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第9話「荒野に集う人々と、虹色の希望」
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魔物襲来の騒動から一ヶ月。
荒野の様子は劇的に変化していた。
ベルナルドが街へ持ち帰った「奇跡の野菜」の噂は、瞬く間に大陸中へ広がったのだ。
エリクサーに匹敵する回復効果を持つトマト、寿命を延ばすと言われるジャガイモ、そして万病に効くハーブ。
それらを求めて、商人、冒険者、料理人、そして病に苦しむ人々が、この辺境の地に押し寄せ始めたのだ。
「カイル様、今日も三十人の入植希望者が来ています!」
すっかり農園の「女将」のような貫禄がついたソフィアが、名簿を片手に報告してくる。
彼女の指揮のもと、農園の周囲には宿場町のような集落ができ始めていた。
カボチャハウスの周りには、僕が【建築樹】という植物で作ったログハウスが建ち並び、職人たちが活気に満ちた声を上げている。
「わかった。入植の条件は?」
「はい。『農園の掟を守ること』『作物の秘密を守ること』そして『みんなで美味しくご飯を食べること』。すべて了承済みです」
ソフィアは楽しそうに笑った。
王都にいた頃の「氷の聖女」と呼ばれた冷たさは微塵もない。
泥のついたエプロン姿で、村人たちに声をかけ、子供たちに野菜スープを振る舞う彼女は、誰よりも輝いて見えた。
そんな中、僕は万博の目玉となる究極の作物を育てていた。
農園の中央、一番魔力が集まる場所に植えた一本の苗木。
伝説の【虹色果実(レインボー・フルーツ)】だ。
文献によれば、一口食べればあらゆる呪いを解き、魔力を完全回復させ、至上の幸福感を与えるという神の果実。
本来なら百年かけて育つものだが、僕のスキルとソフィアの祈り、そして皆の活気あるエネルギーを受けて、苗木は驚異的なスピードで成長していた。
「あと少し……万博の開催日には間に合いそうだ」
そんなある日の午後。
一人の老人が、杖をつきながら僕のもとへやってきた。
ボロボロの衣服をまとっているが、その眼光は鋭い。
「あんたが、この土地の主か?」
「そうですが。何か御用で?」
「噂の野菜とやらを食わせてくれ。孫が……原因不明の熱病で死にかけておるんじゃ。金はない。だが、この命ならいつでもくれてやる」
老人は土下座しようとした。
僕は慌てて彼を支える。
「命なんていりませんよ。ここでの支払いは『笑顔』と『感想』だけで十分です」
僕は籠から【聖女のイチゴ】を取り出し、老人に渡した。
それを持ち帰った老人が、翌日、元気に走り回る孫の手を引いて涙ながらに感謝しに来た姿を見て、僕は改めて確信した。
僕のスキルは、誰かを見返すためのものじゃない。
誰かを幸せにするためにあるんだと。
ベルナルドも戻ってきた。
彼は大量の契約書と、期待に満ちた笑顔を携えていた。
「準備は整いましたぞ、カイル様。各国の王族、商工会のトップ、著名な美食家……招待状を送った全員から『参加』の返事が来ました」
「全員!?あの帝国皇帝もか?」
「ええ。あなたの野菜の噂は、すでに国境を超えています。さあ、忙しくなりますよ!」
荒野はもはや「死の土地」ではない。
希望と食欲が集まる、世界で一番熱い場所になろうとしていた。
荒野の様子は劇的に変化していた。
ベルナルドが街へ持ち帰った「奇跡の野菜」の噂は、瞬く間に大陸中へ広がったのだ。
エリクサーに匹敵する回復効果を持つトマト、寿命を延ばすと言われるジャガイモ、そして万病に効くハーブ。
それらを求めて、商人、冒険者、料理人、そして病に苦しむ人々が、この辺境の地に押し寄せ始めたのだ。
「カイル様、今日も三十人の入植希望者が来ています!」
すっかり農園の「女将」のような貫禄がついたソフィアが、名簿を片手に報告してくる。
彼女の指揮のもと、農園の周囲には宿場町のような集落ができ始めていた。
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「わかった。入植の条件は?」
「はい。『農園の掟を守ること』『作物の秘密を守ること』そして『みんなで美味しくご飯を食べること』。すべて了承済みです」
ソフィアは楽しそうに笑った。
王都にいた頃の「氷の聖女」と呼ばれた冷たさは微塵もない。
泥のついたエプロン姿で、村人たちに声をかけ、子供たちに野菜スープを振る舞う彼女は、誰よりも輝いて見えた。
そんな中、僕は万博の目玉となる究極の作物を育てていた。
農園の中央、一番魔力が集まる場所に植えた一本の苗木。
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文献によれば、一口食べればあらゆる呪いを解き、魔力を完全回復させ、至上の幸福感を与えるという神の果実。
本来なら百年かけて育つものだが、僕のスキルとソフィアの祈り、そして皆の活気あるエネルギーを受けて、苗木は驚異的なスピードで成長していた。
「あと少し……万博の開催日には間に合いそうだ」
そんなある日の午後。
一人の老人が、杖をつきながら僕のもとへやってきた。
ボロボロの衣服をまとっているが、その眼光は鋭い。
「あんたが、この土地の主か?」
「そうですが。何か御用で?」
「噂の野菜とやらを食わせてくれ。孫が……原因不明の熱病で死にかけておるんじゃ。金はない。だが、この命ならいつでもくれてやる」
老人は土下座しようとした。
僕は慌てて彼を支える。
「命なんていりませんよ。ここでの支払いは『笑顔』と『感想』だけで十分です」
僕は籠から【聖女のイチゴ】を取り出し、老人に渡した。
それを持ち帰った老人が、翌日、元気に走り回る孫の手を引いて涙ながらに感謝しに来た姿を見て、僕は改めて確信した。
僕のスキルは、誰かを見返すためのものじゃない。
誰かを幸せにするためにあるんだと。
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「準備は整いましたぞ、カイル様。各国の王族、商工会のトップ、著名な美食家……招待状を送った全員から『参加』の返事が来ました」
「全員!?あの帝国皇帝もか?」
「ええ。あなたの野菜の噂は、すでに国境を超えています。さあ、忙しくなりますよ!」
荒野はもはや「死の土地」ではない。
希望と食欲が集まる、世界で一番熱い場所になろうとしていた。
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