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第3話『美味なる噂と、バレバレの来訪者』
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私の農園と麓の村が豊かになっていくにつれ、一つのうわさが風に乗って王都まで届き始めた。
――最果ての忘れられた谷に『辺境の魔女』が住んでいる。
――その魔女はゴーレムを使役し、荒れ地を一夜で緑の楽園に変えた。
――魔女の作る作物は、一度食べたら忘れられないほど美味で、不治の病さえ治す力があるらしい。
うわさは尾ひれがついて広まり、ついに王都の貴族たちの耳にも入った。
最初は誰もがまゆつばものだと笑っていたが、「視察に行かせた役人が、腰を抜かすほど驚いていた」という報告が上がると、状況は一変する。
最初に私の農園へやってきたのは、好奇心旺盛な若い貴族だった。彼は私の農園を見るなり、目を丸くした。
「こ、これが本当にあの忘れられた谷なのか……? 信じられん!」
見渡す限り広がる、整然とした畑。そこには、王都の市場でも見たことがないほど大きく、艶やかな野菜や果物がたわわに実っている。
私は彼に、採れたてのトマトを一つ差し出した。
「どうぞ、召し上がってみて」
貴族は恐る恐るそれを口に運び、次の瞬間、絶叫した。
「う、美味いぃぃぃ! なんだこの甘さと酸味の完璧な調和は!?」
彼は王都へ帰ると、私の作ったトマト――私が『太陽の恵み』と名付けた品種――を、まるで伝説の秘宝のように語り広めた。
それをきっかけに、私の農園には視察という名の見物客がひっきりなしに訪れるようになった。そして、彼らが持ち帰った作物が、王都の食通たちの間で大流行を引き起こしたのだ。
「『リネット農園』の野菜は絶品だ!」
「あのカボチャで作ったスープは、天上の味がする!」
私の名前が、『悪役令嬢』ではなく『天才農業家』として、再び王都を席巻し始めた。なんだか、ちょっと気恥ずかしい。
そんなある日の午後。
私は畑で新しい品種のトウモロコシの出来を確かめていた。その名も『ハニーシャイン』。生で食べられるほど甘いのが特徴だ。
ふと、畑の隅に見慣れない人影があることに気づいた。
やけに背の高い農夫……にしては、服装が綺麗すぎる。それに、麦わら帽子を目深に被り、大きなサングラスで顔を隠している姿は、どう考えても怪しい。
(あ、あれは……)
私はため息をついた。変装しているつもりなのだろうが、隠しきれない銀髪が麦わら帽子の隙間からキラキラとこぼれ落ちている。その佇まい、その立ち姿、間違いない。
私の元夫、クロード・エルンディアその人だ。
「……何をしているんですの、そこの農夫さん?」
私が声をかけると、男はビクッと肩を震わせた。そして、わざとらしいしゃがれ声で答える。
「わ、わしはただの通りすがりの者じゃ……。ここの作物が素晴らしいと聞いて、見学に来ただけじゃて」
「ふぅん……」
バレバレすぎて、逆にどう反応していいか分からない。私は呆れながらも、悪戯心が湧いてきた。
「そうですの。では、記念にこれをどうぞ」
私は、もぎたての『ハニーシャイン』を一本、彼に手渡した。
「こ、これは?」
「トウモロコシですわ。とても甘いので、ぜひ生でかじってみてくださいな」
クロード――もとい、怪しい農夫は、訝しげにトウモロコシを受け取ると、おそるおそる一口かじった。
その瞬間、彼の氷蒼色の瞳が(サングラス越しでもわかるほど)大きく見開かれた。
「なっ……!? あ、甘い……! これが本当にトウモロコシなのか!? まるで果物……いや、それ以上の……」
あまりの衝撃に、つい素の声が出ている。私はくすくすと笑った。
「お口に合いましたか?」
「あ、ああ……うむ……。こ、これほどのものを作るそなたは、一体何者なんじゃ?」
「私はリネット。ただの農業好きですわ」
私がにこやかに名乗ると、彼は「リ、リネット……」と呆然とつぶやいた。
自分の追放した元妻が、こんな場所で、こんなにも生き生きと、そしてとんでもない物を生み出している。その事実に打ちのめされているのが、手に取るようにわかった。
「またいつでもいらしてくださいな。次はもっと美味しいものをご馳走しますわ」
私がそう言って背を向けると、彼はしばらくその場に立ち尽くしていた。
元夫の驚く顔を見るのは、思ったよりもずっと痛快だった。彼がどんな思いでここに来たのかは知らないけれど、今の私には関係ない。
