5 / 17
第4話『婚活戦線、異常あり!』
しおりを挟む
王都で『リネット農園』の作物の評判が高まるにつれ、私の元には新たな訪問者が現れるようになった。それは、私自身を目的とした、いわゆる『求婚者』たちだった。
最初に現れたのは、植物学の権威として名高い、学者貴族のアルフォンス・フォン・ゲルハルト様。線の細い、知的な雰囲気の男性だ。
「リネット嬢! 貴女の生み出した『太陽の恵み』は、まさに奇跡だ! 既存のどのトマトの品種にも当てはまらない! ぜひ、私と結婚して、その品種改良の秘密について夜ごと語り明かそうではないか!」
……プロポーズの言葉、それで合ってる?
若干ずれている気もするが、彼の目が純粋な探求心でキラキラしているのを見ると、悪い気はしなかった。
次にやってきたのは、一代で巨大な商工会を築き上げた富豪の息子、ダミアン・ロッシ様。彼は開口一番、こう言った。
「リネットさん、単刀直入に言おう。俺とビジネスパートナーにならないか。いや、どうせなら結婚しよう。君の作る作物を俺の販路で売れば、莫大な利益が生まれる。富も名声も、君の望むものは何でも手に入れてやる」
自信満々の笑みを浮かべる彼は、アルフォンス様とはまた違うタイプの、やり手の男性だった。正直、彼の提案は魅力的だ。販路が広がれば、もっと多くの人に私の野菜を食べてもらえる。
そんなふうに、私の穏やかな農業ライフは、突如として『婚活』の舞台へと様変わりしてしまった。私自身は再婚なんて全く考えていないのだけど、求婚者たちの熱意はすさまじく、断るのにも一苦労だ。
そして、この事態を最も面白くないと思っていた人物がいた。
もちろん、私の元夫、クロード様である。
アルフォンス様が私の農園の植物研究所設立プランを熱弁していると、どこからともなく石が飛んできて、彼の計画図に穴を開けた。
「あっ、危ない!」
「む? どこから……」
見ると、遠くの茂みがガサガサと揺れている。どう見ても不審者だ。
ダミアン様が私との商売の契約書を広げると、突然、突風が吹いて契約書が空高く舞い上がってしまった。
「な、なんだ!?」
「あらあら、大変」
私は空を見上げる。風を起こす生活魔法(ウィンド)を使ったのは、誰の仕業かしら。まったく、子供じみている。
そう、求婚者たちが現れるたびに、クロード様はどこからともなく現れては、幼稚な妨害工作を繰り返すのだ。時には農夫に変装し、時には旅の商人に化け、そのどれもがバレバレで、私はため息しか出ない。
今日も今日とて、アルフォンス様と土壌改良の話をしていると、近くの木の上から、ボソボソと声が聞こえる。
「……リネットは、もっとこう、力強い男が好きなはずだ……あんなひょろひょろの学者など……」
どうやら鳥の巣観察家(という設定)らしいが、その銀髪は隠せていない。
「アルフォンス様、少し失礼」
私はすっくと立ち上がると、木に向かって叫んだ。
「そこの鳥の巣観察家さん! お静かにお願いできますか? 鳥が逃げてしまいますわ!」
私の声に、木上のクロード様がビクッと体をこわばらせるのが見えた。アルフォンス様はきょとんとしている。
「リネット嬢、鳥なんてどこにも……」
「いるんです。とっても珍しい、『ヤキモチドリ』という鳥が」
「ヤキモチドリ……? 聞いたことがない名ですな。ぜひ観察したい!」
目を輝かせるアルフォンス様に、私は苦笑するしかなかった。
なぜ、彼はこんなことをするのだろう。私を捨てたのは彼の方なのに。
離婚した時は、これでやっと自由になれると喜んだはずだった。なのに、彼の存在が日に日に私の心の中で大きくなっていくのを感じる。それは、決して心地よいものではなかった。
(私の平穏な農業ライフを邪魔しないでほしいのに……)
求婚者たちよりも、何よりも、元夫の存在が一番の悩みの種になるなんて、誰が想像しただろうか。私の婚活戦線は、前途多難だった。
最初に現れたのは、植物学の権威として名高い、学者貴族のアルフォンス・フォン・ゲルハルト様。線の細い、知的な雰囲気の男性だ。
「リネット嬢! 貴女の生み出した『太陽の恵み』は、まさに奇跡だ! 既存のどのトマトの品種にも当てはまらない! ぜひ、私と結婚して、その品種改良の秘密について夜ごと語り明かそうではないか!」
……プロポーズの言葉、それで合ってる?
