Sランクパーティー役立たずと追放された僕。でも俺のスキルは、ガラクタを伝説級に変える最強鑑定士でした

黒崎隼人

文字の大きさ
2 / 17

第1章:役立たずの烙印

しおりを挟む
 じっとりと肌に纏わりつく湿気が、体温と気力を同時に奪っていく。
 古代遺跡の最深部、空気が鉛のように重い大空洞に、Sランクパーティー「太陽の槍」のリーダー、ガイウス・ブレイブハートの苛立った声が響いた。
「おい、アルト!まだか!たかが宝箱の鑑定にどれだけ時間をかけている!」
 声にびくりと肩を震わせ、俺――アルト・グレイラットは、目の前にある豪奢な宝箱から顔を上げた。黒曜石のように滑らかな箱には、銀の蔦模様がびっしりと刻まれている。一見すれば、誰もが涎を垂らす国宝級のお宝だ。
 だが、俺のユニークスキル【物語鑑定】が読み解くのは、そんな表面的な価値じゃない。
「……ガイウス。この宝箱からは、とても悲しい物語が聞こえる」
 俺がそう告げると、ガイウスの眉間の皺がさらに深くなった。彼の隣に立つ重騎士が呆れたようにため息をつき、弓使いの男は鼻で笑う。
 俺のスキルは、物の価値や性能(ステータス)を鑑定するものではない。その品が経てきた来歴、関わった人々の記憶、宿ってしまった呪い――すなわち「物語」を読み解く、世界でただ一つの力だ。
「この宝箱は、ある王国の将軍のものだった。彼は親友である副官を信じ、国のすべてを賭けた作戦の切り札をこの中に隠した。でも……副官は敵国に寝返っていたんだ。将軍は裏切られ、国は滅び、この宝箱だけが虚しく残された……。だから、この箱には強い後悔と、裏切られた悲しみの念が渦巻いている。罠の有無は分からないけど、触れない方がいい」
 俺は知り得た物語を必死に伝えた。これが俺にできる、唯一の貢献なのだから。
 しかし、ガイウスは忌々しげに舌打ちをした。
「ポエムか?アルト、お前のポエムはもう聞き飽きた!俺たちが知りたいのは、中に罠があるかどうか、どんなマジックアイテムが入っているかだ!お前のゴミスキルは、戦闘の役にも立たなければ、探索の役にも立たん!」
 ガイウスの金色の髪が、彼の怒りに呼応するように揺れる。彼が掲げる【勇者】という職業は、まさしくこのパーティーの象徴であり、彼の言葉は絶対だった。
「ですが、この物語はきっと何かの……」
「黙れ!」
 轟音と共に、ガイウスの拳が宝箱のすぐ横の壁に叩きつけられ、岩が砕け散る。俺は恐怖で声も出せなかった。
「いいかげんにしろ、役立たず。お前をパーティーに入れたのは、希少スキル持ちという物珍しさだけだ。だが、もう我慢の限界だ。今日限りで、お前はクビだ!」
「え……?」
 クビ。その一言が、まるで理解できなかった。
 仲間だと思っていた。戦闘はできなくても、この力でいつか役に立てると信じていた。ダンジョンで危険な呪いのアイテムを避けたり、遺された物語から隠し通路のヒントを見つけたり、微力ながら貢献してきたつもりだった。
「そ、そんな……。待ってください、ガイウス!」
「うるさい!お前の分け前はない。装備もすべて置いていけ。そのまま王都から出ていけよ、二度と俺たちの前に顔を見せるな!」
 ガイウスはそう吐き捨てると、宝箱を蹴り開けた。その瞬間、箱の中から黒い靄が噴き出し、鋭い針が無数に飛び出した。
「ぐあっ!?」
「罠だ!」
 咄嗟に反応した天才魔導士、セレスティア・ヴァイスが防御障壁を展開し、針の雨を防ぐ。だが、ガイウスは数本を腕に受けていた。幸い、毒はなかったらしい。
「ちっ……!これも全部、的確な鑑定ができないお前のせいだ!」
 八つ当たりだと分かっている。それでも、彼の憎悪に満ちた瞳は、まっすぐに俺を射抜いていた。
 俺は何も言えなかった。パーティーメンバーは誰一人、俺を庇ってはくれない。ただ一人、セレスティアだけが、何か言いたげに唇を噛み、苦しそうな顔で俺を見ていたが、彼女もまた、リーダーの決定に逆らうことはできなかった。
 その日のうちに、俺は無一文でパーティーを、そして王都を追い出された。
 降りしきる冷たい雨が、みすぼらしい服を濡らしていく。仲間だと思っていた者たちへの失望と、自らの無力さへの絶望が、冷たい渦となって心を蝕んでいく。
 行く当てもなく、ただ濡れた石畳を歩きながら、俺は静かに涙を流すことしかできなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能だと追放された錬金術師ですが、辺境でゴミ素材から「万能ポーション」を精製したら、最強の辺境伯に溺愛され、いつの間にか世界を救っていました

