悪役令嬢は廃墟農園で異世界婚活中!~離婚したら最強農業スキルで貴族たちが求婚してきますが、元夫が邪魔で困ってます~

黒崎隼人

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第4話『婚活戦線、異常あり!』

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 王都で『リネット農園』の作物の評判が高まるにつれ、私の元には新たな訪問者が現れるようになった。それは、私自身を目的とした、いわゆる『求婚者』たちだった。

 最初に現れたのは、植物学の権威として名高い、学者貴族のアルフォンス・フォン・ゲルハルト様。線の細い、知的な雰囲気の男性だ。

「リネット嬢! 貴女の生み出した『太陽の恵み』は、まさに奇跡だ! 既存のどのトマトの品種にも当てはまらない! ぜひ、私と結婚して、その品種改良の秘密について夜ごと語り明かそうではないか!」

 ……プロポーズの言葉、それで合ってる?
 若干ずれている気もするが、彼の目が純粋な探求心でキラキラしているのを見ると、悪い気はしなかった。

 次にやってきたのは、一代で巨大な商工会を築き上げた富豪の息子、ダミアン・ロッシ様。彼は開口一番、こう言った。

「リネットさん、単刀直入に言おう。俺とビジネスパートナーにならないか。いや、どうせなら結婚しよう。君の作る作物を俺の販路で売れば、莫大な利益が生まれる。富も名声も、君の望むものは何でも手に入れてやる」

 自信満々の笑みを浮かべる彼は、アルフォンス様とはまた違うタイプの、やり手の男性だった。正直、彼の提案は魅力的だ。販路が広がれば、もっと多くの人に私の野菜を食べてもらえる。

 そんなふうに、私の穏やかな農業ライフは、突如として『婚活』の舞台へと様変わりしてしまった。私自身は再婚なんて全く考えていないのだけど、求婚者たちの熱意はすさまじく、断るのにも一苦労だ。
 そして、この事態を最も面白くないと思っていた人物がいた。
 もちろん、私の元夫、クロード様である。

 アルフォンス様が私の農園の植物研究所設立プランを熱弁していると、どこからともなく石が飛んできて、彼の計画図に穴を開けた。

「あっ、危ない!」

「む? どこから……」

 見ると、遠くの茂みがガサガサと揺れている。どう見ても不審者だ。

 ダミアン様が私との商売の契約書を広げると、突然、突風が吹いて契約書が空高く舞い上がってしまった。

「な、なんだ!?」

「あらあら、大変」

 私は空を見上げる。風を起こす生活魔法(ウィンド)を使ったのは、誰の仕業かしら。まったく、子供じみている。

 そう、求婚者たちが現れるたびに、クロード様はどこからともなく現れては、幼稚な妨害工作を繰り返すのだ。時には農夫に変装し、時には旅の商人に化け、そのどれもがバレバレで、私はため息しか出ない。
 今日も今日とて、アルフォンス様と土壌改良の話をしていると、近くの木の上から、ボソボソと声が聞こえる。

「……リネットは、もっとこう、力強い男が好きなはずだ……あんなひょろひょろの学者など……」

 どうやら鳥の巣観察家(という設定)らしいが、その銀髪は隠せていない。

「アルフォンス様、少し失礼」

 私はすっくと立ち上がると、木に向かって叫んだ。

「そこの鳥の巣観察家さん! お静かにお願いできますか? 鳥が逃げてしまいますわ!」

 私の声に、木上のクロード様がビクッと体をこわばらせるのが見えた。アルフォンス様はきょとんとしている。

「リネット嬢、鳥なんてどこにも……」

「いるんです。とっても珍しい、『ヤキモチドリ』という鳥が」

「ヤキモチドリ……? 聞いたことがない名ですな。ぜひ観察したい!」

 目を輝かせるアルフォンス様に、私は苦笑するしかなかった。

 なぜ、彼はこんなことをするのだろう。私を捨てたのは彼の方なのに。
 離婚した時は、これでやっと自由になれると喜んだはずだった。なのに、彼の存在が日に日に私の心の中で大きくなっていくのを感じる。それは、決して心地よいものではなかった。
(私の平穏な農業ライフを邪魔しないでほしいのに……)
 求婚者たちよりも、何よりも、元夫の存在が一番の悩みの種になるなんて、誰が想像しただろうか。私の婚活戦線は、前途多難だった。
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