『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

文字の大きさ
84 / 327
全年齢対応・表現マイルドバージョン

第83話 最後の10人① ~傘を差す女~

しおりを挟む
 

 本隊先行部――レイド最後の10人は66階層を驀進していた。
 ダンジョン側の最高戦力が65階層に集まっているからではあるが、何より一葉が前へ、前へと出ているからだった。

 「65階層での『前へ』が効いているな」
 リーダーは密かにそう感じていた。

 隊列を分断させる指示を出したことが負い目となっているのだ。
 後ろの者たちを置き去りにした形となる。
 成果なしで帰ったのでは顔向けできないと思っているのだろう。
 事実その通りなのだし。

 だが、『ダンジョンマスター』のドロップアイテムを手に入れて戻れば、「追いつけそうだったから追跡を優先させた」と言い訳も立つ。
 面目を保って帰還するには、『目的物』の持ち帰りが不可欠の状況となっている。

 「見えたわ! 67階層の入り口よ!」
 襲い掛かってくるBランクモンスターを蹴散らして、彼女は進んでいく。

 その先に『絶望』が待つとは、まだ知らない。

     ◇軒先で待つ女視点◇

 「そろそろ・・・かな?」
 ありはしない空を見上げて、少女が呟く。

 それは雨を待つようでもあり、降る雨を憂いるようでもある。
 だが、少女にとってはどちらでもいいことだった。
 降るにしろ、降らないにしろ、少女のすることは変わらないから。
 
       ◇

 最後の10人。
 彼らは今、69階層を進んでいた。

 次は70階層。
 節目となる。
 そこが、最深。

 誰もがそう感じていた。
 そして、それは事実でもある。

 「いよいよ、大詰めだね!」
 一葉が声を弾ませた。

 「ああ、そうだな」
 レイドリーダーも相槌を打つ。

 終わりは近いのだ。
 間違いなく。
 だから、驚きはない。

 「フロアボスがいるな」
 70階層への通路があるだろう最奥の空間。
 ボス部屋に人影があった。

 「カサを差している?」
 誰かの呟き。
 そのシルエットは確かに、傘を差しているように見える。



 『ソレ』は、夜の雨を待つように静かに佇む少女の形をしていた。
 長く流れる白髪が肩から胸元へと波のように落ち、顔の半分を覆う前髪が、片目を隠している。
 見えている右目は、燃えるような赤。
 その瞳は、炎ではなく、濡れた闇の中で灯る灯火のように静かに光っている。

 頭上には、大きな唐傘。
 傘の天辺には赤い四角の窓のような穴があり、そこから空気が抜けるように、彼女の気配もどこか遠くへ流れていく。

 傘の影が顔を覆い、表情を曖昧にすることで、感情の読めなさが際立っていた。
 黒い着物は肩を落とし、袖は広く、風に揺れるたびに水墨画のような静けさを纏う。
 その指は長く、骨ばっていて、雨粒のように冷たい。


 「唐笠お化け『差傘ひより』だってよ!」
 『鑑定』持ちが伝えてくる。

 「ネームドか」
 名前持ち。
 ランク上位の強敵ということだ。
 
 「70階層への通路を守ってるんだ。それくらい想定内だ。行くぞ!」
 気合を入れ直して、最終戦力が構えた。

 決戦が始まる。



 始まりは魔法の咆哮だった。
 『対虫用』に揃えられた『火』が降り注ぐ。

 「降るのを防ぐのが傘よ」
 淡々とした囁き。

 ひよりの持つ傘が魔法の『火』より鮮やかな『赤』に変わる。
 『火』は霧散した。
 
 「想定内だ!」
 傘に魔法を弾かれるのは経験済みだと、リーダーが吠えた。
 構えた大剣が光を帯びて、輝きを放ち始める。
 魔法が注意を引いている間に肉薄していたのだ。

