過労死して転生したら『万能農具』を授かったので、辺境でスローライフを始めたら、聖獣やエルフ、王女様まで集まってきて国ごと救うことになりました

黒崎隼人

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第11話「隣国の野心と国の盾」

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 カイトが治めるヴェルデ伯爵領は、王国で最も豊かで平和な土地として知られるようになっていた。カイトの指導のもと領内全域で革新的な農法が導入され、食料生産量は飛躍的に増大した。その富は領民の生活を潤し、教育や医療の発展にも繋がった。

 カイト自身は貴族らしい振る舞いが苦手なままだったが、領民からは絶大な支持と愛情を寄せられていた。彼は「農民伯爵」と呼ばれ、自らクワを手に畑に立つ姿は領地の名物となっていた。

 リリアは領内の薬草園を統括し、安価で質の良い薬を安定供給する体制を築き上げた。ミーナはヴェルデ領の産物を大陸全土へと売りさばく巨大な商会を設立し、王国の経済に多大な影響力を持つまでになっていた。そしてセレスティア王女も、公務の合間を縫っては頻繁にヴェルデ領を訪れ、カイトと共に領地の未来について語り合うのを何よりの楽しみとしていた。

 穏やかで、満ち足りた日々。しかしその平和を脅かす暗雲が、東の国境から静かに迫っていた。

 王国の東に位置する軍事大国、ガルニア帝国。彼らはかねてより領土拡大の野心を持ち、肥沃な土地と豊富な資源を持つアルグランド王国を虎視眈々と狙っていた。

 これまで両国は、絶妙な力の均衡によって平和を保ってきた。しかし最近になって帝国が不穏な動きを見せ始めたという報告が、王宮にもたらされるようになる。

「ガルニア帝国が、国境付近に大規模な軍隊を集結させている、だと?」

 王城の会議室で、国王アルフォンスは険しい表情で報告を聞いていた。

「はっ。その数、およそ十万。いつでも国境を越えられる態勢にあるとのことでございます」

 大臣たちの間に緊張が走る。王国軍の総兵力は十五万。全軍を差し向ければ数では上回るが、帝国の兵士は一人一人が歴戦の猛者として知られている。全面戦争になれば、王国が甚大な被害を被ることは避けられない。

「なぜ、今になって帝国が……」

「おそらくは、先年の大飢饉が原因かと。我が国が弱体化したと見たのでしょう。カイト伯爵の活躍がなければ、今頃は……」

 議論が紛糾する中、セレスティアが静かに口を開いた。

「皆様、お忘れですか。我が国には、今や最強の『盾』があります」

 彼女の言葉に、全員の視線が集まる。

「カイト伯爵の領地です。彼の領地が生み出す無限とも思える食料。それがあれば、たとえ長期戦になったとしても我が国が兵糧不足に陥ることは決してありません」

 セレスティアの言葉に、大臣たちもはっとした表情になった。

 戦争において、兵站、特に食料の確保は最も重要な要素の一つだ。兵士たちが腹を空かせては、戦うことなどできない。カイトの存在は、王国の防衛力そのものを根底から引き上げていたのだ。

 国王は深くうなずいた。

「うむ。セレスティアの言う通りだ。カイト伯爵こそ、我が国の最大の強み。帝国の野望を打ち砕く、我々の切り札よ」

 早速、カイトは王宮に召喚された。彼は国王から事情を聞くと、顔色一つ変えずに答えた。

「ご安心ください、陛下。食料のことなら、全てお任せを。我がヴェルデ領の民と大地は、王国を守るために総力を挙げる覚悟ができています」

 その頼もしい言葉に、国王と大臣たちは安堵の表情を浮かべた。

 カイトはすぐに領地へ戻ると、来るべき時に備えさらなる食料の増産と備蓄体制の強化に着手した。彼はただ食料を作るだけではなかった。現代知識を活かし、作物を乾燥させたり塩漬けにしたりすることで、長期保存が可能でかつ栄養価の高い携行食料を大量に開発したのだ。

 リリアは兵士たちの傷を癒すための強力な回復ポーションや、体力を増強させるための丸薬を大量に生産。ミーナは万が一に備え、最前線まで安全かつ迅速に物資を届けるための輸送ルートを複数確保した。

 ヴェルデ領全体が、まるで一つの巨大な兵站基地のように機能し始めた。しかしそこに悲壮感はなかった。領民たちは皆、自分たちの作るものが愛する故郷と平和を守る力になることを誇りに思い、一丸となって働いていた。

 カイトは畑に立ち、広大な大地を見渡しながら静かに誓った。

『俺は、戦うことはできない。だけど俺たちの作るこの食料が、無駄な血が流れるのを防いでくれるはずだ。戦争なんて、絶対にさせない』

 彼の持つ『万能農具』は、人を傷つけるための力ではない。大地を育み、命を育むための力だ。彼はその力を信じていた。

 食料という、生命の根源。それこそが帝国の振りかざす武力よりも、はるかに強く尊いものであると証明するために。

 アルグランド王国の「豊穣の英雄」は、今や国を守る「不落の盾」として、静かに、しかし力強くその役目を果たそうとしていた。
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