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第19話「王都調査団、再び」
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エルナとガイオンの絆が深まり、辺境の町がさらなる発展を遂げる中、王都の状況は悪化の一途をたどっていた。
枯渇病は国中に蔓延し、ソフィアの偽りの治癒魔法はもはや焼け石に水の状態だった。食糧危機も深刻化し、民衆の不満は日に日に高まっていた。
追い詰められた国王と側近たちは、ついに、ある結論に達した。
「北の辺境のみがこの枯渇病の影響を受けず、豊かさを保っているという報告は真か?」
「はっ。交易商人たちの証言によりますと、間違いございません。むしろ以前よりも発展しているとのこと……」
「原因は、やはりあの『偽聖女』の力なのか……?」
王の問いに、誰もが答えられなかった。自分たちが切り捨てた存在が、国の唯一の希望かもしれない。その事実を誰も認めたくなかったのだ。
だが、背に腹は代えられない。国王は宰相に命じた。
「大規模な調査団を組織し、再び辺境へ派遣せよ。今度こそ辺境の豊かさの秘密と、エルナ・アルトハイムの力の正体を徹底的に解明してくるのだ。……必要とあらば、どんな手段を使っても構わん」
その命令は、もはや調査ではなく略奪を容認するに等しいものだった。
宰相自らが率いる騎士や学者、役人からなる大規模な調査団が辺境へ向かっているという知らせは、すぐにガイオンたちの耳にも届いた。
「前回の子爵とはわけが違う。宰相本人が出てくるとはな。よほど追い詰められていると見える」
ガイオンは苦々しげに呟いた。
「彼らの目的はおそらく二つ。一つはエルナの力を王都に持ち帰ること。もう一つはそれが叶わない場合、この辺境の富を力ずくで奪うことだ」
町の幹部たちが集まる作戦会議で、緊張が走る。
「戦うしかないのか……」
「だが相手は国の正規軍だ。我々だけでどこまで……」
不安の声を上げる者たちを、ガイオンは力強い声で制した。
「案ずるな。我々には強力な味方がいる」
彼はドワーフの国とエルフの国へ、すぐに救援を求める使者を送った。辺境の独立を支持すると約束してくれた彼らは、王都の横暴な振る舞いを決して見過ごしはしないだろう。
そしてガイオンは、エルナに向き直った。
「エルナ。君には町の人々を連れて、安全な場所へ避難していてほしい」
「嫌です」
エルナは即座に、そしてきっぱりと首を振った。
「わたくしも、ここに残って戦います」
「危険だ!」
「分かっています。でも、ここはわたくしの居場所です。みんなが築き上げてきたこの町を、わたくしも自分の手で守りたい。それに……」
エルナはガイオンの目を真っ直ぐに見つめて言った。
「わたくしの力は、戦いの役には立たないかもしれません。でも、怪我をした人を癒すための薬を作ったり、皆さんのために食料を用意したり……わたくしにしかできないことがあります」
その瞳には、かつての弱々しい少女の面影はなかった。そこにあるのは、愛するものを守るためならどんな困難にも立ち向かうという、聖女の強い意志だった。
彼女の覚悟を悟ったガイオンは、それ以上何も言わなかった。ただ深くうなずくと、彼女の肩に力強く手を置いた。
「……分かった。だが、決して無理はするな。君の身に何かあれば、俺は……」
「大丈夫。あなたがいるもの」
エルナが微笑むと、ガイオンもかすかに笑みを返した。
数日後、宰相率いる王都調査団が、辺境の町の目前にまで迫ってきた。その数は千を超え、ものものしい武装をした騎士たちがずらりと並んでいる。
対する辺境側も、ガイオン率いる騎士団と、武器を手にした町の男たちが緑の壁の前に陣を構えていた。その数は王都軍の半分にも満たない。しかし誰一人として、その目に恐怖の色はなかった。
「ヴァイス騎士団長! 国王陛下の名において開門を命じる! そして罪人エルナ・アルトハイムを我々に引き渡せ!」
宰相の傲慢な声が平原に響き渡る。
ガイオンは静かに剣を抜いた。
