43 / 327
全年齢対応・表現マイルドバージョン
第42話 片翼の焦がれ ~迷いと選択の双翼~
しおりを挟む(魂の彼女の視点)
彼女は見ていた。
自分の遺体が銀鶴と融合し、『彼』の手によって『完璧』に仕立て上げられていく様を。
その姿は美しかった。
羽根は乱れず、風は迷わず、命令に忠実。
誰かを守るために、誰かを切り捨てることを躊躇わない。
その笑みは冷たく、でも確信に満ちていた。
美しく、そして冷たい風が吹いている。
「これが・・・わたし?」
魂の彼女は、風の中で震えた。
その姿は、かつて夢見た『強さ』だった。
誰にも怯えず、誰にも縋らず、自分の選択に迷わない存在。
でも、胸の奥が痛んだ。
それは、仲間の声を聞いた時の痛み。
助けたいと思った瞬間の痛み。
それを切り捨てた『完成形』が、目の前に立っていた。
「わたしは・・・こんなふうになりたかったの?」
風は答えない。
銀鶴は、ただ時を待っている。
その羽根は、もう彼女の心を映していない。
魂の彼女は、風に触れようとする。
でも、風は彼女を通り抜けるだけだった。
まるで、もう彼女を必要としていないかのように。
「わたしは、わたしを失った」
その言葉は、風に溶けて消えた。
そして、完璧な彼女は、振り返ることなく歩き出した。
羽根の音が、彼女の痛みをなぞるように響いた。
それは、魂の削られる音。
彼女の魂は、銀鶴の影に漂っていた。
誰にも見えず、誰にも触れられず、ただ『完成された自分』の背を見つめていた。
完ぺきな彼女は、迷わない。
風は鋭く、羽根は整い、命令に忠実。
誰かを守るために、誰かを切り捨てることを躊躇わない。
魂は、そこに混ざれなかった。
銀鶴は、彼女の『願い』だけを受け入れ、『迷い』と『痛み』は、切り捨てられた。
だから、魂は不完全なまま残った。
風に触れるたび、羽根に近づくたび、その存在が拒まれる。
「わたしは、わたしの中に入れない」
その言葉は、風に溶けず消えた。
空気が、彼女の存在を避けるように流れていった。
痛みは、静かだった。
誰かに責められるわけでもなく、誰かに慰められるわけでもなく、ただ、存在しているだけで、魂が削れていく。
記憶が薄れる。
仲間の声が遠ざかる。
風の詠唱が、意味を持たなくなる。
それでも、魂は消えない。
なぜなら、『完成された彼女』が存在する限り、その影として、痛みを抱え続ける役割があるから。
「わたしは、わたしの罪の形」
風が吹く。
羽根が舞う。
魂は、また少し、削れた。
完璧な彼女は、風を纏い、羽根を揺らし、誰にも迷わず進む。
その背後に、半歩だけ遅れてついていく影がある。
それは、かつての彼女の魂。
助けたいと願いながら、踏みつけることを選べなかった『弱さ』の成れの果て。
その姿は、ボロボロだった。
制服は裂け、髪は風に引きちぎられ、顔はもう、誰かを見つめる力を持っていない。
風が吹くたび、羽根の欠片が、彼女の痛みをなぞるように通り過ぎた。
それでも、影はついてくる。
完ぺきな彼女が振り返ることはない。
でも、影はそれを望んでいない。
ただ、ついてくる。
それが、自分に残された唯一の意味だから。
この妖怪は、言葉を持たない。
ただ、風の音に合わせて呻く。
それは、かつての詠唱の残響。
「まもりたい」
「いきたい」
でも、その声は誰にも届かない。
完璧な彼女は、前だけを見ている。
その背後に、腐り落ちた良心が、風に削られながら付き従う。
前を歩くのは、完璧な彼女。
風を操り、羽根を揃え、なにも迷わず進む。
その背後に、半歩遅れてついてくるのは、不完全な亡霊。
裂けた制服、濁った瞳、削られ続ける存在。
二つは、同じ魂から生まれた。
一方は『選択』を受け入れ、一方は『迷い』に囚われた。
互いに言葉は交わさない。
でも、風が吹くたび、羽根が揺れるたび、二つの存在は、同じ詠唱をなぞる。
「わたしは、わたしを捨てた」
「わたしは、わたしを守った」
その矛盾が、風を強くする。
完璧な彼女の魔法は、不完全な亡霊の痛みを燃料にしている。
亡霊は、完璧な彼女の影として存在することで、風を支えている。
二つの存在は、比翼連理。
片翼ずつを持ち、同じ風に乗る。
どちらかが欠ければ、風は崩れる。
でも、どちらかが前に出れば、風は濁る。
だから、二つは並ばない。
常に半歩の距離を保ち、互いに触れず、互いに支え合う。
それは、愛ではない。
赦しでもない。
ただ、『生き損ねた魂』が、風の中で形を保つための、もっとも近くて遠い関係。
◇
「完成だ」
笑みを含む声が聞こえた。
いつかの対比。
構図は変わらない。
ただ、立場が逆転している。
『彼』が見下ろし、『私』は見上げる
強く存在する『彼』、消えそうな『私』。
でも?
『彼』の手が、髪に触れた。
いつかのように。
「まだ、触ってくれるの?」
細く小さな呟き。
ほんの些細な風にでも掻き消されてしまう。
そんな声。
なのに『彼』は拾い上げた。
気付いてくれた。
「君は、オレのものだ」
所有の宣言。
『私』は『私の居場所』を得た。
もう、伸ばす手を躊躇わなくていい。
なぜなら、この手もまた『彼』のものなのだから。
きっと一番の望み。
誰かに必要とされたい自分になりたい。
それが叶ったのだと悟る。
「ああ、私は『こう』なりたかったのだ」
強く美しい『自分』の影として、安全に守られる。
拒絶でも無視でもなく、必要としてくれる人の側に立つ。
後ろめたくはある。
だから顔は上げられない。
でも、そうだ。
目は開こう。
過去を未来に紡ぎ、彼と生きる未来を編む。
風の翼が、きっと役に立つ。
私は『彼』の役に立つ風となる。
風に削られながら、彼の背に手を伸ばす。
それは、赦しではなく、役に立ちたいという願いだった。
私たちの名前は『比翼ふげん』、そして『比翼みれん』。
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる