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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます
第36話 カエル女の憂鬱◇仁科悠視点 ~前編~
しおりを挟む『ダンジョンマスター』——通称『ダンマス』。
カルマが戦闘を指揮している。
3Dウィンドウ越しに見るその姿は、まるでゲームでもしているようだった。
その隣で、私もゲームをしている。
都市開発ゲームだ。
ウィンドウに広がるのは、ダンジョンの片隅に設置された『巣』の全景。
六角形のユニットが整然と並び、稼働率、栄養循環、魔力生成量がリアルタイムで数値化されている。
まるで、住宅地に公園を設置して住民満足度を上げるような感覚。
でも、ここに住んでいるのは人間じゃない。
ただの、資源だ。
目的は明確。
新世代の『虫』たちと『魔力』の生産。
私はウィンドウ越しにモンスターたちを管理し、巣の維持を行っていた。
それは、奇妙な充実感を伴う作業だった。
巣は、機能性抜群のカプセルホテルのような構造をしている。
六角形の壁面に沿って、無数の人間が収められている。
裸の身体が寸分の隙もなく間仕切りに嵌め込まれ、粘着質の膜で固定されていた。
拘束具は不要。
巣の設計そのものが、行動の自由を吸収している。
目を開けていても、何も見えない。
音も、匂いも、感覚も、すべてが鈍く、遠い。
ただ、口元に押し込まれる栄養と、体内を這う再生虫のぬめりだけが、『生』を知らせてくる。
――はずだ。
巣に収める際、身体は慎重に『整形』される。
不要な骨や肉は切除され、滑らかな断面に加工される。
切り離された肉片は蜂型の作業虫によって丸められ、粘液で包まれた『肉団子』となる。
それは、黒光りするシデムシによって口元に押し込まれ、反射的に飲み込まれていく。
味覚も意思も、もう必要ない。
排泄物は巣の底部から吸引され、下層の処理室へ。
シデムシたちが選別し、栄養価の高い部分をペースト状に加工する。
それは、孵化したばかりの幼虫たちに離乳食として与えられる。
羞恥も嫌悪もない。
ただ、効率と循環だけが支配している。
巣の稼働効率を維持するため、定期的に『照射時間』が設けられる。
人工的に調整された日光が、個体の皮膚に均等に届くように差し込まれる。
温湿度は常に最適化され、皮膚表面の状態は監視虫によって記録される。
骨密度の低下を防ぐため、筋肉には微弱な電気刺激が加えられ、反射的な収縮が起こる。
すべては、パーツとしての人間を長期的に稼働させるための措置。
壊れた部品を交換するより、手間がかからないというだけの話だ。
ひとつのユニットが赤く点滅する。
内部の個体が、稼働限界に達したようだ。
私はウィンドウをタップし、再配置の指示を出す。
数秒後、蜂型の作業虫が現れ、巣の構造を滑らかに変形させる。
ユニットが開き、個体はゆっくりと引き出され、低負荷エリアへと運ばれていく。
そこでは再生虫たちが待ち構えていた。
彼らは個体の損傷箇所を確認し、必要な部位に群がって修復を始める。
筋肉に刺激を与え、皮膚を再生し、魔力の通り道を整える。
修復が完了すれば、個体は再び高効率ユニットへと戻される。
使える限りは使う。
それが、巣の方針だ。
私はその一連の流れを見届けながら、胸の奥にじんわりとした熱を感じた。
「・・・これで、回収率が3%は上がる」
そう呟いた声は、どこか嬉しそうだった。
それが自分のことだと気づかないふりをして、私は次のユニットに視線を移した。
最初は、ただの作業だった。
目の前の数字を見て、最適化を繰り返す。
どの個体が限界か、どの巣が非効率か、どの虫が過剰に資源を消費しているか。
でも、気づけば私は、数字の変化に一喜一憂していた。
魔力回収率が1%上がるたびに、胸の奥がじんわりと温かくなる。
まるで、ゲームのスコアが更新されたときのような、あの感覚。
その裏で、何人が『再配置』されたのか。
どれだけの肉が削がれ、どれだけの排泄物が幼虫に与えられたのか。
そんなことは、もう考えないようにしていた。
だって、考えたら壊れてしまう。
だから私は、目を逸らす。
人間というラベルを剥がし、ただの『資源』として扱う。
その方が、ずっと楽だ。
そして、楽になった分だけ、作業は楽しくなっていった。
数字が伸びる。
グラフが跳ねる。
効率が上がる。
それだけが、今の私の『生』の実感だった。
生産効率が上がり、グラフの数値が跳ねた。
一定の数値を超えたのだ。
その瞬間、ウィンドウの端に小さな通知が現れる。
《魔力回収効率向上:報酬ポイント+1》
それだけのことなのに、心が跳ねた。
まるで、芸を成功させて頭を撫でられた犬みたいに。
ご褒美は、たとえば甘い香りのする空気だったり、少しだけ自由に動かせる時間だったり。 ほんのわずかな快楽が、私の中の『人間』をなだめてくれる。
十ポイント貯めると、カルマに手を握ってもらえる。
私からおねだりした、ご褒美だ。
五分間だけ。
それだけでいいから、人のぬくもりに触れていたかった。
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