メルファン
恋愛
「攻撃魔法も作れない欠陥品」「役立たずの香り屋」 侯爵令嬢リーシェの錬金術は、なぜか「ポーション」や「魔法具」ではなく、「ただの石鹸」や「美味しい調味料」にしかなりませんでした。才能ある妹が「聖女」として覚醒したことで、役立たずのレッテルを貼られたリーシェは、家を追放されてしまいます。 行きついた先は、魔物が多く住み着き、誰も近づかない北の辺境伯領。 リーシェは静かにスローライフを送ろうと、持参したわずかな道具で薬草を採取し、日々の糧を得ようとします。しかし、彼女の「無能な錬金術」は、この辺境の地でこそ真価を発揮し始めたのです。 辺境のゴミ素材から、領民を悩ませていた疫病の特効薬を精製! 普通の雑草から、兵士たちの疲労を瞬時に回復させる「万能ポーション」を大量生産! 魔物の残骸から、辺境伯の呪いを解くための「鍵」となる物質を発見! リーシェが精製する日用品や調味料は、辺境の暮らしを豊かにし、貧しい領民たちに笑顔を取り戻させました。いつの間にか、彼女の錬金術に心酔した領民や、可愛らしい魔獣たちが集まり始めます。 そして、彼女の才能に気づいたのは、この地を治める「孤高の美男辺境伯」ディーンでした。 彼は、かつて公爵の地位と引き換えに呪いを受けた不遇な英雄。リーシェの錬金術が、その呪いを解く唯一の鍵だと知るや否や、彼女を熱烈に保護し、やがて溺愛し始めます。 「君の錬金術は、この世界で最も尊い。君こそが、私にとっての『生命線』だ」 一方、リーシェを追放した王都は、優秀な錬金術師を失ったことで、ポーション不足と疫病で徐々に衰退。助けを求めて使者が辺境伯領にやってきますが、時すでに遅し。 「我が妻は、あなた方の命を救うためだけに錬金術を施すほど暇ではない」 これは、追放された錬金術師が、自らの知識とスキルで辺境を豊かにし、愛する人と家族を築き、最終的に世界を救う、スローライフ×成り上がり×溺愛の長編物語。

無能と追放された鑑定士、実は物の情報を書き換える神スキル【神の万年筆】の持ち主だったので、辺境で楽園国家を創ります!

黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――勇者パーティーの【鑑定士】リアムは、戦闘能力の低さを理由に、仲間と婚約者から無一文で追放された。全てを失い、流れ着いたのは寂れた辺境の村。そこで彼は自らのスキルの真価に気づく。物の情報を見るだけの【鑑定】は、実は万物の情報を書き換える神のスキル【神の万年筆】だったのだ! 「ただの石」を「最高品質のパン」に、「痩せた土地」を「豊穣な大地」に。奇跡の力で村を豊かにし、心優しい少女リーシャとの絆を育むリアム。やがて彼の村は一つの国家として世界に名を轟かせる。一方、リアムを失った勇者パーティーは転落の一途をたどっていた。今さら戻ってこいと泣きついても、もう遅い! 無能と蔑まれた青年が、世界を創り変える伝説の王となる、痛快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。 彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。 ようやく手に入れた穏やかな日々。 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。 彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。 そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。 「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。 「いつものことだから、君のせいじゃないよ」 これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。 二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。 心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。

