追放された悪役令嬢は、辺境の谷で魔法農業始めました~気づけば作物が育ちすぎ、国までできてしまったので、今更後悔されても知りません~

黒崎隼人

文字の大きさ
19 / 21

番外編2:古老が願った奇跡

しおりを挟む
 わし、グランパ・ジョージは、この「緑の谷」で生まれ、この谷と共に老いてきた。わしが子供の頃、この谷は、その名の通り、見渡す限りの緑に覆われた、豊かな土地じゃった。人々は笑い、歌い、大地からの恵みに感謝して生きておった。
 じゃが、いつからじゃろうな。空は色を失い、大地は乾き、魔物が我が物顔で闊歩するようになった。多くの者が谷を捨て、残ったのは、わしのような、この土地から離れられない頑固者だけ。わしは、毎日、枯れた大地を見つめながら、ただ無力に、過ぎ去った日を思うだけじゃった。
 この谷には、伝説があった。古の昔、大地を愛し、生命を育む力を持った一族がいたと。彼らが残したという遺跡のことも、古文書で読んで知っておった。だが、それはただのおとぎ話。そう思うことで、わしは自分の無力さから目をそむけておったんじゃ。
 そんな諦めきったわしの前に、あの子――リーゼリットが現れた。
 王都から追放されてきたという銀髪の令嬢。最初は、また一人、この谷の厳しさに絶望する者が増えただけじゃと思うとった。じゃが、あの子の瞳は違った。深い絶望の奥に、消えることのない、強い意志の光が宿っておった。
「農業を教えてください」
 泥まみれになるのも構わず、わしに頭を下げたあの日。わしの心の中に、何十年も前に枯れてしもうたと思っていた、希望という名の種が、ぽとりと落とされた気がした。
 あの子は、すごかった。貴族の令嬢とは思えぬ根性で、鍬を握り続けた。そして、わしらが生活の知恵としか思っていなかった魔法を、大地を蘇らせるための力として使い始めた。あの子の発想は、凝り固まったわしの頭を、ガツンと殴るような衝撃じゃった。
 水脈を見つけ、谷を水で満たした時。わしは、確信した。あの子こそ、伝説の、いや、この谷が待ち望んでいた奇跡そのものじゃと。あの子の周りには、自然と人が集まった。無口で心を閉ざしておったカイルでさえ、あの子の前では、不器用ながらも優しい顔を見せるようになった。エルザは、本当の姉ができたように、毎日嬉しそうじゃった。谷に、笑い声が戻ってきたんじゃ。
 わしは、ただ、あの子の背中を見て、わしが持つ知識を全て授けるだけでよかった。あの子は、わしらが諦めていた未来を、その細い腕で、ぐいぐいと手繰り寄せていく。
 古代の遺跡を見つけ、古の力をその身に宿したあの子は、もはや人間の域を超えておったかもしれん。じゃが、あの子の心は、いつまでも変わらなかった。常に民を思い、大地を敬い、生命を慈しむ。それこそが、真の「王」の器というものじゃろう。
 今、この谷は「テラ・ノヴァ」という立派な国になった。そして、わしは農業顧問などという、大層な役職についておる。リーゼ女王と、彼女を支えるカイル王配。二人が幸せそうに、国を見つめる姿を見るのが、この老いぼれの、何よりの楽しみじゃ。
 ああ、長生きはするもんじゃな。諦めなければ、奇跡は本当に起きるんじゃな。わしは、この豊かな大地に深く感謝しながら、今日も若い研修生たちに、女王様から教わった「土との対話」の仕方を、教えてやるんじゃ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

醜貌の聖女と呼ばれ、婚約破棄されましたが、実は本物の聖女でした

きまま
恋愛
王国の夜会で、第一王子のレオンハルトから婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リリエル・アルヴァリア。 顔を銀の仮面で隠していることから『醜貌の聖女』と嘲られ、不要と切り捨てられた彼女は、そのまま王城を追われることになる。 しかし、その後に待ち受ける国の運命は滅亡へと向かっていた——

騎士団長を追放した平和ボケ王国は、七日で滅びました

藤原遊
ファンタジー
長らく戦のなかった王国で、 騎士団長の父を病で失った令嬢は、その座を引き継いだ。 だが王城に呼び出された彼女に告げられたのは、 騎士団の解体と婚約破棄。 理由はただ一つ―― 「武力を持つ者は危険だから」。 平和ボケした王子は、 非力で可愛い令嬢を侍らせ、 彼女を“国の火種”として国外追放する。 しかし王国が攻められなかった本当の理由は、 騎士団長家が持つ“戦況を覆す力”への恐れだった。 追放された令嬢は、即座に隣国帝国へ迎えられ、 軍人として正当に評価され、安泰な地位を得る。 ――そして一週間後。 守りを捨てた王国は、あっけなく陥落した。 これは、 「守る力」を理解しなかった国の末路と、 追放された騎士団長令嬢のその後の物語。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

【読切短編】婚約破棄された令嬢ですが、帳簿があれば辺境でも無双できます ~追い出した公爵家は、私がいないと破産するらしい~

Lihito
ファンタジー
公爵令嬢アイリスは、身に覚えのない罪で婚約破棄され、辺境へ追放された。 だが彼女には秘密がある。 前世は経理OL。そして今世では、物や土地の「価値」が数字で見える能力を持っていた。 公爵家の帳簿を一手に管理していたのは、実は彼女。 追い出した側は、それを知らない。 「三ヶ月で破産すると思うけど……まあ、私には関係ないわね」 荒れ果てた辺境領。誰も気づかなかった資源。無口な護衛騎士。 アイリスは数字を武器に、この土地を立て直すことを決意する。 これは、一人の令嬢が「価値」を証明する物語。 ——追い出したこと、後悔させてあげる。

トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。  リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……  王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...