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番外編2:古老が願った奇跡
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わし、グランパ・ジョージは、この「緑の谷」で生まれ、この谷と共に老いてきた。わしが子供の頃、この谷は、その名の通り、見渡す限りの緑に覆われた、豊かな土地じゃった。人々は笑い、歌い、大地からの恵みに感謝して生きておった。
じゃが、いつからじゃろうな。空は色を失い、大地は乾き、魔物が我が物顔で闊歩するようになった。多くの者が谷を捨て、残ったのは、わしのような、この土地から離れられない頑固者だけ。わしは、毎日、枯れた大地を見つめながら、ただ無力に、過ぎ去った日を思うだけじゃった。
この谷には、伝説があった。古の昔、大地を愛し、生命を育む力を持った一族がいたと。彼らが残したという遺跡のことも、古文書で読んで知っておった。だが、それはただのおとぎ話。そう思うことで、わしは自分の無力さから目をそむけておったんじゃ。
そんな諦めきったわしの前に、あの子――リーゼリットが現れた。
王都から追放されてきたという銀髪の令嬢。最初は、また一人、この谷の厳しさに絶望する者が増えただけじゃと思うとった。じゃが、あの子の瞳は違った。深い絶望の奥に、消えることのない、強い意志の光が宿っておった。
「農業を教えてください」
泥まみれになるのも構わず、わしに頭を下げたあの日。わしの心の中に、何十年も前に枯れてしもうたと思っていた、希望という名の種が、ぽとりと落とされた気がした。
あの子は、すごかった。貴族の令嬢とは思えぬ根性で、鍬を握り続けた。そして、わしらが生活の知恵としか思っていなかった魔法を、大地を蘇らせるための力として使い始めた。あの子の発想は、凝り固まったわしの頭を、ガツンと殴るような衝撃じゃった。
水脈を見つけ、谷を水で満たした時。わしは、確信した。あの子こそ、伝説の、いや、この谷が待ち望んでいた奇跡そのものじゃと。あの子の周りには、自然と人が集まった。無口で心を閉ざしておったカイルでさえ、あの子の前では、不器用ながらも優しい顔を見せるようになった。エルザは、本当の姉ができたように、毎日嬉しそうじゃった。谷に、笑い声が戻ってきたんじゃ。
わしは、ただ、あの子の背中を見て、わしが持つ知識を全て授けるだけでよかった。あの子は、わしらが諦めていた未来を、その細い腕で、ぐいぐいと手繰り寄せていく。
古代の遺跡を見つけ、古の力をその身に宿したあの子は、もはや人間の域を超えておったかもしれん。じゃが、あの子の心は、いつまでも変わらなかった。常に民を思い、大地を敬い、生命を慈しむ。それこそが、真の「王」の器というものじゃろう。
今、この谷は「テラ・ノヴァ」という立派な国になった。そして、わしは農業顧問などという、大層な役職についておる。リーゼ女王と、彼女を支えるカイル王配。二人が幸せそうに、国を見つめる姿を見るのが、この老いぼれの、何よりの楽しみじゃ。
ああ、長生きはするもんじゃな。諦めなければ、奇跡は本当に起きるんじゃな。わしは、この豊かな大地に深く感謝しながら、今日も若い研修生たちに、女王様から教わった「土との対話」の仕方を、教えてやるんじゃ。
じゃが、いつからじゃろうな。空は色を失い、大地は乾き、魔物が我が物顔で闊歩するようになった。多くの者が谷を捨て、残ったのは、わしのような、この土地から離れられない頑固者だけ。わしは、毎日、枯れた大地を見つめながら、ただ無力に、過ぎ去った日を思うだけじゃった。
この谷には、伝説があった。古の昔、大地を愛し、生命を育む力を持った一族がいたと。彼らが残したという遺跡のことも、古文書で読んで知っておった。だが、それはただのおとぎ話。そう思うことで、わしは自分の無力さから目をそむけておったんじゃ。
そんな諦めきったわしの前に、あの子――リーゼリットが現れた。
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「農業を教えてください」
泥まみれになるのも構わず、わしに頭を下げたあの日。わしの心の中に、何十年も前に枯れてしもうたと思っていた、希望という名の種が、ぽとりと落とされた気がした。
あの子は、すごかった。貴族の令嬢とは思えぬ根性で、鍬を握り続けた。そして、わしらが生活の知恵としか思っていなかった魔法を、大地を蘇らせるための力として使い始めた。あの子の発想は、凝り固まったわしの頭を、ガツンと殴るような衝撃じゃった。
水脈を見つけ、谷を水で満たした時。わしは、確信した。あの子こそ、伝説の、いや、この谷が待ち望んでいた奇跡そのものじゃと。あの子の周りには、自然と人が集まった。無口で心を閉ざしておったカイルでさえ、あの子の前では、不器用ながらも優しい顔を見せるようになった。エルザは、本当の姉ができたように、毎日嬉しそうじゃった。谷に、笑い声が戻ってきたんじゃ。
わしは、ただ、あの子の背中を見て、わしが持つ知識を全て授けるだけでよかった。あの子は、わしらが諦めていた未来を、その細い腕で、ぐいぐいと手繰り寄せていく。
古代の遺跡を見つけ、古の力をその身に宿したあの子は、もはや人間の域を超えておったかもしれん。じゃが、あの子の心は、いつまでも変わらなかった。常に民を思い、大地を敬い、生命を慈しむ。それこそが、真の「王」の器というものじゃろう。
今、この谷は「テラ・ノヴァ」という立派な国になった。そして、わしは農業顧問などという、大層な役職についておる。リーゼ女王と、彼女を支えるカイル王配。二人が幸せそうに、国を見つめる姿を見るのが、この老いぼれの、何よりの楽しみじゃ。
ああ、長生きはするもんじゃな。諦めなければ、奇跡は本当に起きるんじゃな。わしは、この豊かな大地に深く感謝しながら、今日も若い研修生たちに、女王様から教わった「土との対話」の仕方を、教えてやるんじゃ。
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