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第4章:噂の始まりと最初の依頼人
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銀髪の少女――リリアナと名乗った(もちろん、筆談で)彼女は、それから毎日のように店へ顔を見せるようになった。相変わらず言葉は発せず、その存在もどこか掴みどころがなかったが、俺が淹れるミルクティーを静かに飲む時間が、彼女にとっての安らぎになっているようだった。
そんなある日、ひょんなことから奇跡が起きた。
街の若い衛兵が、非番の日に俺の店を冷やかしに訪れた。彼は店に飾ってあった【勇気の短剣】に目をつけ、「こんな綺麗な短剣、珍しいな!」と感心していた。俺は、その短剣が持つ物語を彼に話して聞かせた。臆病な兵士の、たった一度の勇気の物語を。
衛兵は深く感銘を受けたようで、「給料が出たらぜひ譲ってほしい」と言って帰っていった。
その翌日、街が騒然となった。近隣の森からゴブリンの群れが溢れ出し、手薄だった街の防衛網を突破して広場まで侵入してきたのだ。人々がパニックに陥る中、偶然その場に居合わせたのが、あの若い衛兵だった。
彼は恐怖に足がすくみ、動けなくなったという。だがその時、懐に忍ばせていた【勇気の短剣】(俺が「お守りに」と貸していたのだ)が淡く光り、臆病な兵士の物語が脳裏をよぎった。彼は仲間を守るために奮い立ち、たった一人でゴブリンの群れに立ち向かい、応援が駆けつけるまでの時間を稼ぎきったのだ。
一人の衛兵が街を救った。その奇跡の立役者が、俺の店の短剣だった。この一件はあっという間に街中に広まり、『物語の揺りかご』には「伝説級のアイテムが眠っている」という、少し大げさな噂が立ち始めた。
「まさか、こんなことになるとは……」
カウンターでため息をつく俺の隣で、リリアナがくすくすと肩を揺らして笑う。彼女の笑顔を見るのは、これが初めてだった。
そして、その噂は、本当に助けを必要としている人を呼び寄せた。
「ここが、呪いを解いてくれるという店か?」
現れたのは、屈強な体つきをした、顔に深い傷跡のある初老の男だった。彼は元騎士団長で、今は引退して静かに暮らしているという。
「依頼がある。この兜の呪いを解いてほしい」
彼が差し出したのは、禍々しい紫のオーラを放つフルフェイスの兜だった。
「これを被って戦場で手柄を立てたのだが、それ以来、毎晩悪夢にうなされる。裏切られ、無残に殺される夢だ。おかげで夜も眠れん」
俺は頷き、兜にそっと触れた。【物語鑑定】を発動する。
――流れ込んできたのは、怨念の物語。この兜の元の持ち主は、男のライバルだった騎士だ。彼は戦場で男に裏切られ、敵の罠にはめられて命を落とした。彼の絶望と怨念が、この兜に呪いとして宿ってしまったのだ。男が見る悪夢は、この兜が発する怨念の声そのものだった――
「この兜は、あなたに裏切られた騎士の怨念を伝えています。彼はあなたを許せず、苦しみを訴え続けている」
俺が物語を伝えると、元騎士は顔を青ざめさせ、膝から崩れ落ちた。
「……そうか。やはり、そうだったのか。俺は、出世のために友を……見殺しにした。ずっと罪の意識から逃げていた」
彼は涙ながらにすべてを告白し、兜に向かって何度も謝罪した。すると、兜を覆っていた禍々しいオーラが、すうっと消えていく。裏切られた騎士の物語は、裏切った側の心からの謝罪によって、ようやく終わりを迎えたのだ。呪いは完全に解かれていた。
元騎士は深々と頭を下げ、分厚い金貨袋を置いて帰っていった。
俺のユニークな能力は、こうして少しずつ、忘れられた街の人々に認められ始めていた。
そんなある日、ひょんなことから奇跡が起きた。
街の若い衛兵が、非番の日に俺の店を冷やかしに訪れた。彼は店に飾ってあった【勇気の短剣】に目をつけ、「こんな綺麗な短剣、珍しいな!」と感心していた。俺は、その短剣が持つ物語を彼に話して聞かせた。臆病な兵士の、たった一度の勇気の物語を。
衛兵は深く感銘を受けたようで、「給料が出たらぜひ譲ってほしい」と言って帰っていった。
その翌日、街が騒然となった。近隣の森からゴブリンの群れが溢れ出し、手薄だった街の防衛網を突破して広場まで侵入してきたのだ。人々がパニックに陥る中、偶然その場に居合わせたのが、あの若い衛兵だった。
彼は恐怖に足がすくみ、動けなくなったという。だがその時、懐に忍ばせていた【勇気の短剣】(俺が「お守りに」と貸していたのだ)が淡く光り、臆病な兵士の物語が脳裏をよぎった。彼は仲間を守るために奮い立ち、たった一人でゴブリンの群れに立ち向かい、応援が駆けつけるまでの時間を稼ぎきったのだ。
一人の衛兵が街を救った。その奇跡の立役者が、俺の店の短剣だった。この一件はあっという間に街中に広まり、『物語の揺りかご』には「伝説級のアイテムが眠っている」という、少し大げさな噂が立ち始めた。
「まさか、こんなことになるとは……」
カウンターでため息をつく俺の隣で、リリアナがくすくすと肩を揺らして笑う。彼女の笑顔を見るのは、これが初めてだった。
そして、その噂は、本当に助けを必要としている人を呼び寄せた。
「ここが、呪いを解いてくれるという店か?」
現れたのは、屈強な体つきをした、顔に深い傷跡のある初老の男だった。彼は元騎士団長で、今は引退して静かに暮らしているという。
「依頼がある。この兜の呪いを解いてほしい」
彼が差し出したのは、禍々しい紫のオーラを放つフルフェイスの兜だった。
「これを被って戦場で手柄を立てたのだが、それ以来、毎晩悪夢にうなされる。裏切られ、無残に殺される夢だ。おかげで夜も眠れん」
俺は頷き、兜にそっと触れた。【物語鑑定】を発動する。
――流れ込んできたのは、怨念の物語。この兜の元の持ち主は、男のライバルだった騎士だ。彼は戦場で男に裏切られ、敵の罠にはめられて命を落とした。彼の絶望と怨念が、この兜に呪いとして宿ってしまったのだ。男が見る悪夢は、この兜が発する怨念の声そのものだった――
「この兜は、あなたに裏切られた騎士の怨念を伝えています。彼はあなたを許せず、苦しみを訴え続けている」
俺が物語を伝えると、元騎士は顔を青ざめさせ、膝から崩れ落ちた。
「……そうか。やはり、そうだったのか。俺は、出世のために友を……見殺しにした。ずっと罪の意識から逃げていた」
彼は涙ながらにすべてを告白し、兜に向かって何度も謝罪した。すると、兜を覆っていた禍々しいオーラが、すうっと消えていく。裏切られた騎士の物語は、裏切った側の心からの謝罪によって、ようやく終わりを迎えたのだ。呪いは完全に解かれていた。
元騎士は深々と頭を下げ、分厚い金貨袋を置いて帰っていった。
俺のユニークな能力は、こうして少しずつ、忘れられた街の人々に認められ始めていた。
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