『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第31話 蛙飛びする愉快な女の子◇仁科悠視点

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 カルマが上機嫌に笑っている。  
 63階層にいくつかの『巣』を作り、さらに『育成施設』まで建設中だという。  

 捕らえた人々を一カ所に集め、モンスターの成長に利用するための空間。  
 卵を産みつけ、成虫になるまで育てる──主に『餌』として。

 私は、今やその一部。  
 かつて『再生虫』の実験体として放置されていたが、今では『ペット』のように扱われている。

 すでに生まれた虫は第一陣が巣立っていた。
 何もないところから作るよりも、一割増でステータスが高くなると大喜びだった。
 『エナジードレイン』を使えるモンスターが増えたとかで、『マナポイント』も儲かっているようだ。

 だからなんだね?
 私にかまうようになったのは。

 『再生虫』の実験をしてからは、放置されていたのに。
 今では、ちょこちょこ弄られる。

 モンシロチョウを飛ばして、追いかけさせられるのだ。
 もう、ペット扱いだ。

 ふざけるなと言って拒否したい。
 だけど、ムリ。
 追いかけてしまう。

 ピョン、ピョン。

 なんとかならないものかしら、これ?
 移動しようとすると、なぜか蛙飛びになる。

 自分では歩いているつもりなのだ。
 それなのに、実際は跳ねている。
 
 でも、きっと跳ねるのは、私が軽いから。
 そう思えば、少しだけ自由になれる気がする。
 
 でも――

 その姿勢が、誰かに見られていると思うだけで、心がざわつく。

「ペット扱い・・・蛙飛び・・・なんなの、これ・・・」

 羞恥心が、じわじわと胸を締めつける。
 自分の意思で動いていないことが、『見られる』ことで、演出に変わってしまう。

 私は、もう『演じる存在』になってしまった。

 服も、まともとは言えない。
 布の面積より、強調する意図のほうが多い気がする。

 演出として整えられた格好が、余計に意識を集中させてしまう。
 でも、それが今の『普通』になってしまっている。

 これが、どんな状態かはわかるだろう。
 ちょっと『女』っぽさが過ぎる姿なのだ。

 誰かに見られている気がする。
 でも、誰かに見てほしい気もする。
 見られて、恥ずかしくて、苦しくて──それでも、感情が動く。

 それが、私がまだ『私』である証になる気がして。

 もし、何も感じなくなったら。
 もし、羞恥も痛みもなくなったら。
 そのときこそ、本当に『私』は消えてしまう。

 だから、今はまだ大丈夫。
 恥ずかしい。
 苦しい。
 それが、私の最後の『灯り』。

『私』でいるから、苦しい。
 でも、『私』を捨てたら、もう戻れない。
 どっちが正しいのかなんて、もうわからない。
 ただ、今はまだ──揺れていたい。
 沈む前に、もう一度だけ、自分の名前を思い出したい。

 そんなことを思う間も、顔は正面を向いたまま。
 動かすこともできない。
 口元は笑顔を保ち、目線は少し上向き。

 視線の先に誰がいるのか、わからない。
 でも、誰かが見ている気がする。
 その気配だけが、私を『私』に引き戻してくれる。

 呼ばれれば、跳ねるように近づくしかない。
 歩こうとしても、なぜか体が勝手に跳ねてしまう。

 私は、私の意思では動けない。
 涙すら出ない。
 それでも、心の奥では何かが叫んでいる気がする。

「ご飯だよー」
 優しげな声が響く。
 喉の奥がざわつき、体が勝手に反応する。

 目の前には、小さなモンスター。
 餌として設計された存在だった。

 拒否したい。
 でも、本能から口が開き、舌が動く。

 その感触に、かつての記憶が不快感を訴える。
 それでも、体は命令通りに動き、摂取を終える。

「もっとほしい」
 そう言っていた。
 空腹だった。

 あの夜──仲間を犠牲にして得た勝利。
 その宴の食事が、私の『人』としての最後の記憶だった。

 ああ、そうか。
 仲間を殺して笑っていた私は、もう『人間』じゃないのかもしれない。
 とっくに、『人間』ではなくなっていたのだ。

 なら、なんなのか?
 わからない。

 わからないけど、『わたし』は『私』を覚えている。
 きっと『人』ではいられている。

 蛙飛びは、私自身のせい。
 どこかで、『人間』を名乗るのがおこがましいと思っている。

 カエルぐらいが、丁度いいのかも、と。
 仲間を見捨て、仲間に殺された存在には。
 
 もう『人間』じゃない。
 でも、『何か』ではある。

 跳ねる。
 笑う。
 食べる。
 それが私の『役割』なら、そうしていればいい。

 だけど、心の奥で誰かが叫んでいる。
「それでも、わたしは私だ」って。

 その声が、いつか届くなら。
 私は、まだ沈みきっていないのかもしれない。

 カルマは『わたし』をどうしたいんだろう?
『ソウルポイント』を稼ぐモノ?
 暇つぶしに使えるペット?

 カルマは、何かを笑っていた。
 モンスターの成長。
 ポイントの増加。
 それが、彼の『呼吸』だった。
 何もしていないときには、私以上に生きているのを疑う顔をする。

 私は、少し離れた場所で跳ねていた。
 呼ばれていない。
 でも、見える位置にいる。

 服は、演出されたまま。
『女の子』として見られているのか、ただの『演出素材』なのかは、わからない。

 でも、側にいられる。
 それだけで、少しだけ心が温かくなる。

「名前を呼ばれなくても、目が合えば、それだけで『私』になれる気がした。」

 せめて、誰かの記憶に残る『何か』でいたい。
 それが、私の最後の支柱。
 たとえ、カルマが私を見ていなくても。
 たとえ、私の存在が彼の記録にすら残らなくても。
 でも、その支柱は、まだ消えていなかった。

 誰かが、私の名前を思い出してくれるなら。 
 たとえそれが、『人間』としてではなかったとしても。



 ウィンドゥを見つめ、何事か悩むカルマの背中。
 そこに、『何か』が見える気がした。
 それは——

 たぶん。

 希望。
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