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全年齢対応・表現マイルドバージョン
第80話 妖怪制作 七人みさき
しおりを挟む役目を持って出ていた『霞』。
一仕事終えて帰ってきた彼女に、カルマは『おかえり』と言った。
カルマの側にいた妖怪たちも、ちょっと戸惑ったように『おかえり』と口にする。
「・・・ただいま」
『かすみ』が答えてくれて、風が柔らかくなった。
たったそれだけのこと。
それでも、きっと大きなことだった。
少なくとも、妖怪たちの『カルマ』を見る目は優しさの度合いを深めている。
「がんばっているな」
残戦力――ラストチームの快進撃を、カルマは見ていた。
「決戦は69階層の最奥としようか」
「わざわざ待つのには、何か理由があるの?」
『河童』仁科悠が問いかける。
沢辺みどりとなってから、少しだけ、心の距離が近づいていた。
「アイテムを消費させたい。魔力もね」
中級モンスターとの戦闘で、徐々にアイテムが減っていく。
アイテム整理をさせられていたことから、彼らの保持アイテムの種類や数はカルマが把握していた。
魔力の減り方や残量なら、カルマは本人たち以上に熟知している。
「我が校の最高戦力だ。腐っているとしても、侮るわけにはいかない」
最大限弱くしてから、終わりを強制する。
カルマの意志は固く冷徹で、苛烈。容赦がなかった。
冷静に、できることを全て実行したうえで、確実に仕留める。
その気迫に妖怪たちは息を呑み、押し黙った。
カルマがため込んでいた怒り、憎しみ、そして、哀しみ、その深さを思い知らされている。
それは、妖怪となった彼女たちにとっても他人事ではない。
「途中で休憩も入れるだろうし、数時間は先のことになる。待っている間、手に入れた『素材』で仲間を増やしておこうか」
何気ない一言。
だけど・・・。
「・・・はい」
悠の返事に、わずかな間があった。
その言葉が、空気を少しだけ柔らかくした。
それはカルマが『モンスター』を『仲間』と表した最初だった。
カルマの中で、抑圧され、凝縮され、硬く、巨大に育っていた『ナニカ』がわずかにではあるが、解け始めた。
そんな、『兆し』だったかもしれない。
本人に自覚はなかったが・・・。
◇
ダンジョンの階層を増やして70階層とした。
それに伴い、カルマたちは拠点を70階層に移していた。
『三途川中学校』の校長室という位置づけである。
そこに、シデムシたちによって『素材』が続々と運び込まれていた。
今回カルマが使おうとしているのは、そのうちの『一山』だ。
後詰C班。『マップ埋め係』である。
生きたまま連れ出すことができず、その場で死亡した者たちだ。
「『レア』ではなく、通常モンスだな」
最高でもAランク。
ネームドのSランク以上にはならない・しないという意味だ。
「シデムシさんたちの上位互換とする」
『学園祭』がテーマで、『妖怪』が属性のダンジョンだ。
シデムシさんが活躍しているのは、おかしいだろうということ。
採取が得意だった彼女たちだ。
『素材』集めも頑張ってくれるものと思う。
彼女たちの存在の残り香を、システムに取り込ませ、モンスターとして再構築していく。
◇妖怪化(後詰C班視点)◇
──静寂の中、魂は目を開ける。
肉体はもうない。
でも、『自分』はまだここにいる。
「・・・これって、夢?」
「そうかも。だって、痛みがない」
「でも、寒い。空気が、冷たい」
空気——彼女たちを取り巻く異質な空間――が、彼女たちの記憶を撫でる。
再構築の作用が、彼女たちの心を静かに変えていく。
「私たち、死んだんだよね」
「うん。でも、終わってない」
「だって、見えるもん。自分たちの姿が」
──肉体が、再構成されていく。
制服が、色褪せていく。
髪が、風に溶けるように揺れる。
目が、光を失い、代わりに『何か』を宿す。
『システム』の働きにより、魂の保持者たちにも『何が』起きているかは知らされていた。
『復活』でも『再生』でも、ましてや『蘇生』でもない。
『再構築』、『再定義』、そして『再誕』。
彼女たちはいま、生まれ変わる。
「これが、妖怪になるってこと?」
