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番外編3『悪役令嬢と呼ばれて』
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「リネット様は、本当に『悪役令嬢』だったのですか?」
農業大臣になって数年経ったある日、側近になった若い女性官僚に、ふとそう尋ねられた。私はお茶を飲みながら、苦笑した。
「そう見えたのでしょうね、当時は」
私が『悪役令嬢』を演じ始めたのは、転生してすぐのことだった。窮屈な公爵令嬢の生活。私の唯一の楽しみは、侍女にこっそり頼んで、庭の隅に小さな畑を作ってもらうことだった。
しかし、それが父であるシュバルツ公爵に見つかってしまった。
「貴族の娘が、土いじりなどとはしたない! 今すぐやめなさい!」
父は、伝統と家名を重んじる、典型的な貴族だった。私のささやかな楽園は、無残にも踏み潰された。
その時、悟ったのだ。この世界で、私が私らしく、農業をして生きるためには、この地位を捨てるしかない、と。
幸い、私には『乙女ゲームの悪役令嬢』という役柄があった。婚約者であるクロード皇太子に嫌われ、追放されるというシナリオ。その追放先が、最高の土地であることも知っていた。
――これしかない。
だから、私は演じた。
わざと派手なドレスを好み、贅沢を言う。興味もないのに夜会に参加しては、わざと退屈そうな顔をしてみせる。
清純派の男爵令嬢に、わざと聞こえるように嫌味を言う。もちろん、手は出さない。あくまで『性格の悪い女』を演出するだけだ。
それは、孤独な戦いだった。誰も、私の本当の気持ちをわかってくれない。
唯一、クロード様だけは、時々、不思議そうな顔で私を見ていた。
「君は、本当にそう思っているのか?」
私が男爵令嬢のドレスを「なんてセンスのない色なのかしら」と貶した時、彼は静かにそう尋ねた。
「当たり前ですわ。私の美意識とは相容れませんもの」
本当は、その令嬢が好きな人を思って選んだ、優しい色のドレスだと知っていたけれど。
「……そうか」
彼は、それ以上何も言わなかった。けれど、その氷蒼色の瞳の奥に、ほんの少しだけ、寂しさのようなものがよぎったのを、私は見逃さなかった。
もしかしたら、彼は気づいていたのかもしれない。私が、何かを演じていることに。
だからこそ、彼は私を『守る』ために、偽装離婚という手段を選んだのだろうか。私に本当の自由を与えるために、彼もまた、孤独な戦いをしていたのだろうか。
今となっては、確かめようもない。
ただ、一つだけ言えることがある。
悪役令嬢を演じた過去があったからこそ、今の私がいる。そして、あの頃、孤独に耐えた私たちがいたからこそ、今、誰よりも強い絆で結ばれたパートナーとして、隣にいることができるのだ。
「悪役令嬢だったかって? ええ、そうよ。でも、おかげで最高の人生を手に入れたわ」
私はそう言って、窓の外に広がる、私たちの作った豊かな国を眺めた。もう、演じる必要なんてない。私の幸せは、本物なのだから。
農業大臣になって数年経ったある日、側近になった若い女性官僚に、ふとそう尋ねられた。私はお茶を飲みながら、苦笑した。
「そう見えたのでしょうね、当時は」
私が『悪役令嬢』を演じ始めたのは、転生してすぐのことだった。窮屈な公爵令嬢の生活。私の唯一の楽しみは、侍女にこっそり頼んで、庭の隅に小さな畑を作ってもらうことだった。
しかし、それが父であるシュバルツ公爵に見つかってしまった。
「貴族の娘が、土いじりなどとはしたない! 今すぐやめなさい!」
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その時、悟ったのだ。この世界で、私が私らしく、農業をして生きるためには、この地位を捨てるしかない、と。
幸い、私には『乙女ゲームの悪役令嬢』という役柄があった。婚約者であるクロード皇太子に嫌われ、追放されるというシナリオ。その追放先が、最高の土地であることも知っていた。
――これしかない。
だから、私は演じた。
わざと派手なドレスを好み、贅沢を言う。興味もないのに夜会に参加しては、わざと退屈そうな顔をしてみせる。
清純派の男爵令嬢に、わざと聞こえるように嫌味を言う。もちろん、手は出さない。あくまで『性格の悪い女』を演出するだけだ。
それは、孤独な戦いだった。誰も、私の本当の気持ちをわかってくれない。
唯一、クロード様だけは、時々、不思議そうな顔で私を見ていた。
「君は、本当にそう思っているのか?」
私が男爵令嬢のドレスを「なんてセンスのない色なのかしら」と貶した時、彼は静かにそう尋ねた。
「当たり前ですわ。私の美意識とは相容れませんもの」
本当は、その令嬢が好きな人を思って選んだ、優しい色のドレスだと知っていたけれど。
「……そうか」
彼は、それ以上何も言わなかった。けれど、その氷蒼色の瞳の奥に、ほんの少しだけ、寂しさのようなものがよぎったのを、私は見逃さなかった。
もしかしたら、彼は気づいていたのかもしれない。私が、何かを演じていることに。
だからこそ、彼は私を『守る』ために、偽装離婚という手段を選んだのだろうか。私に本当の自由を与えるために、彼もまた、孤独な戦いをしていたのだろうか。
今となっては、確かめようもない。
ただ、一つだけ言えることがある。
悪役令嬢を演じた過去があったからこそ、今の私がいる。そして、あの頃、孤独に耐えた私たちがいたからこそ、今、誰よりも強い絆で結ばれたパートナーとして、隣にいることができるのだ。
「悪役令嬢だったかって? ええ、そうよ。でも、おかげで最高の人生を手に入れたわ」
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