出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人

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第33話「地下迷宮と精神汚染」

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 地下迷宮は、俺たちの想像を遥かに超える過酷な場所だった。
 道は複雑に入り組み、一歩間違えれば二度と戻れないような罠が無数に仕掛けられている。
 そして何よりも俺たちを苦しめたのは、ますます濃くなっていく邪神の瘴気だった。

「くっ……。頭が割れるように痛い……」

 シルフィがこめかみを押さえてうずくまる。
 瘴気はただ体力を奪うだけではない。
 人の精神に直接干渉し、最も弱い部分を突いてくるのだ。

『お前は出来損ないだ』
『お前など生まれてこなければよかった』

 俺の脳裏に、父や兄たちの声が響く。
 アシュフィールド家で虐げられていた頃の、忌まわしい記憶。
 俺は歯を食いしばり、その幻聴を振り払った。

『俺はもう、あの頃の俺じゃない!』

 だが誰もが俺のように、強くはいられるわけではなかった。

「……父ちゃん……母ちゃん……」

 レオが突然足を止め、虚空を見つめてつぶやいた。
 その瞳は焦点が合っておらず、何か幻覚を見ているようだった。

「どうした、レオ!」

 ダグが彼の肩を揺さぶる。

「……俺のせいで……俺が弱かったから、みんな死んだんだ……」

 レオの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
 彼は幼い頃、魔物に故郷の村を滅ぼされ、家族を皆殺しにされたという壮絶な過去を持っていた。
 そのトラウマが瘴気によって増幅され、彼を苛んでいるのだ。

「しっかりしろ、レオ! それは幻だ!」

 ダグが叫ぶ。
 だがレオの耳には届いていない。

「俺が……俺が、謝らなきゃ……」

 レオはふらふらと何かに引き寄せられるように、迷宮の暗闇へと歩き出そうとする。
 その先は底なしのクレバスになっている。

「危ない!」

 俺がスキルでツルを伸ばして彼を拘束しようとした、その時だった。

 バシン!
 乾いた音が響き渡った。
 ダグがレオの頬を、思い切り平手で打ち抜いたのだ。

「……え?」

 レオは殴られた衝撃で我に返り、呆然とダグを見つめている。
 ダグはレオの胸ぐらを掴み上げ、その目を真正面から睨みつけた。
 その瞳には怒りと、そして深い悲しみの色が浮かんでいた。

「いつまで過去に囚われてるつもりだ、このバカ野郎!」

 ダグの怒声が響く。
「お前の家族が死んだのはお前のせいじゃねえ! 悪いのは魔物だ! そしてそれを止められなかった、俺たち大人の責任だ! お前が背負う必要なんざどこにもねえんだよ!」

「ダグ、さん……」

「お前の家族が見たかったのは、お前がべそべそ泣いてる顔か!? 違うだろうが! お前が立派な冒険者になって、たくさんの人を守って、毎日腹いっぱい飯を食って、笑ってる顔が見たかったんじゃねえのか!」

 ダグの魂の叫び。
 それはレオだけでなく、俺たち全員の胸を強く打った。

「……う……うわあああああああん!」

 レオは子供のように声を上げて泣きじゃくった。
 今まで心の奥に押し殺してきた悲しみと苦しみを、全て吐き出すように。
 ダグはそんなレオを、ただ黙って強く抱きしめていた。
 しばらくして泣き止んだレオの顔には、もう迷いはなかった。
 彼はダグに向かって深々と頭を下げた。

「……ありがとう、ダグさん。俺、もう大丈夫だ」

「おう」

 ダグはぶっきらぼうに答え、その頭をわしわしと撫でた。
 俺たちはそんな二人の姿を、温かい目で見守っていた。
 俺たちは一人じゃない。
 仲間がいる。
 その絆こそが、この精神汚染を打ち破る最大の武器なのだ。
 俺は改めてそれを実感した。
 そして俺にしかできない方法で、仲間を守ろうと決めた。

 俺は懐から一つの種を取り出した。
 それは世界樹からいただいた、祝福の種だ。
 俺はその種を瘴気に汚染された地面にそっと植えた。
 そしてスキルを発動させる。

「芽を出せ。この闇を照らす、希望の光となれ」

 俺の生命力を受けた種はすぐに芽を出し、淡い緑色の光を放つ美しい苔へと変化した。
『光苔(ひかりごけ)』だ。
 光苔はみるみるうちに繁殖し、迷宮の壁を覆い尽くしていく。
 その優しい光が俺たちの行く道を照らし、そして邪神の瘴気を中和し浄化していく。

「おお……! 空気が軽くなった!」
「頭痛も治まったわ!」

 仲間たちが驚きの声を上げる。

「すごいな、カイ。お前の力は本当に希望そのものだ」

 エリアナが感心したようにつぶやいた。
 俺は微笑んで答えた。

「俺一人の力じゃありません。みんながいるから、俺も力を出せるんです」

 俺たちは互いの絆を再確認し、再び前へと進み始めた。
 光苔が照らす道は、まるで俺たちの未来を示す光の道のようだった。
 だがこの先に待ち受けるのは、今までとは比較にならないほどの強大な敵だった。
 邪神の親衛隊とも言うべき七体の眷属。
 俺たちの本当の試練は、まだ始まったばかりだ。
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