俺の領地は不思議なほどの静けさに包まれていた。
空には満月が煌々と輝き、世界樹の葉を銀色に照らし出している。
まるで嵐の前の静けさというやつだ。
明日、俺たちは王都の地下深くへと突入する。
生きて帰ってこられる保証はどこにもない。
誰もがその覚悟を胸に秘め、それぞれの時間を過ごしていた。
ダグたちは焚き火を囲んで静かに酒を酌み交わしていた。
いつものようなバカ騒ぎはない。
ただ互いの無事を祈るように、仲間たちの顔を見つめ合っている。
ダグは愛用の大剣を黙々と磨き、シルフィは弓の弦を張り替え、レオは投げナイフの手入れをし、グラン爺は目を閉じて瞑想にふけっていた。言葉はなくとも、彼らの間の固い絆が伝わってくる。
エリアナは一人、月光の下で愛剣の手入れをしていた。
その横顔は緊張と決意に満ちている。
彼女はこの国の未来を、そして亡き主君たちの想いをその一身に背負っているのだ。揺れる炎が彼女の白銀の鎧を赤く染めていた。
テル村の村人たちは村の教会に集まり、俺たちのために夜通し祈りを捧げてくれていた。
トムや村長をはじめ、子供から老人まで全員が。
その温かい祈りが聖なる光となって、遠くこの地まで届いているような気がした。俺たちが守るべきものは、ここにもある。
俺は一人、自分のログハウスのポーチに座り夜空を見上げていた。
色々なことがあった。
追放されてこの地にやってきてからまだ一年も経っていない。
だがその短い間に、俺の人生はまるで奔流のように激しく変わった。
一人ぼっちだった俺にたくさんの大切な仲間ができた。
愛する人ができた。
守りたいものができた。
そのために戦う覚悟もできた。
柄にもなく世界の命運なんてものを背負ってしまったが、後悔はなかった。
「……カイ様」
不意に後ろから優しい声がかかった。
振り返るとセレスティアがマグカップを二つ持って、静かに立っていた。夜風に彼女のプラチナブロンドの髪がさらりと揺れる。
「眠れないのですか?」
彼女は俺の隣にそっと腰を下ろし、マグカップの一つを手渡してくれた。
中身は温かいカモミールティーだった。
その優しい香りが、俺の張り詰めた心を少しだけ和らげてくれる。
「……ええ、まあ」
俺は正直に答えた。
「少し怖くなったんです。明日、俺はみんなを無事に連れて帰ってこれるだろうかって」
弱音だった。
仲間たちの前では決して見せられない、リーダーとしてのプレッシャー。
でも彼女の前では、素直になれた。
ふと、彼女は懐から小さな布袋を取り出し、俺の手にそっと握らせた。
「これは…世界樹様が、カイ様に託してほしいと。わたくしの祈りを通して、授けてくださったのです。きっと、あなたの力になってくれます」
布袋の中には、仄かな光を放つ一粒の種が入っていた。
最後の希望を託されたような、温かい重みを感じた。
セレスティアは静かに俺の言葉を聞いていた。
そしてゆっくりと口を開いた。
「大丈夫ですよ、カイ様」
彼女は俺の目をまっすぐに見つめて言った。
その翠色の瞳には夜空の星々が映り込み、キラキラと輝いている。
「カイ様は一人ではありません。わたくしたちみんながついています。それにカイ様は、わたくしが知る誰よりも強くて優しいお方です。わたくし、信じています」
その絶対的な信頼を込めた瞳に、俺は救われる思いだった。
そうだ。俺は一人じゃない。
「わたくし、怖くはありません」
彼女は続けた。
「カイ様と一緒なら。たとえどんな運命が待ち受けていようと、わたくしはあなたのそばにいます」
そう言って、彼女はそっと俺の肩に頭をもたせかけてきた。
その温もりとシャンプーの甘い香りが、俺に勇気を与えてくれる。
「……ありがとう、セレスティアさん」
俺は彼女の柔らかな髪を優しく撫でた。
俺たちはしばらく黙って夜空を眺めていた。
言葉はなくとも、心は通じ合っている。
俺たちが戦う理由はただ一つ。
この穏やかで愛おしい夜を、明日も明後日も迎えるためだ。
やがてセレスティアが顔を上げた。
その頬はほんのりと赤く染まっている。決意の色だった。
「カイ様……。あの、もしこの戦いが終わって無事に帰ってくることができたら……」
彼女は少しのためらいを振り払うように言った。
「わたくしのお願いを、一つだけ聞いていただけますか?」
「お願い? なんですか? 俺にできることなら、何でも」
俺が聞き返すと、セレスティアは深呼吸を一つした。
そして意を決したように言った。
その声は少し震えていた。
「わたくしを……。カイ様の、お嫁さんにしてください」
「…………え」
俺の思考が完全にフリーズした。
今、この聖女様はとんでもないことを言わなかったか?
プロポーズ? 俺に?
あまりの不意打ちに、脳が情報を処理しきれない。
俺はただ目をぱちくりさせることしかできなかった。
セレスティアは俺の反応を見て、みるみる顔を真っ赤にしていく。
「あ、あの! 忘れてください! 今のはその、勢いで口が滑ったというか……! わたくしったら、なんてはしたないことを……!」
彼女は慌てて立ち上がり、この場から逃げ出そうとする。
俺は咄嗟にその手を掴んだ。
華奢で、少しだけ冷たいその手を。
そして彼女を強く引き寄せる。
「……忘れるわけ、ないでしょう」
俺は彼女の潤んだ瞳を見つめて言った。
心臓が今にも張り裂けそうなくらい、激しく高鳴っている。
「俺でいいんですか? こんな追放された、ただの農民で」
「カイ様がいいんです」
彼女ははっきりと、涙ながらに頷いた。
「わたくしは初めてお会いした時から……ううん、あなたの作るお料理をいただいた時から、ずっとカイ様をお慕いしておりました。あなたの優しさを、あなたの強さを、誰よりも知っています。だからカイ様がいいのです」
そのストレートな告白に、俺の理性のタガが音を立てて外れた。
もう何も考えられない。
ただ目の前の愛しい人を、この腕に抱きしめたい。
その一心だけで。
俺はセレスティアの華奢な体をそっと抱き寄せた。
そして彼女の涙に濡れた唇に、自分の唇を重ねた。
それはカモミールティーの味がする、甘くて少しだけしょっぱい、初めてのキスだった。
俺たちは世界樹が見守る中、静かに愛を確かめ合った。
もう迷いも恐怖もない。
俺には守るべき未来ができた。
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必ず生きて帰る。
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俺は夜空に輝く月に、そう固く誓った。
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