無能と追放された鑑定士、実は物の情報を書き換える神スキル【神の万年筆】の持ち主だったので、辺境で楽園国家を創ります!

黒崎隼人

文字の大きさ
7 / 14

第6話「置き去りにした歯車」

しおりを挟む
 その頃、リアムを追放した勇者パーティーは、深刻なスランプに陥っていた。
「クソッ! またこっちの道も行き止まりかよ!」
 薄暗い迷宮の通路で、勇者アルスはいまいましげに壁を殴りつけた。リアムを追い出してもう一年近くになるが、迷宮の攻略は全く進んでいなかった。それどころか、以前は難なく進めていた階層でさえ、苦戦を強いられる始末だった。
「アルス様、落ち着いてください。焦りは禁物ですわ」
 聖女セリアが気遣うように声をかけるが、アルスのいら立ちは収まらない。
「うるさい! 落ち着いていられるか! あの役立たずがいなくなって、せいせいすると思っていたのによ! なぜこうも上手くいかねえんだ!」
 原因は、火を見るより明らかだった。リアムの不在だ。
 彼らは、リアムの【鑑定】スキルがいかに重要であったかを、失って初めて痛感していた。
「ちっ、この宝箱も罠かよ! さっきから罠ばっかりじゃねえか!」
 魔法使いが、宝箱に仕掛けられた毒矢の罠にかかって呻いている。リアムがいれば、一瞬で罠の有無を見抜き、安全な宝箱だけを選んで開けることができた。しかし、今は手当たり次第に開けては、罠にかかることの繰り返しだ。
「この剣もハズレだ…。鑑定してもらったら、ただのなまくらだったぜ」
 戦士が投げ捨てた剣は、見た目こそ立派な魔法の剣に見えたが、実態は粗悪な偽物だった。リアムがいれば、ドロップしたアイテムの真贋や性能を瞬時に見抜いてくれた。彼の鑑定眼は、パーティーの装備の質を最高レベルに保つための生命線だったのだ。
 だが、彼らはその重要性を理解していなかった。鑑定結果を報告するだけのリアムを、ただ乗りしているだけの「寄生虫」としか見ていなかったのだ。
「回復薬(ポーション)ももう尽きそうです…。これ以上は進めません」
 セリアが悲痛な声を上げる。リアムは、道端の薬草から高純度の回復薬を精製することもできた。材料の品質を【鑑定】で見極め、最適な調合を導き出していたからだ。彼がいなくなり、パーティーの消耗は以前の数倍にもなっていた。
「くそ、くそ、くそっ! なんでだよ! 俺は勇者だぞ! あんな無能がいなくたって、やれるはずだろうが!」
 アルスの叫びは、虚しく迷宮に響くだけだった。
 彼らは気づいていなかった。リアムという、最も重要な歯車を自ら取り外してしまったことに。パーティーという精密機械は、今やまともに動くことすらできなくなっていた。
 焦りと苛立ちは、パーティー内の不和を生んだ。
「おい、アルス! てめえのせいで、俺の愛剣がボロボロになっちまったじゃねえか! どうしてくれるんだ!」
「なんだと! てめえの立ち回りが悪いんだろうが!」
 些細なミスを互いになすりつけ、仲間同士でいがみ合う。かつての精鋭パーティーの面影は、もはやどこにもなかった。セリアも、成功から見放され、苛立ちを募らせるアルスの姿に、かつて抱いた憧れが薄れていくのを感じていた。
『こんなはずじゃなかった…。アルス様と一緒なら、もっと輝かしい未来が待っているはずだったのに…』
 彼女の脳裏に、ふと、追放した男の顔がよぎる。いつもおどおどしていて、頼りなかった元婚約者。
『リアム…あいつ、今頃どこで何をしているのかしら…』
 路地裏で飢え死にでもしているだろうか。そう思うと、ほんの少しだけ胸が痛んだ。だが、すぐにその感傷を振り払う。自分が選んだ道だ。アルスこそが、自分を栄光へと導いてくれる唯一の存在なのだから。
 そう信じたかった。
 そんなある日、攻略に行き詰まった彼らが王都に帰還すると、街が奇妙な噂で持ちきりになっていることに気づいた。
「おい、聞いたか? 辺境にできた『エデン』って都市国家の話」
「ああ! なんでも、そこの作物は食えば寿命が延びるだの、泉の水を飲めば万病が治るだのって話だぜ」
「そこで作られた武具は、国宝級の魔剣に匹敵する性能らしいじゃないか!」
「エデン」…聞いたこともない都市の名だ。しかし、その噂はあまりにも現実離れしており、アルスたちは一笑に付した。
「馬鹿馬鹿しい。辺境にそんな都合のいい場所があるわけないだろう」
「ええ、きっと尾ひれがついたただの噂ですわ」
 しかし、その噂は日を追うごとに真実味を帯びていく。貴族たちがこぞって「奇跡のカブ」を買い求め、騎士団が「エデン鋼」の武具の導入を検討し始めたのだ。
 そして、彼らの耳に、決定的な情報がもたらされた。
 その奇跡の都市国家「エデン」をゼロから創り上げ、統治している指導者の名。
 ――その名は、「創生王」リアム。
「…は?」
 アルスは、報告に来た騎士の言葉が理解できなかった。
「リアム…だと? どこのどいつだ、それは」
「はっ。それが、元々アルス様のパーティーに所属されていた、鑑定士のリアム様だそうで…」
 時が、止まった。
 アルスも、セリアも、パーティーの誰もが、凍りついたように動けない。
 あの無能。
 あの寄生虫。
 自分たちがゴミのように捨てた、あのお荷物が。
 辺境で、奇跡の都市を創り、王として君臨している…?
「…あり得ん」
 アルスの口から、絞り出すような声が漏れた。
「何かの間違いだ。あいつにそんなことができるはずがない…!」
 だが、彼の否定は、自らの焦りと動揺を隠すための虚勢でしかなかった。胸の奥で、嫌な予感が渦巻いていた。もし、あの噂が本当なら。もし、自分たちがとんでもない宝を、自らの手でドブに捨ててしまったのだとしたら…?
「…確かめに行くぞ」
 アルスは、血走った目で仲間たちに命じた。
「辺境のエデンとやらに、今すぐ向かう。そして、もしそいつが本当にあのリアムなら…力ずくで連れ戻してやる!」
 彼の傲慢な思考は、まだ自分たちが優位な立場にいると信じて疑わなかった。自分たちが犯した過ちの大きさに気づくのは、もう少し先のことである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