 「降り注ぐ光を防ぐのも、傘の役目」
 傘が『黒く』なる。
 閉ざされた傘が降られ、剣もまた弾かれた。

 「畳掛けろ!」
 弾かれてバランスを崩した体勢のまま、リーダーが指示を出す。

 一撃入れれば、流れを引き寄せられる。
 手数で勝負をかけようというのだ。

 剣と槍が刃を光らせる。
 魔法が照らす。
 矢が煌めく。

 「傘は開く」
 魔法陣が点々と広がった。
 雨の日の水たまりに落ちた雨粒。
 その波紋のように。

 色とりどりの傘が花開いては散っていった。
 魔法陣が広がるたび、傘が色を変えていく

 火曜の赤は、あの子が好きだった色。
 水曜の青は、雨の日に笑っていた彼の傘。
 曜日ごとに変わる、心の色。

 色は、誰かの記憶を映している。
 気分と天気で変わるのも『傘』だった。
 

 「防ぐだけかよ!」
 槍を突き出した男が挑発した。

 守りに隙が見られ無い。
 攻撃に転じさせて隙を誘おうとの狙いがある。

 「傘には骨がある」
 傘が浮かんだ。
 手元に残る柄は・・・柳の葉のように細い『刀』だった。

 「チッ!」
 間合いの差から槍には不利とみて男が下がる。

 「なっ?!」
 男が押し戻された。
 宙に浮いていた傘が、背中を押している。

 「傘には『生地(うす)』もある」
 言葉とともに刀が降られた。

 「させるか!」
 盾を持った大男が割って入ろうとした。

 「傘は隔てるもの」
 ひよりが呟く。
 無形の障壁が、大男の接近を阻止した。
 
 内と外。
 境界を分ける『傘』の特性による障壁だった。

 槍の男は左肩から袈裟を掛けられ、命を閉じる。
 袈裟は心臓の上にもかかっていた。

 「『エリクサー』は?!」
 万能蘇生薬の作成者に視線が集まった。

「だ、出せない!」
 使用を考えていなかった。
 換金アイテムとしてしか扱ってこなかった。
 その、弊害だった。

 戦闘中に開けられるアイテムボックスには中級ポーションしか入っていない。

  ◇差傘ひよりは問うている◇

 雨は降っていない。
 けれど、彼女の周囲にはいつも、降り損ねた雨の気配が漂っている。

 差傘ひよりは、傘を差して立っていた。
 それは防御のためではない。
 誰かの痛みが、また降ってくるかもしれないから。
 誰かが、また見捨てられるかもしれないから。

 彼女は怒っていない。
 悲しんでもいない。
 ただ、問いを持っている。

 ——あの時、誰を見なかった?
 ——この手は、誰に届かなかった?
 ——今、目の前にいるこの人は、誰かを見捨てたことがあるだろうか?

 彼女の傘は、攻撃を防ぐ。
 けれど、それは『守る』ためではない。
 問いを届けるために、立ち続けるための最低限の距離だ。

 敵が剣を振るうたび、彼女は傘を傾ける。
 魔法が降るたび、傘の色が変わる。
 それは、誰かの痛みを映す色。

 そして、彼女が刀を抜くとき。
 それは、問いが届かなかった者への返答。

「あなたは、誰を見捨てたの?」

 その問いに答えられない者だけが、彼女の傘の『中骨』に斬られる。

    ◇

「誰を見捨てたの?」
 その言葉に、魔法使いの少女が一瞬手を止めた。
 彼女の瞳が、過去の誰かを思い出していた。

 それは彼女だけではない。
 誰もが、わずかずつではあっても心当たりがあった。

 最高戦力。
 それは、弱い者たちを切り離してきた歩みそのもの。
 命まで失わせるものはなかったが、置き去りにした経験を持っている。

 そうでなければ、この地位にはいられない。
 それが現実。

 だから、誰もが口を噤んだ。
 噛み締めた歯の間から、軋むように『誰か』の名前が紡がれかけては解けていく。

 口ずさむ恋の歌が、雨音に、かき消されていくように。

 魔法使いの少女は、そっと傘を差し出すように手を伸ばした。
 それは、誰かに届かなかった手の記憶。
 そして、今から届かせようとする意志。

 届く未来は、曇っているけれど。

 残り、9人。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...