追放された悪役令嬢、辺境で植物魔法に目覚める。銀狼領主の溺愛と精霊の加護で幸せスローライフ!〜真の聖女は私でした〜

黒崎隼人

文字の大きさ
6 / 23

第5話「拒絶から信頼への一歩」

しおりを挟む
 子供を救った一件は、リリアに対する集落の空気を劇的に変えた。

 以前の敵意に満ちた視線は消え、遠巻きながらも興味や感謝の眼差しが向けられるようになった。

 中には、おずおずと「ありがとう」と声をかけてくれる者も現れた。

 そんなある日、一人の老婆がリリアの小屋を訪ねてきた。

 集落の中でも特に警戒心が強く、リリアを睨みつけていた一人だ。

「……頼みが、ある」

 老婆は気まずそうに、リリアに小さな鉢植えを差し出した。

 中には、根元から折れ、ぐったりと萎れた薬草の苗が入っている。

「これは、死んだ婆さんから受け継いだ、大切な薬草でな。わしがうっかり折ってしもうた。あんたなら、どうにかできるんじゃないかと思って……」

 リリアは、老婆にとってその苗がどれほど大事なものかを察し、こくりと頷いた。

「お預かりします」

 リリアは鉢植えを受け取ると、両手でそっと包み込むように苗に触れた。

 そして、意識を集中させる。

「大丈夫。あなたはまだ、生きているわ」

 彼女の手から溢れ出した優しい光が、苗を包み込む。

 すると、折れた茎がゆっくりと繋がり、萎れていた葉がピンと瑞々しさを取り戻していく。

 まるで、時間を巻き戻したかのように。

 その光景を目の当たりにした老婆は、腰が抜けそうになるほど驚き、何度も目をこすった。

「おお……おお……!」

 完全に蘇った苗を返すと、老婆は深々と頭を下げ、涙ながらに感謝して去っていった。

 そして、その一部始終を、少し離れた場所からカイルが見ていた。

 その日の夕方、カイルの使いがリリアの元を訪れた。

「領主様がお呼びです」

 領主館に足を踏み入れるのは、ここに来て初めてだった。

 質実剛健だが、手入れの行き届いた館。

 通された執務室で、カイルは腕を組み、鋭い視線で私を待っていた。

「……お前の力は、何だ」

 単刀直入な問いだった。

 隠しても無駄だろう。

 私は、自分が植物の力を活性化させる不思議な力を持っていることを、正直に話した。

「……そうか。では、王都での一件についても話せ。なぜ追放された」

 その金色の瞳は、真実を知りたいと告げていた。

 私は、セレーネに嵌められた経緯を、淡々と語った。

 王子に想いを寄せるセレーネが、私を邪魔者として排除するために仕組んだ罠。

 誰もが聖女の言葉を信じ、私を「悪役令嬢」と断罪したこと。

「王都では、私は『悪役令嬢』と呼ばれていました。でも……」

 私はカイルの目をまっすぐに見つめて言った。

「ここでなら、新しい自分になれる気がするんです。この力で、この土地の役に立てるかもしれない。そう、思っています」

 私の言葉に、カイルはしばらく沈黙していた。

 彼の表情からは、何も読み取れない。

 やがて、彼は重々しく口を開いた。

「ここは厳しい土地だ。お前のようなか弱い女が、気まぐれで生きていける場所じゃない。生き抜く覚悟が、お前にあるのか」

 試すような、厳しい問い。

 でも、私はもう迷わなかった。

「はい!」

 力強く、はっきりと答える。

 私の瞳に宿る決意を見て、カイルはふいと視線をそらし、小さく、本当に小さく、頷いた。

「……好きにしろ」

 それは拒絶ではなく、紛れもない許可の言葉だった。

 冷たい領主様との間に、ようやく見えた信頼への確かな一歩。

 私の辺境での人生が、また一つ、新しいページをめくった瞬間だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした

由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。 無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。 再び招かれたのは、かつて母を追放した国。 礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。 これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

病弱令嬢…?いいえ私は…

月樹《つき》
恋愛
 アイゼンハルト公爵家の長女クララは生まれた時からずっと病弱で、一日の大半をベッドの上で過ごして来た。対するクララの婚約者で第三皇子のペーターはとても元気な少年で…寝たきりのクララの元を訪ねることもなく、学園生活を満喫していた。そんなクララも15歳となり、何とかペーターと同じ学園に通えることになったのだが…そこで明るく元気な男爵令嬢ハイジと仲睦まじくするペーター皇子の姿を見て…ショックのあまり倒れてしまった…。 (ペーターにハイジって…某アルプスの少女やんか〜い!!) 謎の言葉を頭に思い浮かべながら…。 このお話は他サイトにも投稿しております。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

処理中です...