追放された宮廷薬師、科学の力で不毛の地を救い、聡明な第二王子に溺愛される

希羽
ファンタジー
王国の土地が「灰色枯病」に蝕まれる中、若干25歳で宮廷薬師長に就任したばかりの天才リンは、その原因が「神の祟り」ではなく「土壌疲弊」であるという科学的真実を突き止める。しかし、錬金術による安易な「奇跡」にすがりたい国王と、彼女を妬む者たちの陰謀によって、リンは国を侮辱した反逆者の濡れ衣を着せられ、最も不毛な土地「灰の地」へ追放されてしまう。 ​すべてを奪われた彼女に残されたのは、膨大な科学知識だけだった。絶望の地で、リンは化学、物理学、植物学を駆使して生存基盤を確立し、やがて同じく見捨てられた者たちと共に、豊かな共同体「聖域」をゼロから築き上げていく。 ​その様子を影から見守り、心を痛めていたのは、第二王子アルジェント。宮廷で唯一リンの価値を理解しながらも、彼女の追放を止められなかった無力な王子だった。

元悪役令嬢、偽聖女に婚約破棄され追放されたけど、前世の農業知識で辺境から成り上がって新しい国の母になりました

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢ロゼリアは、王太子から「悪役令嬢」の汚名を着せられ、大勢の貴族の前で婚約を破棄される。だが彼女は動じない。前世の記憶を持つ彼女は、法的に完璧な「離婚届」を叩きつけ、自ら自由を選ぶ! 追放された先は、人々が希望を失った「灰色の谷」。しかし、そこは彼女にとって、前世の農業知識を活かせる最高の「研究室」だった。 土を耕し、水路を拓き、新たな作物を育てる彼女の姿に、心を閉ざしていた村人たちも、ぶっきらぼうな謎の青年カイも、次第に心を動かされていく。 やがて「辺境の女神」と呼ばれるようになった彼女の奇跡は、一つの領地を、そして傾きかけた王国全体の運命をも揺るがすことに。 これは、一人の気高き令嬢が、逆境を乗り越え、最高の仲間たちと新しい国を築き、かけがえのない愛を見つけるまでの、壮大な逆転成り上がりストーリー!

悪役令嬢は廃墟農園で異世界婚活中!~離婚したら最強農業スキルで貴族たちが求婚してきますが、元夫が邪魔で困ってます~

黒崎隼人
ファンタジー
「君との婚約を破棄し、離婚を宣言する!」 皇太子である夫から突きつけられた突然の別れ。 悪役令嬢の濡れ衣を着せられ追放された先は、誰も寄りつかない最果ての荒れ地だった。 ――最高の農業パラダイスじゃない! 前世の知識を活かし、リネットの農業革命が今、始まる! 美味しい作物で村を潤し、国を救い、気づけば各国の貴族から求婚の嵐!? なのに、なぜか私を捨てたはずの元夫が、いつも邪魔ばかりしてくるんですけど! 「離婚から始まる、最高に輝く人生!」 農業スキル全開で国を救い、不器用な元夫を振り回す、痛快!逆転ラブコメディ!

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

聖獣使い唯一の末裔である私は追放されたので、命の恩人の牧場に尽力します。~お願いですから帰ってきてください?はて?~

雪丸
恋愛
【あらすじ】 聖獣使い唯一の末裔としてキルベキア王国に従事していた主人公”アメリア・オルコット”は、聖獣に関する重大な事実を黙っていた裏切り者として国外追放と婚約破棄を言い渡された。 追放されたアメリアは、キルベキア王国と隣の大国ラルヴァクナ王国の間にある森を彷徨い、一度は死を覚悟した。 そんな中、ブランディという牧場経営者一家に拾われ、人の温かさに触れて、彼らのために尽力することを心の底から誓う。 「もう恋愛はいいや。私はブランディ牧場に骨を埋めるって決めたんだ。」 「羊もふもふ!猫吸いうはうは!楽しい!楽しい!」 「え?この国の王子なんて聞いてないです…。」 命の恩人の牧場に尽力すると決めた、アメリアの第二の人生の行く末はいかに? ◇◇◇ 小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 カクヨムにて先行公開中(敬称略)

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

処理中です...