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第05話「触れ合う心と美しい贈り物」
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その夜を境に、レオニールの態度が劇的に変わったわけではない。
彼は相変わらず口数が少なく、表情の変化も乏しい。しかし、その眼差しから冷徹な鋭さが消え、代わりに柔らかな温度が宿るようになったことは、アナベルにははっきりと分かった。
朝食の席で、レオニールはアナベルの皿にさりげなく果物を追加するようになった。廊下ですれ違う使用人たちの態度も、主人の変化を察知してか、どこか恭しいものへと変わっていた。
ある日の午後、アナベルが自室で読書をしていると、コンコンと控えめなノックの音がした。
入ってきたのは老執事だったが、その後ろには大量の箱を抱えた使用人たちが続いていた。
「こ、これは……?」
「旦那様からの贈り物でございます」
使用人たちが次々と箱を開けていく。そこに入っていたのは、アナベルが見たこともないような美しいドレスの数々だった。
辺境の特産である最高級の織物を使ったドレス。防寒性に優れているだけでなく、デザインも洗練されている。深い藍色、鮮やかな真紅、そして雪のような純白。どれも繊細なレースや刺繍が施され、アナベルの瞳の色や肌の色に似合うものばかりだった。
さらに、別の箱からは宝石類が現れた。髪飾り、ネックレス、ブローチ。どれも煌びやかだが派手すぎず、品がある。
「旦那様が、商人を呼び寄せて選ばれました。『リヒトハイム家から持ってきたボロ布はすべて捨てろ。俺の妻には、これくらいが相応しい』と」
執事の言葉に、アナベルは言葉を失った。ボロ布とは酷い言い草だが、事実だ。実家から持ってきた服はどれも古く、薄汚れていた。
アナベルは藍色のドレスを手に取った。滑らかな手触り。生地の厚みが心地よい。
「こんなに高価なもの、私には勿体ないです。それに、私なんかが着飾っても、中身は鱗だらけの……」
言いかけたアナベルの言葉を遮るように、扉の向こうから低い声が響いた。
「また自分を卑下するのか」
いつの間にか、レオニールが入り口に立っていた。腕を組み、壁にもたれかかっている。公務の合間なのか、騎士服のままだ。
「レオニール様……」
「言ったはずだ。俺にとって、お前の鱗は醜いものではない。むしろ、俺を救ってくれた尊いものだ」
彼は部屋に入ってくると、手に持っていた小さな箱をアナベルに差し出した。
「これは俺が選んだ。……開けてみろ」
促され、アナベルが震える手で箱を開ける。中に入っていたのは、銀細工の髪飾りだった。モチーフになっているのは竜。精巧に作られた竜が、小さな青い宝石を抱いている。
「ヴァルグレイブ家に伝わる、守り神の竜だ。お前の瞳の色と同じ石を選んだ」
レオニールは少し照れくさそうに視線を逸らした。耳が微かに赤い。
アナベルの胸が、きゅっと締め付けられた。彼が、自分のために選んでくれた。瞳の色を覚えていてくれた。
それは、どんな高価な宝石よりも価値のある贈り物だった。
「……ありがとうございます。とても、嬉しいです」
アナベルが涙ぐみながら微笑むと、レオニールは一瞬息を呑んだように目を見開き、そして、ほんの少しだけ口元を緩めた。それは、これまで見たことのない、穏やかで魅力的な表情だった。
「似合うはずだ。……今夜の夕食は、それを着けてこい」
彼はぶっきらぼうに言い残すと、逃げるように部屋を出て行った。
残されたアナベルは、竜の髪飾りを胸に抱きしめた。冷たかったはずの銀細工が、今は温かく感じられる。
自分の価値などないと思っていた。けれど、この場所で、この人の前でなら、少しだけ自分を好きになれるかもしれない。
アナベルの心の中に、淡い恋の予感が芽生え始めていた。
彼は相変わらず口数が少なく、表情の変化も乏しい。しかし、その眼差しから冷徹な鋭さが消え、代わりに柔らかな温度が宿るようになったことは、アナベルにははっきりと分かった。
朝食の席で、レオニールはアナベルの皿にさりげなく果物を追加するようになった。廊下ですれ違う使用人たちの態度も、主人の変化を察知してか、どこか恭しいものへと変わっていた。
ある日の午後、アナベルが自室で読書をしていると、コンコンと控えめなノックの音がした。
入ってきたのは老執事だったが、その後ろには大量の箱を抱えた使用人たちが続いていた。
「こ、これは……?」
「旦那様からの贈り物でございます」
使用人たちが次々と箱を開けていく。そこに入っていたのは、アナベルが見たこともないような美しいドレスの数々だった。
辺境の特産である最高級の織物を使ったドレス。防寒性に優れているだけでなく、デザインも洗練されている。深い藍色、鮮やかな真紅、そして雪のような純白。どれも繊細なレースや刺繍が施され、アナベルの瞳の色や肌の色に似合うものばかりだった。
さらに、別の箱からは宝石類が現れた。髪飾り、ネックレス、ブローチ。どれも煌びやかだが派手すぎず、品がある。
「旦那様が、商人を呼び寄せて選ばれました。『リヒトハイム家から持ってきたボロ布はすべて捨てろ。俺の妻には、これくらいが相応しい』と」
執事の言葉に、アナベルは言葉を失った。ボロ布とは酷い言い草だが、事実だ。実家から持ってきた服はどれも古く、薄汚れていた。
アナベルは藍色のドレスを手に取った。滑らかな手触り。生地の厚みが心地よい。
「こんなに高価なもの、私には勿体ないです。それに、私なんかが着飾っても、中身は鱗だらけの……」
言いかけたアナベルの言葉を遮るように、扉の向こうから低い声が響いた。
「また自分を卑下するのか」
いつの間にか、レオニールが入り口に立っていた。腕を組み、壁にもたれかかっている。公務の合間なのか、騎士服のままだ。
「レオニール様……」
「言ったはずだ。俺にとって、お前の鱗は醜いものではない。むしろ、俺を救ってくれた尊いものだ」
彼は部屋に入ってくると、手に持っていた小さな箱をアナベルに差し出した。
「これは俺が選んだ。……開けてみろ」
促され、アナベルが震える手で箱を開ける。中に入っていたのは、銀細工の髪飾りだった。モチーフになっているのは竜。精巧に作られた竜が、小さな青い宝石を抱いている。
「ヴァルグレイブ家に伝わる、守り神の竜だ。お前の瞳の色と同じ石を選んだ」
レオニールは少し照れくさそうに視線を逸らした。耳が微かに赤い。
アナベルの胸が、きゅっと締め付けられた。彼が、自分のために選んでくれた。瞳の色を覚えていてくれた。
それは、どんな高価な宝石よりも価値のある贈り物だった。
「……ありがとうございます。とても、嬉しいです」
アナベルが涙ぐみながら微笑むと、レオニールは一瞬息を呑んだように目を見開き、そして、ほんの少しだけ口元を緩めた。それは、これまで見たことのない、穏やかで魅力的な表情だった。
「似合うはずだ。……今夜の夕食は、それを着けてこい」
彼はぶっきらぼうに言い残すと、逃げるように部屋を出て行った。
残されたアナベルは、竜の髪飾りを胸に抱きしめた。冷たかったはずの銀細工が、今は温かく感じられる。
自分の価値などないと思っていた。けれど、この場所で、この人の前でなら、少しだけ自分を好きになれるかもしれない。
アナベルの心の中に、淡い恋の予感が芽生え始めていた。
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