婚約破棄&濡れ衣で追放された聖女ですが、辺境で育成スキルの真価を発揮!無骨で不器用な最強騎士様からの溺愛が止まりません!

黒崎隼人

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第22話「愚者の懇願、聖女の決断」

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 アルフレッド王太子がみすぼらしい姿で辺境の町に到着した時、町の人々は彼に気づきもしなかった。あるいは気づいていても、あえて無視をしていたのかもしれない。
 町の門番に事情を話し、ようやく彼はガイオンの前に通された。
「……何の用だ」
 騎士団の詰め所で、ガイオンは隠しもしない敵意と軽蔑の眼差しをアルフレッドに向けた。隣には鎧に身を固めたドワーフの戦士と、弓を携えたエルフの狩人が控え、無言の圧力をかけている。
 アルフレッドはその威圧感に気圧されながらも、必死に虚勢を張った。
「私は王太子としてエルナ・アルトハイムに会いに来た。彼女はどこだ。すぐにここに連れてこい」
 その傲慢な物言いに、ガイオンの眉がぴくりと動いた。
「……貴様はまだ、自分の立場というものが分かっていないらしいな。ここはもはや貴様らの国ではない。そしてエルナは、貴様が呼びつけにしていい相手ではない」
「なっ……!」
「彼女に会いたいのであれば、まずその態度を改め、礼を尽くして願い出るのが筋だろう。……もっとも、彼女が貴様のような男に会うかどうかは分からんがな」
 ガイオンの冷たい言葉に、アルフレッドは屈辱に顔を歪ませた。しかしここで引き下がるわけにはいかない。彼はプライドを押し殺し、震える声で言った。
「……頼む。エルナ嬢に会わせてほしい。国を救うためなのだ」
 その必死な様子に、ガイオンは小さく鼻を鳴らすと、「エルナに聞いてみよう」とだけ告げた。
 しばらくして、エルナが詰め所に姿を現した。彼女は別人のように変わり果てた元婚約者の姿を見ても、特に驚いた様子はなかった。ただ静かで、凪いだ瞳で彼を見つめている。
「エルナ……!」
 アルフレッドは彼女の前に進み出ると、懇願するように言った。
「君の力が、国を救う唯一の希望なのだ! どうか過去のことは水に流して、王都へ戻ってきてはくれないだろうか。君が戻ってきてくれるなら、再び私の妃として迎えよう! 聖女としての地位も名誉も、すべて君に返す!」
 彼はまだ分かっていなかった。エルナが求めているものが、地位や名誉などではないということを。
 エルナは静かに首を振った。
「お断りいたします」
 そのきっぱりと、凛とした声に、アルフレッドは言葉を失った。
「な……ぜだ……? 私がこれほど頭を下げているのだぞ!」
「わたくしはもう、あなたの婚約者ではありません。クライス王国の聖女でもありません」
 エルナは隣に立つガイオンの手に、そっと自分の手を重ねた。ガイオンはその手を優しく握り返す。
「わたくしの居場所は、ここです。愛する人と、わたくしを必要としてくれる人々と共に、この地で生きていきます。それが、わたくしの決断です」
 その揺るぎない瞳と二人の固く結ばれた手を見て、アルフレッドはようやく悟った。
 もう遅いのだ。
 自分が捨てた宝石は他の誰かに見出され、何よりも輝く宝となっていた。自分にはもう、それに触れる資格すらない。
「そんな……君がいなければ、国は……民は……」
「それは、あなた方が考えるべきことです」
 エルナの声は冷たかった。
「あなた方はわたくしの力を『役立ず』だと断じ、わたくしをこの地に捨てました。その結果、国がどうなろうとそれはあなた方が招いたこと。わたくしが責任を負う義理はございません」
 かつてアルフレッドがエルナに投げつけた言葉が、そのまま彼に返ってきた。
「最後に一つだけ。あなたがたが真に民を思うのであれば、一つだけ方法があります」
「な、なんだ!?」
 アルフレッドが藁にもすがる思いで尋ねる。
「この辺境の地で採れた作物を買いなさい。わたくしの力が宿った作物には、大地を癒す力が僅かにですが宿っています。それを国中に植えれば時間はかかりますが、いずれ大地は生命力を取り戻すでしょう」
 それは唯一の救いの道だった。しかしそれは同時に、辺境の経済的な優位を決定的にし、王都が辺境に頭を下げ続けなければならないことを意味していた。
「ただし代金はきっちり頂きます。わたくしたちも慈善事業でやっているのではありませんので」
 エルナは冷ややかにそう付け加えた。
 アルフレッドは、その場で崩れ落ちそうになるのを必死でこらえた。完敗だった。武力でも経済力でも、そして何より人としての器でも。
 彼は何も言えずにただ絶望の色を浮かべたまま、その場を去るしかなかった。その背中は、あまりにも小さく、惨めに見えた。
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