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第12章:女王の試練と国の礎
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独立を宣言し、女王として即位したリーゼリットを待ち受けていたのは、祝賀の宴ではなく、山積する国家運営という名の試練だった。アルカディア王国という巨大な敵を前に、急ごしらえの新生国家「テラ・ノヴァ」は、内部の礎を早急に固める必要があった。
「まず、法を整備しなければなりません。国民が安心して暮らすための、公正なルールが必要です」
宰相となったセシリアは、分厚い書類の束を手に、リーゼリットに進言した。王宮の書庫で得た知識と、王国の腐敗した政治を反面教師として、彼女は全く新しい国の形を模索していた。
リーゼリットは、セシリアが作成した憲法の草案に、真剣に目を通した。そこには、身分に関わらず全ての国民の権利を保障すること、権力の乱用を防ぐための仕組み、そして、国の主権が国民にあることなどが明記されていた。
「素晴らしいわ、セシリア。でも、一つだけ加えさせて」
リーゼリットは、ペンを取ると、憲法の前文にこう書き加えた。「我らテラ・ノヴァの国民は、この豊かな大地に感謝し、全ての生命と共に生きることを誓う」。それは、彼女がこの谷で学んだ、最も大切な理念だった。
法律の整備と並行して、経済の安定も急務だった。王国による交易封鎖は、依然として続いている。セシリアは、大胆な提案をした。
「陸路がダメなら、空路と海路を開拓しましょう。幸い、レオン殿の知識と、リーゼリット女王の魔法があれば、不可能ではありません」
レオンは、元騎士団長として、王国の地理や軍事拠点に詳しかった。彼は、王国の監視が手薄なルートを割り出し、セシリアは、かねてより王国と距離を置いていた「アークメイジ連邦」や「交易都市国家群」に使者を送った。「テラ・ノヴァ」の高品質な農作物と、古代魔法由来の技術を提供することを条件に、秘密の貿易協定を結ぶ交渉だ。リーゼリットは、親書に自らの魔法で「安全」と「豊穣」の祝福を込めた。このユニークな外交は功を奏し、いくつかの国が「テラ・ノヴァ」との同盟に関心を示し始めた。
一方、軍事面では、レオンとカイルが国の防衛力を着実に強化していた。レオンは、王国軍の戦術を逆手に取った防御陣地を国境線にいくつも構築した。カイルは、志願兵たちを率いて、ゲリラ戦を得意とする特殊部隊を訓練していた。彼らの部隊は、谷の地形を知り尽くしており、少数でも大軍を翻弄する力を持っていた。
しかし、問題は外部だけではなかった。急激に増えた人口は、文化や価値観の違いによる、住民間の小さな摩擦を生んでいた。古くから谷に住む者たちと、新しく移住してきた者たちとの間で、食料の分配や土地の利用を巡って、いさかいが起き始めたのだ。
リーゼリットは、この問題から目をそらさなかった。彼女は、女王の座に安住するのではなく、自ら民衆の中へ入っていった。双方の代表者を集めて評議会を開き、それぞれの言い分に丁寧に耳を傾け、辛抱強く対話を続けた。
「この国では、誰もが等しく国民です。古参も新参もありません。私たちは皆、この『テラ・ノヴァ』を愛し、共に未来を築いていく家族なのです」
彼女の真摯な態度は、頑なだった人々の心を少しずつ溶かしていった。そして、公平なルールに基づいた解決策を示すことで、国民の間に「私たちの女王は、いつでも民の声を聞いてくれる」という、絶対的な信頼を築き上げていった。
そんな多忙な日々の中、リーゼリットの心を支えていたのは、やはりカイルの存在だった。夜、執務室で一人、疲労困憊で机に突っ伏していると、いつの間にかカイルが部屋に入ってきて、温かいハーブティーを淹れてくれる。
「……ありがとう」
「無理しすぎだ。お前は女王である前に、一人の人間だろ」
カイルは、ぶっきらぼうに言いながらも、リーゼリットの肩を優しく揉んだ。その無骨で、けれど温かい手に、リーゼリットは心の底から安らいだ。
「カイルがいるから、私は頑張れるのよ」
素直な言葉に、カイルは顔を赤くしてそっぽを向く。そんな二人のやり取りは、公私を超えた、深い絆の証だった。