「断る。彼女は罪人ではない。この地の聖女だ。そしてこの町は我々のものだ。貴様ら略奪者に、一歩たりとも踏み込ませはしない!」
その宣言を合図に、辺境の民が一斉に鬨(とき)の声を上げた。
大地を揺るがすその声は、王都の横暴に対する、自由を求める人々の魂の叫びだった。避けられない戦いの火ぶたが、今、切って落とされようとしていた。
枯渇病は国中に蔓延し、ソフィアの偽りの治癒魔法はもはや焼け石に水の状態だった。食糧危機も深刻化し、民衆の不満は日に日に高まっていた。
追い詰められた国王と側近たちは、ついに、ある結論に達した。
「北の辺境のみがこの枯渇病の影響を受けず、豊かさを保っているという報告は真か?」
「はっ。交易商人たちの証言によりますと、間違いございません。むしろ以前よりも発展しているとのこと……」
「原因は、やはりあの『偽聖女』の力なのか……?」
王の問いに、誰もが答えられなかった。自分たちが切り捨てた存在が、国の唯一の希望かもしれない。その事実を誰も認めたくなかったのだ。
だが、背に腹は代えられない。国王は宰相に命じた。
「大規模な調査団を組織し、再び辺境へ派遣せよ。今度こそ辺境の豊かさの秘密と、エルナ・アルトハイムの力の正体を徹底的に解明してくるのだ。……必要とあらば、どんな手段を使っても構わん」
その命令は、もはや調査ではなく略奪を容認するに等しいものだった。
宰相自らが率いる騎士や学者、役人からなる大規模な調査団が辺境へ向かっているという知らせは、すぐにガイオンたちの耳にも届いた。
「前回の子爵とはわけが違う。宰相本人が出てくるとはな。よほど追い詰められていると見える」
ガイオンは苦々しげに呟いた。
「彼らの目的はおそらく二つ。一つはエルナの力を王都に持ち帰ること。もう一つはそれが叶わない場合、この辺境の富を力ずくで奪うことだ」
町の幹部たちが集まる作戦会議で、緊張が走る。
「戦うしかないのか……」
「だが相手は国の正規軍だ。我々だけでどこまで……」
不安の声を上げる者たちを、ガイオンは力強い声で制した。
「案ずるな。我々には強力な味方がいる」
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「嫌です」
エルナは即座に、そしてきっぱりと首を振った。
「わたくしも、ここに残って戦います」
「危険だ!」
「分かっています。でも、ここはわたくしの居場所です。みんなが築き上げてきたこの町を、わたくしも自分の手で守りたい。それに……」
エルナはガイオンの目を真っ直ぐに見つめて言った。
「わたくしの力は、戦いの役には立たないかもしれません。でも、怪我をした人を癒すための薬を作ったり、皆さんのために食料を用意したり……わたくしにしかできないことがあります」
その瞳には、かつての弱々しい少女の面影はなかった。そこにあるのは、愛するものを守るためならどんな困難にも立ち向かうという、聖女の強い意志だった。
彼女の覚悟を悟ったガイオンは、それ以上何も言わなかった。ただ深くうなずくと、彼女の肩に力強く手を置いた。
「……分かった。だが、決して無理はするな。君の身に何かあれば、俺は……」
「大丈夫。あなたがいるもの」
エルナが微笑むと、ガイオンもかすかに笑みを返した。
数日後、宰相率いる王都調査団が、辺境の町の目前にまで迫ってきた。その数は千を超え、ものものしい武装をした騎士たちがずらりと並んでいる。
対する辺境側も、ガイオン率いる騎士団と、武器を手にした町の男たちが緑の壁の前に陣を構えていた。その数は王都軍の半分にも満たない。しかし誰一人として、その目に恐怖の色はなかった。
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「断る。彼女は罪人ではない。この地の聖女だ。そしてこの町は我々のものだ。貴様ら略奪者に、一歩たりとも踏み込ませはしない!」
その宣言を合図に、辺境の民が一斉に鬨(とき)の声を上げた。
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