『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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第78話 呼び声 ~本音の紳士たち~

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 中央部にいた者たちで、未だ無事でいられたものは男が二人。
 
 「チッ! どうせばらけるなら、女子と二人きりがよかったぜ」
 「悪かったな、野郎で。つか、お互い様だろ!」
 「野郎相手じゃ、その気にならねぇや」
 「なられても困るが、まぁ女子ほど気合が入らんのは同感だ」
 守り甲斐がない。
 守りたいと思えない。
 女性が見ていてくれればこそ、男は紳士になれるのだ。

 それなのに・・・。
 仲は悪くない二人だったが、今回ばかりは恨めし気に顔を見合わせていた。

 「こんな辛気臭いとこさっさと出ようぜ」
 「女子もいないしな。てか、なんで誰もいねぇの? そろそろ誰かと出会えていていいはずなんだがな」
 「・・・なんか、静かすぎねぇか?」
 彼らはかなり歩き回ったあとだった。
 誰か一人くらい見つかりそうなものなのに誰も見つかっていない。

 「——が——」
 風が音を運んできた。

 「誰か呼んでる?」
 「こっちだ、急げ」
 二人が呼び声を目当てに走り出す。

 「——いねがー」
 声がだんだんとはっきりしてくる。

 「——こは、いねが—」
 言葉もハッキリ聞き取れるようになってきた。

 「女の声だな?」
 「ああ。でもなんで、こんななまってんだ?」
 『いねが―』、とは「いないか?」という意味だ。
 「無事な者はいないか、誰か近くにいないか」と、そう呼び掛けている。

 「あの角の先だ!」
 「おい。抜け駆けするな!」
 誰かはわからないが女子がいる。
 いいところを見せようというのだろう。
 二人は競うように加速して、角を曲がった。

 彼らが、その先で見たものは・・・。
 星と、永遠の闇。
 自らの沈黙、だった。
 彼らはもう、なにも見ることはなかったのだ。
 
 壁には二人の輪郭をなぞるようなシミが残っていた。
 床に積み重なった制服の上を、人影がまたいでいく。

 「わるいこは、いねがー」
 二人の上を、呼び声が通り過ぎて行った。

 彼らが求めた『女』は、そこにいた。
 ただし、それは——鬼だった。
 
 背中に棘付きの金棒(かなぼう)を背負って立つ。
 赤銅色の肌の鬼。
 

 残り、12人。

        ◆

 ダンジョンを『鬼』が歩いていた。
 彼女が配置され、現れた瞬間、空気が変わる。

 赤銅色の肌が、夕焼けのように燃えていた。
 筋肉の輪郭は、まるで戦場に刻まれた意志そのもの。
 短く刈り込まれた金髪が風に揺れ、黒く湾曲した角が空を裂くように伸びていた。

 その姿は、まるで『怒り』を纏った彫像。
 虎柄の衣装は、野性と誇りの象徴。
 肩に担いだ棘付きの金棒が、彼女の『裁き』を予告していた。

 花が舞っていた。
 淡い桃色の花弁が、彼女の周囲を漂っている。
 それは、かつての『優しさ』の記憶か。
 それとも、今から散る『命』の前触れか。

 彼女は、ただ立っていた。
 風も、音も、彼女の前では息を潜めた。

 建物の影を背に、緑がかった空を背負いながら。
 その瞳には、迷いも、憐れみもなかった。
 あるのは、ただ一つ——『終わらせる者』としての覚悟。

 童子丸らうら。
 かつて鈴谷涼香だった少女は、今や『鬼』として、戦場に立っている。
 その姿は、恐ろしくも美しく、そして——哀しかった。

     ◆童子丸らうら(鈴谷涼香)視点◆

 足音が、重い。
 でも、それは疲れじゃない。
 迷いでもない。

 ただ、踏みしめているだけだ。
『人間だった頃の道』を。

 焼け焦げた記憶が、まだ足元に残っている。
 仲間の声。
 魔法の光。
 叫び。
 そして、沈黙。

 あたしは、あの場で終わったはずだった。
 でも、終われなかった。
 終わらせてもらえなかった。

「・・・なら、やるしかないじゃん」

 誰かに言い訳するつもりはない。
 誰かに赦してもらうつもりもない。
 ただ、あたしは『鬼』になった。
 それが、今のあたし。

 金棒が背中で揺れる。
 その重さが、あたしの『罪』の重さだ。
 でも、背負える。
 もう、背負う覚悟はできてる。

「誰かが、やらなきゃいけないなら——あたしがやる」

 それだけだった。
 誰かを守るためじゃない。
 誰かに褒められるためでもない。

 ただ、『終わらせるため』に。
 あたし自身の、罪と罰と、命の続きを。
 この手で、終わらせるために。

「わるいこは、いねがー」

 その声は、もう『涼香』のものじゃない。
 でも、あたしの『意志』は、まだそこにある。

 だから、行く。
 誰も守れなかったあの日の続きを、今度こそ、あたしの手で終わらせるために。

「わるいこは、いねがー」

    ◇

 その声は、もう『涼香』のものじゃなかった。
 でも、どこか懐かしい響きが喉の奥に残っていた。
 それは、怒りでも、悲しみでもない。
 ただ、命令でもない。

『問いかけ』だった。

 ——誰か、まだ生きてるか?
 ——誰か、まだ抗ってるか?
 ——誰か、まだ、終わらずにいるか?
 誰か、あたしを見てくれる者は——いないか?

 足音が近づく。
 軽い
 浮ついている。
 その音だけで、わかる。
 この者たちは、まだ『死』を知らない。

 角を曲がる気配。
 らうらは、金棒を背に、ただ立っていた。
 何も言わない。
 何も構えない。
 ただ、そこに『在る』。

 そして—— 終わった。

 光も、音も、叫びもなかった。
 ただ、沈黙だけが残った。

 制服が静かに横たわっていた。
 その中に、かつて自分が守ろうとした誰かの色が混ざっていた気がした。
 でも、らうらは振り返らなかった。

「・・これで、いい」

 そう思った。
 何も感じなかったわけじゃない。
 でも、感じる必要がなかった。

 彼らは、戦場を知らなかった。
 誰かを守る覚悟も、誰かを背負う痛みも知らずに、 ただ『女』を求めて走った。

 それが、命を落とす理由になるのは、理不尽かもしれない。
 でも、ここは『ダンジョン』だ。
 理不尽が、理そのものだ。

「・・・あたしは、鬼だ」

 その言葉が、胸の奥で静かに響く。
 誰かを守るために、誰かを殺す。
 それが、あたしの『罰』であり、『役目』であり、『存在理由』。

「わるいこは、いねがー」

 もう一度、声を放つ。
 それは、警告でも、誘いでもない。
 ただの『確認』。

 ——まだ、あたしが裁くべき『命』は残っているか?
 誰か、もういい、充分だと言ってくれる者は、いないか?

 ——まだ、罪を知らない者はいるか?
 誰か、罪を乗り越える方法を教えてくれる者は、いないか?

 ——まだ、終わっていない者はいるか?
 誰か、あたしを止めてくれる者は、いないか?

 ほんの少しでも、あたしの手を引いてくれるなら——それだけで、救われる気がした。

 金棒が、背中で重く揺れた。
 それは、罪の重さであり、命の重さであり、あたしが背負った誓いの重さだった。
 それが、あたしの『答え』になる。
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