若干ずれている気もするが、彼の目が純粋な探求心でキラキラしているのを見ると、悪い気はしなかった。
次にやってきたのは、一代で巨大な商工会を築き上げた富豪の息子、ダミアン・ロッシ様。彼は開口一番、こう言った。
「リネットさん、単刀直入に言おう。俺とビジネスパートナーにならないか。いや、どうせなら結婚しよう。君の作る作物を俺の販路で売れば、莫大な利益が生まれる。富も名声も、君の望むものは何でも手に入れてやる」
自信満々の笑みを浮かべる彼は、アルフォンス様とはまた違うタイプの、やり手の男性だった。正直、彼の提案は魅力的だ。販路が広がれば、もっと多くの人に私の野菜を食べてもらえる。
そんなふうに、私の穏やかな農業ライフは、突如として『婚活』の舞台へと様変わりしてしまった。私自身は再婚なんて全く考えていないのだけど、求婚者たちの熱意はすさまじく、断るのにも一苦労だ。
そして、この事態を最も面白くないと思っていた人物がいた。
もちろん、私の元夫、クロード様である。
アルフォンス様が私の農園の植物研究所設立プランを熱弁していると、どこからともなく石が飛んできて、彼の計画図に穴を開けた。
「あっ、危ない!」
「む? どこから……」
見ると、遠くの茂みがガサガサと揺れている。どう見ても不審者だ。
ダミアン様が私との商売の契約書を広げると、突然、突風が吹いて契約書が空高く舞い上がってしまった。
「な、なんだ!?」
「あらあら、大変」
私は空を見上げる。風を起こす生活魔法(ウィンド)を使ったのは、誰の仕業かしら。まったく、子供じみている。
そう、求婚者たちが現れるたびに、クロード様はどこからともなく現れては、幼稚な妨害工作を繰り返すのだ。時には農夫に変装し、時には旅の商人に化け、そのどれもがバレバレで、私はため息しか出ない。
今日も今日とて、アルフォンス様と土壌改良の話をしていると、近くの木の上から、ボソボソと声が聞こえる。
「……リネットは、もっとこう、力強い男が好きなはずだ……あんなひょろひょろの学者など……」
どうやら鳥の巣観察家(という設定)らしいが、その銀髪は隠せていない。
「アルフォンス様、少し失礼」
私はすっくと立ち上がると、木に向かって叫んだ。
「そこの鳥の巣観察家さん! お静かにお願いできますか? 鳥が逃げてしまいますわ!」
私の声に、木上のクロード様がビクッと体をこわばらせるのが見えた。アルフォンス様はきょとんとしている。
「リネット嬢、鳥なんてどこにも……」
「いるんです。とっても珍しい、『ヤキモチドリ』という鳥が」
「ヤキモチドリ……? 聞いたことがない名ですな。ぜひ観察したい!」
目を輝かせるアルフォンス様に、私は苦笑するしかなかった。
なぜ、彼はこんなことをするのだろう。私を捨てたのは彼の方なのに。
離婚した時は、これでやっと自由になれると喜んだはずだった。なのに、彼の存在が日に日に私の心の中で大きくなっていくのを感じる。それは、決して心地よいものではなかった。
(私の平穏な農業ライフを邪魔しないでほしいのに……)
求婚者たちよりも、何よりも、元夫の存在が一番の悩みの種になるなんて、誰が想像しただろうか。私の婚活戦線は、前途多難だった。
74
あなたにおすすめの小説
落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!
たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。
途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。
鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒!
素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。
裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!
【完結】勇者に折られた魔王のツノは、幼児の庇護者になりました
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
旧タイトル:膨大な魔力と知識ありのチートだけど、転生先がツノはないよね?
異世界転生、胸躍らせる夢の展開のはず。しかし目の前で繰り広げられる勇者vs魔王の激戦に、僕は飽きていた。だって王の頭上で、魔力を供給するだけのツノが僕だ。魔王が強いからツノがあるのではなく、ツノである僕がいるから彼が最強だった。
ずっと動けない。声は誰にも聞こえない。膨大な魔力も知識チートも披露できぬまま、魔王の頭上で朽ちるのか。諦めかけていた。
勇者の聖剣が僕を折るまでは……!
動けなかったツノは、折れたことで新たな仲間と出会う。チート無双はできないが、ツノなりに幸せを掴めるのか!? いつか自力で動ける日を夢見て、僕は彼と手を組んだ。
※基本ほのぼの、時々残酷表現あり(予告なし)
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2021/11/17 完結
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~
Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。
三男。継承権は遠い。期待もされない。
——最高じゃないか。
「今度こそ、のんびり生きよう」
兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。
静かに暮らすつもりだった。
だが、彼には「構造把握」という能力があった。
物事の問題点が、図解のように見える力。
井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。
作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。
気づけば——領地が勝手に発展していた。
「俺ののんびりライフ、どこ行った……」
これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。
追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす
yukataka
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
追放先の辺境で前世の農業知識を思い出した悪役令嬢、奇跡の果実で大逆転。いつの間にか世界経済の中心になっていました。
緋村ルナ
ファンタジー
「お前のような女は王妃にふさわしくない!」――才色兼備でありながら“冷酷な野心家”のレッテルを貼られ、無能な王太子から婚約破棄されたアメリア。国外追放の末にたどり着いたのは、痩せた土地が広がる辺境の村だった。しかし、そこで彼女が見つけた一つの奇妙な種が、運命を、そして世界を根底から覆す。
前世である農業研究員の知識を武器に、新種の果物「ヴェリーナ」を誕生させたアメリア。それは甘美な味だけでなく、世界経済を揺るがすほどの価値を秘めていた。
これは、一人の追放された令嬢が、たった一つの果実で自らの運命を切り開き、かつて自分を捨てた者たちに痛快なリベンジを果たし、やがて世界の覇権を握るまでの物語。「食」と「経済」で世界を変える、壮大な逆転ファンタジー、開幕!
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる