悪役令嬢は廃墟農園で異世界婚活中!~離婚したら最強農業スキルで貴族たちが求婚してきますが、元夫が邪魔で困ってます~

黒崎隼人

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第6話『救国の女神と、空回る元夫』

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 クロード様に復縁を断ってから数ヶ月。私たちの関係は気まずいままだったが、私の農業ライフはますます順調だった。村は完全に活気を取り戻し、私の農園はもはや『忘れられた谷』ではなく『恵みの谷』と呼ばれるようになっていた。

 そんな折、エルンディア皇国を未曾有の危機が襲った。

「王国全土で、大規模な干ばつと病害の発生!?」

 王都からの知らせを聞き、私は息を呑んだ。
 数ヶ月も雨が降らず、さらに『赤枯れ病』という未知の病気が蔓延し、国中の畑が壊滅的な被害を受けているという。備蓄倉庫の食糧も、日に日に減っていく。このままでは、大規模な飢饉が起こるのは目に見えていた。

 王宮がパニックに陥る中、一人の大臣が口を開いた。

「ま、待てよ……一人だけ、作物を育てられる者がいるではないか!」

「まさか……『辺境の魔女』こと、リネット様か!」

 こうして、国王陛下直々の勅使が、私の元へ派遣されることになった。馬車でやってきたのは、宰相閣下その人だった。

「リネット嬢……いや、リネット殿。どうか、この国を救ってくれんか」

 深々と頭を下げる宰相に、私は少し考えた。宮廷の貴族たちに良い思い出はない。でも、飢えに苦しむのは罪のない民衆だ。農業家として、それを見過ごすことはできない。

「……わかりました。ご協力いたします」

 私はすぐさま行動を開始した。
 まず、私の農園で開発した、乾燥と病害に強い小麦『鋼の穂』の種を、国中に配布するよう手配した。
 次に、各地の農家に対し、『魔法農業』の講習会を開いた。土の魔力を活性化させて保水力を高める方法、微弱な光魔法で病原菌を殺菌する方法など、私の持つ知識と技術を惜しみなく伝授した。
 最初は半信半疑だった人々も、私の畑で元気に育つ作物を見て、藁にもすがる思いで私の教えを実践した。
 そして、数週間後。
 奇跡が起きた。枯れ果てていたはずの畑に、緑の芽が吹き、やがて黄金色の『鋼の穂』が風にそよぎ始めたのだ。

「作物が育ったぞ!」

「女神様だ! リネット様は我らの女神様だ!」

 国中が、歓喜の声に包まれた。エルンディア皇国は、最悪の食糧危機から救われたのだ。

 この功績を讃えるため、私は王城に招かれた。かつて追放されたこの場所に、今度は救国の英雄として戻ってきた。皮肉なものだ。
 国王陛下自らが、私の胸に最高位の勲章を授与してくれた。

「リネット殿、君はまこと、この国の宝だ。心から、感謝する」

 貴族たちが、称賛と畏敬の眼差しで私を見つめている。かつて私を『悪女』と蔑んだ者たちも、今は気まずそうに顔を伏せていた。気分がいいと言えば嘘になるが、悪い気はしなかった。

 授与式が終わった後、クロード様が私の元へやってきた。その顔には、安堵と、そして期待がにじんでいた。

「リネット。君は、すごいな。本当に国を救ってしまった」

「民のためですわ」

「……これで、君を危険に晒す者はいなくなった。君の功績を疑う者も、君を悪く言う者も、もういない。だから……これで、復縁できるだろうか?」

 彼は今度こそと、期待に満ちた目で私を見つめた。
 私は、授与されたばかりの勲章を指でなぞりながら、静かに、そしてはっきりと答えた。

「まだです」

「なっ……!?」

 彼の顔から、サッと血の気が引く。

「確かに、国は救われました。でも、それはそれ。これはこれ、ですわ。私の気持ちは変わりません」

 私は彼に背を向け、きらびやかな王城を後にした。彼の絶望したような顔が脳裏に焼き付いていたけれど、私は振り返らなかった。
 彼に頼らなくても、私は自分の力で、自分の居場所と名誉を手に入れたのだ。彼が作った『安全な場所』に戻る必要なんて、どこにもない。
 私の心は、まだ彼の元へ戻ることを許してはいなかった。
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