元悪役令嬢、偽聖女に婚約破棄され追放されたけど、前世の農業知識で辺境から成り上がって新しい国の母になりました

黒崎隼人

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第5章:芽生えた信頼と、祝福の小さな奇跡

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 季節が一つ巡る頃、ロゼリアたちが開墾した館の裏の一角は、信じられないような光景に変わっていた。
 あれほど固く痩せ細っていた土は、何度も鋤き返され、たっぷりと堆肥を混ぜ込まれたことで、ふかふかと生命力に満ちた黒土に生まれ変わっていた。ゲオルグが作った小さな水路は安定して水を運び、その畑には、目にも鮮やかな緑の葉が生き生きと茂っている。カブ、レタス、そして葉物野菜。どれも、これまで村では見たこともないほど、大きく、艶やかだった。
 そして、収穫の日がやってきた。村では、わずかな収穫に感謝を捧げる、ささやかな収穫祭が行われる習わしがある。例年であれば、硬くて味の薄い麦の粥を分け合うだけの、沈んだ祭りだ。
 しかし、その年の収穫祭は違った。ロゼリアは、マリアと共に収穫したばかりの新鮮な野菜を使い、温かいスープとサラダをたっぷりと作ったのだ。
「さあ、皆さん、どうぞ召し上がってください。私たちの畑で採れた、今年の恵みです」
 ロゼリアが声をかけるが、村人たちは疑心暗鬼だった。遠巻きに見て、誰も手を出そうとしない。「毒でも入ってるんじゃないか」「見た目は立派だが、どうせ味はしないさ」。そんな声が聞こえてくる。
 その時、輪の中から一人の少年が、おずおずと前に進み出た。彼は、ロゼリアが作ったスープの椀を手に取り、恐る恐る一口、口に運んだ。
 少年の目が、大きく見開かれる。
「……おいしい!」
 その純粋な一言が、場の空気を変えた。少年は、夢中でスープをかきこみ始める。その様子を見て、他の村人たちも、半信半疑でスープやサラダに手を伸ばし始めた。そして、次の瞬間、あちこちから驚きの声が上がった。
「なんだこれ! 甘いぞ!」
「野菜って、こんなに味が濃いものだったのか!」
「柔らかくて、筋っぽくない……!」
 それは、彼らが生まれてこの方、一度も味わったことのない、野菜本来の豊かな風味だった。土の恵みと、太陽の味がした。人々は無言で、そして夢中で食べた。やがて、誰からともなく、ロゼリアの方へ向き直り、深々と頭を下げ始めた。それは、不信や嘲笑ではなく、心からの感謝と尊敬の念だった。
 ロゼリアは、その光景を静かに見つめていた。その隣には、いつの間にかカイが立っていた。彼も、村人たちと同じスープの椀を手にしている。
「……大したもんだな」
 ぶっきらぼうな口調は変わらないが、その声には紛れもない賞賛が込められていた。
「あなたのおかげでもあるわ。あなたが諦めずに、一人で畑を耕し続けていたから、私にも勇気が湧いたのよ」
 ロゼリアの言葉に、カイは少し照れたように視線を逸らした。
 この小さな成功体験は、種だった。村人たちの心に、「もしかしたら、この谷は変われるのかもしれない」という希望の種を蒔いたのだ。
 収穫祭の翌日から、村の雰囲気は一変した。村人たちが、次々とロゼリアの元を訪れるようになったのだ。
「嬢様、俺たちの畑にも、あの魔法の土の作り方を教えてくだせえ!」
「水路の作り方を教えてほしい!」
 彼らの目は、もう虚ろではなかった。そこには、未来への意欲と、ロゼリアへの絶大な信頼が宿っていた。
 そして、カイもまた、ロゼリアの前に立った。
「……あんたのやり方、理に適ってる。だが、もっと効率よくできる部分もあるはずだ。俺の知恵も、あんたに貸してやる」
 それは、彼からの正式な協力宣言だった。
 ロゼリアは、心からの笑みを浮かべた。これで、ようやく本当のスタートラインに立てた。一人の天才だけでは、世界は変えられない。人々の信頼と協力があってこそ、奇跡は起こるのだ。
 カイという頼れる相棒を得て、そして村人たちという仲間を得て、ロゼリ-アの挑戦は、新たなステージへと進んでいく。灰色の谷に、活気という名の新しい風が吹き始めた瞬間だった。
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