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第7話『国境を越えた求婚と、暴走する元夫』
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国を救った私の名声は、エルンディア皇国だけに留まらなかった。うわさは国境を越え、隣国ヴァイス王国の王子、フェルディナンド様の耳にまで届いていた。
美食家として名高い彼は、私の作る『奇跡の作物』にいたく興味を抱いたらしい。そしてある日、豪華な使節団を引き連れて、私の『恵みの谷』までやって来た。
「はじめまして、救国の女神リネット殿! 私がフェルディナンド・ジーク・ヴァイスだ!」
馬から颯爽と降り立った彼は、燃えるような赤い髪に、快活な笑顔がよく似合う、情熱的な青年だった。
「貴女のうわさはかねがね! ぜひ、その『太陽の恵み』とやらを、この僕にも味わわせてほしいな!」
あまりの気安さに少し面食らったが、悪い人ではなさそうだ。私は彼を農園に案内し、自慢の作物を振る舞った。
「ンンンッ、デリシャス! なんだこれは! 野菜が、野菜が口の中で踊っているようだ! 素晴らしい!」
フェルディナンド王子は、目を輝かせて私の野菜を平らげると、突然、私の手を取ってひざまずいた。
「リネット殿! 僕は決めた! どうか、僕と結婚して、ヴァイス王国の妃になってほしい!」
「は、はぁ!?」
あまりに唐突なプロポーズに、私は素っ頓狂な声を上げてしまった。アルフォンス様やダミアン様も大概だったが、この王子はさらにその上を行くようだ。
「我が国も、実は慢性的な食糧不足に悩まされているんだ。君のその素晴らしい農業技術があれば、我が国の民も救われる! そして何より、こんなに美味しいものを毎日食べられるなんて、最高じゃないか! ね、いいだろう?」
キラキラした笑顔で、とんでもないことを言っている。彼の動機は、国のためのようで、その実、八割方は自分の食い意地からきている気がする。
私がどう断ったものかと思案していると、その場に緊張が走った。
「――それは、聞き捨てならないな」
地を這うような低い声。振り返ると、そこには氷の仮面を被ったクロード様が、いつの間にか立っていた。護衛の騎士たちを数名引き連れている。
「これはこれは、エルンディア皇国の皇太子殿下。一体どのようなご用件で?」
フェルディナンド王子は、臆することなく笑顔で返した。
「我が国の至宝を、軽々しく他国に渡すわけにはいかない」
「ほう、至宝? しかし、貴殿はこの方を一度捨てたのでは? ならば、今は誰のものでもない。僕が求婚するのも自由なはずだが?」
王子のにこやかな挑発に、クロード様の眉がピクリと動く。ああ、嫌な予感しかしない。
「リネットは、いずれ私の元へ戻る。彼女の居場所は、ここエルンディアだ」
「それはどうかな? リネット殿の気持ち次第だろう。ねえ、リネット殿?」
二人の間で、火花が散っているのが見える。そして、話の矛先が私に向いた。最悪だ。
「あ、あの、私はまだ結婚とかは……」
私がしどろもどろになっていると、クロード様はとんでもないことを言い放った。
「――ただちに、ヴァイス王国との国境を封鎖せよ! 許可なく我が国の『至宝』に近づく者は、理由の如何を問わず、拘束する!」
「「「はぁぁぁ!?」」」
私とフェルディナンド王子の声が、見事にハモった。
「正気ですか、クロード殿下!?」
「殿下、お待ちください! それは国際問題に……!」
宰相や護衛たちが慌てて止めに入ったが、クロード様の目は本気だった。嫉妬に目が眩んで、国のトップとは思えない暴挙に出ようとしている。
結局、このクロード様のとんでもない宣言は、宰相閣下が泣きながら土下座することでなんとか撤回された。
しかし、隣国の王子に国を挙げて喧嘩を売ろうとした皇太子の話はあっという間に広まり、クロード様は『ヤキモチ焼きの暴走皇太子』という、不名誉なあだ名を頂戴することになった。
私は、深いため息をついた。