「でも、私たちの中身は変わってないよね?」
「・・・ほんとに?」
──『役割』が与えられる。
先導、囁き、守護、斬撃、囮、癒し。
そして、空位。
「名前がある。役割がある。じゃあ、私たちは『誰か』になるんだ」
「でも、それって『私』じゃないかもしれない」
「・・・それでも、消えるよりはいいのかな」
記憶が、彼女たちの頬を撫でる。
このまま、ただ終わるのかと問いかけている。
感情が、胸の奥で小さく鳴る。
まだ生きていたい、生きていた世界が、共に生きた人たちが、どうなるのかを見届けたい。
「ねえ、大人になる前に死ぬかもっては思っていたよね?」
「うん。でも、こんなことがあり得るって、誰も教えてくれなかった」
「でも、もう戻れない。だったら──」
──魂は、肉体に戻る。
それは、かつての自分とは違う『器』。
でも、記憶が残っている。
感情が、脈打っている。
「だったら、せめて綺麗に動こう? 名前があった頃の自分が、羨むくらい綺麗に。前の自分が、恥じるくらい。今度こそ、誰かの隣に立てるように」
今度こそ、自分に正直に。
嫌なことには抗う者でいたい。
「誰かの記憶に残るように」
今度は、忘れ去られる名無しにはならない。
「七人目を探す、その旅が、私たちの『生』になるのなら」
今度こそ、全うしたい。
彼女たちが、現実を受け入れたとき、『システム』の声が流れた。
彼女たちには『役割』と『名前』が与えられる。
──『能力』が、囁く。
「あなたは、先導」
一影は、目を閉じる。
かつて、『お宝』を探していた目と耳が、『素材』探しに使われる。
「道を探すのは、かわらない。探すモノが少し変わるだけ」
彼女は、通路の先に耳を澄ませる。
『探知』が、彼女の足を導く。
──『立場』が、鳴る。
「あなたは、囁き」
二影は、口を閉じたまま、声なき声を響かせる。
かつて、冗談を言って場を和ませ、厳しいことを言って叱咤していた彼女。
今は、敵の心に『迷い』を植えつける。
「言葉はもういらない。ただ、揺らせばいい」
仲間たちの精神的支柱だった彼女が、今度は敵の支柱を折りに行く。
──盾が、立つ。
「あなたは、守護」
三影は、腕を広げる。
かつて、仲間の盾となっていた彼女。
今は、六影を守る殻となる。
「痛みは、私が受ける。それが、私の意味」
守りの意志が、ダンジョン内に眠る『守護』の素材を見つけ出す。
──剣が、裂く。
「あなたは、斬撃」
四影は、剣を握る。
かつて、誰よりも早く敵に飛び込んでいた彼女。
今は、影の刃となって敵を断つ。
「切ることが、私の言葉。それでいい」
敵を斬る意思が、『武器系素材』を見つけ出す。
──風が、揺れる。
「あなたは、囮」
五影は、笑う。
かつて、敵の注意を引き、回避することで仲間を守った彼女。
今は、敵の目を引き、仲間を守る。
「見られるのは慣れてる。でも今は、見せるために立つ」
風が、彼女の髪を揺らす。
敵の魔力は、彼女を無視できない。
──杖が、灯る。
「あなたは、癒し」
六影は、手を差し出す。
かつて、誰かの傷と痛みを気にしていた彼女。
今は、影の中で痛みを和らげる。
「触れることが怖かった。でも、今は違う」
癒しの力が、彼女の胸に灯る。
『薬品・治癒素材の採取』。
──闇が、沈黙する。
「あなたは、空位」
七影は、まだいない。
彼女たちは、探し続ける。
誰かが『ここにいたい』と願った瞬間、七影は生まれる。
それは、誰かの祈りかもしれない。誰かの涙かもしれない。
それは、誰かの死かもしれないし、誰かの喪失かもしれない。
──迷廻七影、誕生。
魂は、影に乗って歩き出す。
影は、彼女たちの足元に連れ添う。
そして、彼女たちはもう『人間』ではない。
でも、『誰かの隣』にいたいという願いだけは、まだ残っていた。
◇
「完成だ」
七人と言いながら6人しかいない。
七人目を求めてダンジョンを彷徨い続けている・・・設定だ。
学園祭風に言うと・・・美化係?
校内を回って掃除をするイメージ。
「掃除する一番の対象は『お客様』だけどね」
カルマは、微笑んだ。
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