元悪役令嬢、偽聖女に婚約破棄され追放されたけど、前世の農業知識で辺境から成り上がって新しい国の母になりました

黒崎隼人

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第9章:偽りの聖女と、王国に射す翳り

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 ロゼリアが辺境の地を黄金の楽土へと変えている頃、彼女を追放したエルグランド王国の王都では、重苦しい暗雲が垂れ込めていた。
 全ての元凶は、聖女リナだった。
 彼女がもたらす「奇跡」は、初めのうちこそ人々を熱狂させた。しかし、その力には限りがあった。いや、そもそも力などなかったのだ。彼女の起こす奇跡は、隣国の没落した魔術師から手に入れた、古代の気象を操る魔道具の力によるものだった。魔道具は、狭い範囲の天候を一時的に操作できるだけで、その効果は長続きせず、何より膨大な魔力を消費する。そして、その反動は、必ず別の場所に歪みとなって現れた。
 リナが王都の豊作を祈れば、地方で日照りが起きる。リナが特定の貴族の領地の洪水を鎮めれば、別の場所で長雨が続く。
 初めは誰も、その関連性に気づかなかった。しかし、二年、三年と経つうちに、王国の各地で原因不明の不作や天候不順が頻発するようになった。かつては安定していた王国の食糧事情は、急速に悪化していった。
 国民の間からは、次第に不満の声が上がり始める。「聖女様の祈りは、本当に届いているのか?」「俺たちの村は、見捨てられたというのか?」
 リナは、豪華な神殿で祈祷を繰り返すばかりで、具体的な解決策を何も示せない。状況は悪化の一途を辿っていた。
 王太子アルフォンスは、そんなリナを盲目的に庇い続けた。
「聖女リナ様を疑うことは、神を疑うのと同じことだ! 不満を口にする者は、不敬罪として罰する!」
 彼は、国民の声を力で抑え込もうとした。しかし、それは火に油を注ぐだけだった。食糧価格は高騰し、民衆の生活は困窮を極めていく。
 良識ある貴族たちは、アルフォンスの判断能力と、リナの力の正体に、深刻な疑念を抱き始めていた。
「アルフォンス殿下は、あの女に惑わされているのではないか?」
「そもそも、あの聖女様の力は、ヴェルフェン公爵令嬢がおられた頃の安定には、遠く及ばないではないか」
「そういえば、追放されたロゼリア嬢の治める辺境領は、空前の好景気に沸いているという……」
 貴族たちのサロンでは、密やかにそんな会話が交わされるようになった。ロゼリアの父、ヴェルフェン公爵は、表立っては何も言わないが、その沈黙は、現体制への静かな批判と受け取られていた。
 王国という巨大な船は、アルフォンスという未熟な舵取りと、リナという偽りの航海士によって、確実に座礁への道を突き進んでいた。船底に空いた穴からは、国民の不満と絶望が静かに、しかし確実に流れ込んできている。そのことに、船のブリッジで愛を語り合う愚かな二人だけが、まだ気づいていなかった。王国の黄昏は、もうすぐそこまで迫っていた。
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