もう、私の平穏な農業ライフはどこにもない。元夫のせいで、私の婚活(する気はないけど)は、ついに国際問題にまで発展してしまったのだった。
美食家として名高い彼は、私の作る『奇跡の作物』にいたく興味を抱いたらしい。そしてある日、豪華な使節団を引き連れて、私の『恵みの谷』までやって来た。
「はじめまして、救国の女神リネット殿! 私がフェルディナンド・ジーク・ヴァイスだ!」
馬から颯爽と降り立った彼は、燃えるような赤い髪に、快活な笑顔がよく似合う、情熱的な青年だった。
「貴女のうわさはかねがね! ぜひ、その『太陽の恵み』とやらを、この僕にも味わわせてほしいな!」
あまりの気安さに少し面食らったが、悪い人ではなさそうだ。私は彼を農園に案内し、自慢の作物を振る舞った。
「ンンンッ、デリシャス! なんだこれは! 野菜が、野菜が口の中で踊っているようだ! 素晴らしい!」
フェルディナンド王子は、目を輝かせて私の野菜を平らげると、突然、私の手を取ってひざまずいた。
「リネット殿! 僕は決めた! どうか、僕と結婚して、ヴァイス王国の妃になってほしい!」
「は、はぁ!?」
あまりに唐突なプロポーズに、私は素っ頓狂な声を上げてしまった。アルフォンス様やダミアン様も大概だったが、この王子はさらにその上を行くようだ。
「我が国も、実は慢性的な食糧不足に悩まされているんだ。君のその素晴らしい農業技術があれば、我が国の民も救われる! そして何より、こんなに美味しいものを毎日食べられるなんて、最高じゃないか! ね、いいだろう?」
キラキラした笑顔で、とんでもないことを言っている。彼の動機は、国のためのようで、その実、八割方は自分の食い意地からきている気がする。
私がどう断ったものかと思案していると、その場に緊張が走った。
「――それは、聞き捨てならないな」
地を這うような低い声。振り返ると、そこには氷の仮面を被ったクロード様が、いつの間にか立っていた。護衛の騎士たちを数名引き連れている。
「これはこれは、エルンディア皇国の皇太子殿下。一体どのようなご用件で?」
フェルディナンド王子は、臆することなく笑顔で返した。
「我が国の至宝を、軽々しく他国に渡すわけにはいかない」
「ほう、至宝? しかし、貴殿はこの方を一度捨てたのでは? ならば、今は誰のものでもない。僕が求婚するのも自由なはずだが?」
王子のにこやかな挑発に、クロード様の眉がピクリと動く。ああ、嫌な予感しかしない。
「リネットは、いずれ私の元へ戻る。彼女の居場所は、ここエルンディアだ」
「それはどうかな? リネット殿の気持ち次第だろう。ねえ、リネット殿?」
二人の間で、火花が散っているのが見える。そして、話の矛先が私に向いた。最悪だ。
「あ、あの、私はまだ結婚とかは……」
私がしどろもどろになっていると、クロード様はとんでもないことを言い放った。
「――ただちに、ヴァイス王国との国境を封鎖せよ! 許可なく我が国の『至宝』に近づく者は、理由の如何を問わず、拘束する!」
「「「はぁぁぁ!?」」」
私とフェルディナンド王子の声が、見事にハモった。
「正気ですか、クロード殿下!?」
「殿下、お待ちください! それは国際問題に……!」
宰相や護衛たちが慌てて止めに入ったが、クロード様の目は本気だった。嫉妬に目が眩んで、国のトップとは思えない暴挙に出ようとしている。
結局、このクロード様のとんでもない宣言は、宰相閣下が泣きながら土下座することでなんとか撤回された。
しかし、隣国の王子に国を挙げて喧嘩を売ろうとした皇太子の話はあっという間に広まり、クロード様は『ヤキモチ焼きの暴走皇太子』という、不名誉なあだ名を頂戴することになった。
私は、深いため息をついた。
もう、私の平穏な農業ライフはどこにもない。元夫のせいで、私の婚活(する気はないけど)は、ついに国際問題にまで発展してしまったのだった。
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