私の興味は、この素晴らしい畑と、次に何を育てるか、ただそれだけだった。
――最果ての忘れられた谷に『辺境の魔女』が住んでいる。
――その魔女はゴーレムを使役し、荒れ地を一夜で緑の楽園に変えた。
――魔女の作る作物は、一度食べたら忘れられないほど美味で、不治の病さえ治す力があるらしい。
うわさは尾ひれがついて広まり、ついに王都の貴族たちの耳にも入った。
最初は誰もがまゆつばものだと笑っていたが、「視察に行かせた役人が、腰を抜かすほど驚いていた」という報告が上がると、状況は一変する。
最初に私の農園へやってきたのは、好奇心旺盛な若い貴族だった。彼は私の農園を見るなり、目を丸くした。
「こ、これが本当にあの忘れられた谷なのか……? 信じられん!」
見渡す限り広がる、整然とした畑。そこには、王都の市場でも見たことがないほど大きく、艶やかな野菜や果物がたわわに実っている。
私は彼に、採れたてのトマトを一つ差し出した。
「どうぞ、召し上がってみて」
貴族は恐る恐るそれを口に運び、次の瞬間、絶叫した。
「う、美味いぃぃぃ! なんだこの甘さと酸味の完璧な調和は!?」
彼は王都へ帰ると、私の作ったトマト――私が『太陽の恵み』と名付けた品種――を、まるで伝説の秘宝のように語り広めた。
それをきっかけに、私の農園には視察という名の見物客がひっきりなしに訪れるようになった。そして、彼らが持ち帰った作物が、王都の食通たちの間で大流行を引き起こしたのだ。
「『リネット農園』の野菜は絶品だ!」
「あのカボチャで作ったスープは、天上の味がする!」
私の名前が、『悪役令嬢』ではなく『天才農業家』として、再び王都を席巻し始めた。なんだか、ちょっと気恥ずかしい。
そんなある日の午後。
私は畑で新しい品種のトウモロコシの出来を確かめていた。その名も『ハニーシャイン』。生で食べられるほど甘いのが特徴だ。
ふと、畑の隅に見慣れない人影があることに気づいた。
やけに背の高い農夫……にしては、服装が綺麗すぎる。それに、麦わら帽子を目深に被り、大きなサングラスで顔を隠している姿は、どう考えても怪しい。
(あ、あれは……)
私はため息をついた。変装しているつもりなのだろうが、隠しきれない銀髪が麦わら帽子の隙間からキラキラとこぼれ落ちている。その佇まい、その立ち姿、間違いない。
私の元夫、クロード・エルンディアその人だ。
「……何をしているんですの、そこの農夫さん?」
私が声をかけると、男はビクッと肩を震わせた。そして、わざとらしいしゃがれ声で答える。
「わ、わしはただの通りすがりの者じゃ……。ここの作物が素晴らしいと聞いて、見学に来ただけじゃて」
「ふぅん……」
バレバレすぎて、逆にどう反応していいか分からない。私は呆れながらも、悪戯心が湧いてきた。
「そうですの。では、記念にこれをどうぞ」
私は、もぎたての『ハニーシャイン』を一本、彼に手渡した。
「こ、これは?」
「トウモロコシですわ。とても甘いので、ぜひ生でかじってみてくださいな」
クロード――もとい、怪しい農夫は、訝しげにトウモロコシを受け取ると、おそるおそる一口かじった。
その瞬間、彼の氷蒼色の瞳が(サングラス越しでもわかるほど)大きく見開かれた。
「なっ……!? あ、甘い……! これが本当にトウモロコシなのか!? まるで果物……いや、それ以上の……」
あまりの衝撃に、つい素の声が出ている。私はくすくすと笑った。
「お口に合いましたか?」
「あ、ああ……うむ……。こ、これほどのものを作るそなたは、一体何者なんじゃ?」
「私はリネット。ただの農業好きですわ」
私がにこやかに名乗ると、彼は「リ、リネット……」と呆然とつぶやいた。
自分の追放した元妻が、こんな場所で、こんなにも生き生きと、そしてとんでもない物を生み出している。その事実に打ちのめされているのが、手に取るようにわかった。
「またいつでもいらしてくださいな。次はもっと美味しいものをご馳走しますわ」
私がそう言って背を向けると、彼はしばらくその場に立ち尽くしていた。
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私の興味は、この素晴らしい畑と、次に何を育てるか、ただそれだけだった。
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