幾多の試練を乗り越えるたびに、リーゼリットは女王として成長し、国は少しずつ、しかし着実にその礎を固めていった。国民は一致団結し、「テラ・ノヴァ」は、アルカディア王国という嵐に立ち向かうための、強固な一つの生命体となっていった。来るべき最終決戦の日は、もう間近に迫っていた。
「まず、法を整備しなければなりません。国民が安心して暮らすための、公正なルールが必要です」
宰相となったセシリアは、分厚い書類の束を手に、リーゼリットに進言した。王宮の書庫で得た知識と、王国の腐敗した政治を反面教師として、彼女は全く新しい国の形を模索していた。
リーゼリットは、セシリアが作成した憲法の草案に、真剣に目を通した。そこには、身分に関わらず全ての国民の権利を保障すること、権力の乱用を防ぐための仕組み、そして、国の主権が国民にあることなどが明記されていた。
「素晴らしいわ、セシリア。でも、一つだけ加えさせて」
リーゼリットは、ペンを取ると、憲法の前文にこう書き加えた。「我らテラ・ノヴァの国民は、この豊かな大地に感謝し、全ての生命と共に生きることを誓う」。それは、彼女がこの谷で学んだ、最も大切な理念だった。
法律の整備と並行して、経済の安定も急務だった。王国による交易封鎖は、依然として続いている。セシリアは、大胆な提案をした。
「陸路がダメなら、空路と海路を開拓しましょう。幸い、レオン殿の知識と、リーゼリット女王の魔法があれば、不可能ではありません」
レオンは、元騎士団長として、王国の地理や軍事拠点に詳しかった。彼は、王国の監視が手薄なルートを割り出し、セシリアは、かねてより王国と距離を置いていた「アークメイジ連邦」や「交易都市国家群」に使者を送った。「テラ・ノヴァ」の高品質な農作物と、古代魔法由来の技術を提供することを条件に、秘密の貿易協定を結ぶ交渉だ。リーゼリットは、親書に自らの魔法で「安全」と「豊穣」の祝福を込めた。このユニークな外交は功を奏し、いくつかの国が「テラ・ノヴァ」との同盟に関心を示し始めた。
一方、軍事面では、レオンとカイルが国の防衛力を着実に強化していた。レオンは、王国軍の戦術を逆手に取った防御陣地を国境線にいくつも構築した。カイルは、志願兵たちを率いて、ゲリラ戦を得意とする特殊部隊を訓練していた。彼らの部隊は、谷の地形を知り尽くしており、少数でも大軍を翻弄する力を持っていた。
しかし、問題は外部だけではなかった。急激に増えた人口は、文化や価値観の違いによる、住民間の小さな摩擦を生んでいた。古くから谷に住む者たちと、新しく移住してきた者たちとの間で、食料の分配や土地の利用を巡って、いさかいが起き始めたのだ。
リーゼリットは、この問題から目をそらさなかった。彼女は、女王の座に安住するのではなく、自ら民衆の中へ入っていった。双方の代表者を集めて評議会を開き、それぞれの言い分に丁寧に耳を傾け、辛抱強く対話を続けた。
「この国では、誰もが等しく国民です。古参も新参もありません。私たちは皆、この『テラ・ノヴァ』を愛し、共に未来を築いていく家族なのです」
彼女の真摯な態度は、頑なだった人々の心を少しずつ溶かしていった。そして、公平なルールに基づいた解決策を示すことで、国民の間に「私たちの女王は、いつでも民の声を聞いてくれる」という、絶対的な信頼を築き上げていった。
そんな多忙な日々の中、リーゼリットの心を支えていたのは、やはりカイルの存在だった。夜、執務室で一人、疲労困憊で机に突っ伏していると、いつの間にかカイルが部屋に入ってきて、温かいハーブティーを淹れてくれる。
「……ありがとう」
「無理しすぎだ。お前は女王である前に、一人の人間だろ」
カイルは、ぶっきらぼうに言いながらも、リーゼリットの肩を優しく揉んだ。その無骨で、けれど温かい手に、リーゼリットは心の底から安らいだ。
「カイルがいるから、私は頑張れるのよ」
素直な言葉に、カイルは顔を赤くしてそっぽを向く。そんな二人のやり取りは、公私を超えた、深い絆の証だった。
幾多の試練を乗り越えるたびに、リーゼリットは女王として成長し、国は少しずつ、しかし着実にその礎を固めていった。国民は一致団結し、「テラ・ノヴァ」は、アルカディア王国という嵐に立ち向かうための、強固な一つの生命体となっていった。来るべき最終決戦の日は、もう間近に迫っていた。
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