追放勇者の土壌改良は万物進化の神スキル!女神に溺愛され悪役令嬢と最強国家を築く

黒崎隼人
ファンタジー
勇者として召喚されたリオンに与えられたのは、外れスキル【土壌改良】。役立たずの烙印を押され、王国から追放されてしまう。時を同じくして、根も葉もない罪で断罪された「悪役令嬢」イザベラもまた、全てを失った。 しかし、辺境の地で死にかけたリオンは知る。自身のスキルが、実は物質の構造を根源から組み替え、万物を進化させる神の御業【万物改良】であったことを! 石ころを最高純度の魔石に、ただのクワを伝説級の戦斧に、荒れ地を豊かな楽園に――。 これは、理不尽に全てを奪われた男が、同じ傷を持つ気高き元悪役令嬢と出会い、過保護な女神様に見守られながら、無自覚に世界を改良し、自分たちだけの理想郷を創り上げ、やがて世界を救うに至る、壮大な逆転成り上がりファンタジー!

ありふれた話 ~追放された錬金術師は、神スキル【物質創造】で辺境に楽園を築きます。今さら戻ってこいと言われても以下略

ゆきむらちひろ
ファンタジー
「追放」「ざまぁ」「実は最強」「生産チート」「スローライフ」「可愛いヒロイン」などなど、どこかで見たことがあるような設定を山盛りにして、ゆきむら的に書き殴っていく異世界ファンタジー。 ■あらすじ 勇者パーティーで雑用兼ポーション生成係を務めていた錬金術師・アルト。 彼は勇者から「お前のスキルはもう限界だ。足手まといだ」と無一文で追放されてしまう。 失意のまま辺境の寂れた村に流れ着いたアルトだったが、 そこで自身のスキル【アイテム・クリエーション】が、 実はただのアイテム作成ではなく、 物質の構造を自在に組み替える神の御業【物質創造】であることに気づく。 それ以降、彼はその力で不毛の土地を肥沃な農地に変え、 枯れた川に清流を呼び戻し、 村人たちのために快適な家や温泉まで作り出していく。 さらに呪いに苦しむエルフの美少女を救い、 お人好しな商人、訳ありな獣人、腕利きのドワーフなどを取り入れ、 アルトは辺境を活気あふれる理想郷にしようと奮闘する。 一方、アルトを追放した勇者パーティーは、なぜかその活躍に陰りが見えてきて……。  ―・―・―・―・―・―・―・― タイトルを全部書くなら、 『追放された錬金術師は、神スキル【物質創造】で辺境に楽園を築きます ~今さら戻ってこいと泣きつかれても、もう遅い。周りには僕を信じてくれる仲間がいるので~』という感じ。ありそう。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」に同内容のものを投稿しています。 ※この作品以外にもいろいろと小説を投稿しています。よろしければそちらもご覧ください。

大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!

向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。 土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。 とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。 こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。 土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど! 一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

無能と追放された鑑定士の俺、実は未来まで見通す超チートスキル持ちでした。のんびりスローライフのはずが、気づけば伝説の英雄に!?

黒崎隼人
ファンタジー
Sランクパーティの鑑定士アルノは、地味なスキルを理由にリーダーの勇者から追放宣告を受ける。 古代迷宮の深層に置き去りにされ、絶望的な状況――しかし、それは彼にとって新たな人生の始まりだった。 これまでパーティのために抑制していたスキル【万物鑑定】。 その真の力は、あらゆるものの真価、未来、最適解までも見抜く神の眼だった。 隠された脱出路、道端の石に眠る価値、呪われたエルフの少女を救う方法。 彼は、追放をきっかけに手に入れた自由と力で、心優しい仲間たちと共に、誰もが笑って暮らせる理想郷『アルカディア』を創り上げていく。 一方、アルノを失った勇者パーティは、坂道を転がるように凋落していき……。 痛快な逆転成り上がりファンタジーが、ここに開幕する。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

処理中です...