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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます
第8話 『ダンジョンマスター』 ~処刑の鐘~
しおりを挟む『ダンジョンマスター就任を受けますか?』
足元に魔法陣が浮かび上がる。
頭の中に響く『システム』の声が、最終アンサーを求めていた。
画面に「就任しますか?」の文字が浮かんだ瞬間、背後の空気が静かに震えた。
迷宮が、オレを見ていた。
その視線は、誰よりも優しく、誰よりも冷たかった。
まるで、『おかえり』とでも言うように。
「引き受けます」
しっかりと答えた。
覚悟は、とうに決まっていた。
『ダンジョンマスターの引継ぎが行われます』
「・・・う、あっ」
魔法陣が輝き、空気が震える。
迷宮が、オレを見ていた。
そして、静かに──頷いた気がした。
『ダンジョンを再構築・・・・・・失敗しました。再構築には『ダンジョンの再誕者』の称号が必要です。条件を満たしてから再度お試しください。また、異物の排除も併せて行ってください』
条件? 異物?
すぐに理解できた。
異物──それは、『探索者』たちのことだ。
数は265。
目の前に展開された三次元モニターに、彼らの位置が映し出されている。
誰一人、死んでいない。
今はセーフティエリアで態勢を整えている最中らしい。
「システム、現状でオレにできることは?」
『配置モンスターの変更、ドロップアイテムの変更、トラップの変更、宝箱の変更、が可能です』
「変更の方法は?」
『ダンジョン内に蓄えた魔力を消費して行います』
三次元ウィンドウが展開される。
ダンジョンの全体像。
モンスターの配置、トラップ、宝箱の位置。
そして、ダンジョンのステータス。
【ダンジョンステータス】 ・レベル:1 ・階層数:64 ・系統:『蟲』 ・耐久度:5000 ・蓄積魔力:73000
「ふむ・・・わからない。けど、今は迷ってる暇はない」
レベル1──マスターが変わったばかりだからだろう。
階層64──再構築されていない証。
系統『蟲』──出現モンスターの分類。
「えーと。耐久5000は最低値ってことで間違いないな?」
『その通りです』
「73000は高すぎないか?」
『レベルが下がったため、使用できなくなった構成要素を魔力変換した結果です。現在のレベルでは、毎時80の上昇しか見込めません』
なるほど。
変換されたものが少なかったのだろう。
多くは、旧ダンジョンのまま残されている。
「その魔力を使って、各種変更ができるわけだな?」
『厳密には、魔力100につき1の『ダンジョンポイント』を得られます。これを消費して変更を行います』
「つまり、まずはマナポイントを集めて、ダンジョンポイントに変換。そののちに改造していく・・・でいいのか?」
『その通りです。また、ダンジョンポイントはレベルアップにも必要です』
「・・・逆に言えば、レベルが上がらないと強いモンスターは作れない?」
『はい。レベル1では、レベル1のモンスターしか作成できません』
「え? ちょ、待て!」
「じゃあ今このダンジョンには、レベル1のモンスターしかいないのか?」
『いいえ。現行のリポップ分は、旧仕様のままです。これから倒された分については、レベルに応じた再配置となります』
「ぐっ・・・」
つまり、今の戦力が尽きる前に、レベルを上げなければ詰む。
時間との勝負だ。
カルマは、迷宮の主になった。
でも、迷宮はまだ『彼のもの』ではない。
これから、証明しなければならない。
この迷宮が、カルマの意志で動くことを。
「出せるモンスターは『蟲』だけか?」
『その通りです。カタログをご覧になりますか?』
「見せてくれ」
3Dウィンドウに、虫型モンスターの一覧が表示される。
サイズ、能力、特性、すべてがカスタマイズ可能。
表示されたのは、羽音、毒牙、群れ、擬態、孵化、寄生── どれも、静かに、確実に、侵食する者たち。
「・・・悪くない」
派手さはない。
だが、確実に蝕む。
それは、オレのやり方に似ていた。
だが、すべては『ポイント』次第。
「魔力上昇は毎時80ってことだけど、それ以外に手に入れる方法は?」
『異物が魔法を使用した際、余剰魔力を吸収できます。不発や外れた場合も同様です』
──なるほど。
無駄撃ちを誘えば、こちらの糧になる。
「よし、方針は決まった」
魔法を撃たせる。
マナポイントを蓄える。
ダンジョンを育てる。
「・・・いや、待てよ」
73000のマナポイント。
つまり、730ダンジョンポイント。
「レベルを上げるのに必要なポイント数は?」
『レベル5までは1レベルにつき30。5から10は50。10から20は100。以降は5刻みで、レベル数×50ずつ加算されます』
「よし。レベルを10まで上げてくれ」
合計400ポイントを消費。
残り330は、今後の布石に。
「さて・・・虫だけで、どうやって終わらせる?」
主力とは戦えない。
消耗するだけだ。
新たな強敵も作れない。なら──
「主力は足止めする。絶対に。ここで時間を稼ぐ。彼らが『勝利』を信じている間に、『敗北』を仕込む」
それが、唯一の勝ち筋。
奴らが再突入するまでに、こちらが『未知』を作る。
「システム。64階層のモンスターに変更を加えてくれ」
『変更内容を提示してください』
「三段階に分ける。序盤は得意属性と弱点属性を入れ替え。中盤は現状維持。終盤は完全ランダム」
モンスターそのものは変えられない。
だが、ステータスの変更はコストなし。
そこを突く。
『変更完了しました』
「よし。続いて──敵戦力を削る戦略を考えるぞ」
主力を避け、他の者たちでポイントを稼ぐ。
魔法を撃たせ、無駄撃ちを誘い、魔力を吸い上げる。
ダンジョンは、もう『彼らの舞台』じゃない。
ここは、オレの世界だ。
そして、オレはもう──『ただの人間』じゃない。
◇
朝が来た。
それは、祝福ではない。
ただ、処刑の鐘が鳴るまでの静寂だった。
レイド本隊が、再び64階層へと突入していく。
彼らは、勝利の余韻を引きずっていた。
英雄譚の続きを、当然のように期待していた。
だが──この迷宮は、もう彼らの知っている場所ではない。
配置は変わった。
属性は逆転した。
罠は、彼らの記憶を裏切るように潜んでいる。
『知っている』という油断が、最も深い罠になる。
本気の死闘。
オレは、もう誰のためでもない。
自分の意思で、この戦いを始める。
その幕が、静かに──切って落とされた。
あいつらが戻ってくる。
オレを捨てたまま、勝利だけを拾いに。
「何人、たどり着けるかな?」
オレは、待つだけでいい。
この迷宮の主として。
この世界の支配者として。
迷宮は、静かに呼吸を始めた。
それは、カルマの鼓動と重なっていた。
そして──その答えは、静かに、確実に刻まれていく。
迎撃という反撃が始まる。
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